システム思考

Systems Thinking

ものごとの全体像を捉えるフレームワーク「氷山モデル」

氷山モデルとは、システムの全体像を氷山にたとえ、私たちが魅惑されがちな「できごと」は海面上につきだしている氷山の一角に過ぎず、海面下の目に見えにくいところに「パターン」「構造」「意識・無意識の前提(メンタル・モデル」があるとするシステム思考のフレームワークです。

私たちは、うまくいったときも、問題に直面したときも、目に見えやすいできごとに注目し、一喜一憂することが多くないでしょうか? システム思考では、ものごとをできごとレベルで捉えるのではなく、全体像がどのようになっているかを探求するアプローチです。

the Iceberg model 氷山モデル

システム思考では、関心のあるシステムを氷山に見立てて、できごとの奥にある「パターン」「構造」「意識・無意識の前提(メンタル・モデル)」の層について探求し、よりレバレッジのある学習と介入を目指します。

ものごとの表面に現れていない部分、氷山の全体像をみるにはいったい、どのようにすればいいのでしょうか。例を使って考えてみましょう。

1魅惑的なできごとだけに囚われない

「社員に改善提案を求めたが、ほとんど出てこない」
「売上が落ちた」
「またクレームが来た」

私たちはこのようなできごとがあったときに、すぐに「売上を上げるために何をしたらよいか」という対策や解決策を考えようとします。ここで「なんとかしなくては!」と思っている問題は、氷山にたとえると、海水面の上に見ている部分であり、それぞればらばらの「できごと」です。できごとはとても魅惑的で私たちの注意の多くがそこに振り向けられます。

しかし、できごとのレベルで解決策を考えても、事後的に「反応」しているだけの対処療法にとどまり、しばらくしてまた同じことが起きたり、別の場所に問題が移ったりするだけで、効果的な解決にはなりません。

2問題を生み出しているパターンを見る

氷山モデルで表されているように、水面上に見えているできごとは、全体のごく一部であって、その下にもっと大きなものがあります。できごとの奥にあるのは、「パターン」です。表面に見えているできごとを過去にさかのぼって考えてみると、「いつも販促キャンペーンの二ヶ月後に売上が落ちている」といったパターンが見えてきます。そして、このまま同じやり方を続けた場合のなりゆきがどうなるか、というパターンも考えることができます。

こうしたパターンを認識することによって、たとえば売上のパターンに応じて受注や発送の人員体制を配置するなど予測して計画的に対応することが可能になります。

3パターンを引き起こす構造を見る

しかし、売上の低下やクレームの発生などのパターンを予測するだけでは不十分なことがしばしばであり、また予測には限界があります。パターンそのものを変えることのほうがより大きなレバレッジの可能性があります。

なぜそうした事象や構造が繰り返し起こるのでしょうか? システム思考の重要な原則は「パターンは構造によって生み出される」と考えることです。私たちは成果や問題は、行動を行っている人に帰因すると考える傾向があります。しかし、複雑なシステムにおいて繰り返し起こる問題のパターンは、人が起こしていると考えるよりも、その人たちにそうした行動をとらせるような構造があると考える方が建設的です。なぜなら、担当者や責任者を入れ替えても、構造が変わらなければ同じパターンが起こりがちだからです。

たとえば、この例で言えば、「販促キャンペーンは、販売店が在庫をつみますことで将来の売上げを先取りはするが、最終消費量そのものは増えず、その反動で、その後の注文が入らなくなる」といった構造があるのかもしれません。このレベルに掘り下げると、構造のどこに働きかければ望ましいパターンを生み出せるかが考え、変化を「創造」することが可能になります。

4根っこにある構造と意識・無意識の前提の相互作用に切り込む

そして、さらに深いレベルには、そのシステム構造の前提となっているいろいろな意識・無意識レベルの前提や価値観があります(メンタル・モデルともいいます)。そもそもの目的や前提のレベルで、誤った目標を追求したり、勝手な解釈や他責、過度の一般化などが見られる場合には、根本を問い直す必要があります。この例でいえば、販売員の間で「後先のことを考えずに、自分の目の前のノルマを達成できればよい」と意識または無意識レベルで思っているのかもしれません。こういった意識レベルに働きかければ、自律的に学習し、つねによりよいパターンへの変化を創り出す個人や組織を作り上げることも可能です。

このように、行為者の視点がどのレベルにあるかによって、行動の特性が変化します。できごとレベルならば反応的な行動、パターンのレベルならば予測や計画に基づく行動、構造レベルならばより創造的な行動、そして意識・無意識の前提レベルならば学習と生成的なあり方からの行動となります。

ピーター・センゲは最下層を除く三層のモデル、ディヴィッド・ストローは四層のモデル、ダニエル・キムは五層目に「ビジョン」を加えたモデルを提示して、それぞれより深い層への働きかけが、レバレッジの高い介入策を生み出すことを伝えます。

また、システム思考の一般的なプロセスの前半は、この氷山モデルを掘り下げていくように設計されています(システム思考のプロセスを参照ください)。

森林問題に見る氷山の全体像

システム思考で地球環境問題を分析した『地球のなおし方』(デニス・メドウズ・ドネラ・メドウズ+枝廣淳子著、ダイヤモンド社)では氷山モデルになぞらえて次のような事例を紹介しています。

【できごと】

アメリカのニューイングランド地方の森林の話を、この見方で考えてみましょう。この森林地帯には製材所がたくさんあり、木を切って木材を作っています。ところが、森に木がなくなってしまって、製材所はみんな封鎖され、破綻してしまいました。「困った」とみんな言っています。これは「木がなくなって製材所が破綻した」というできごとです。

【パターン】

ところでこれまではどうだったのだろう?とニューイングランドの製材所数のグラフを見てみると、波形になっていることがわかりました。あるとき急に増えるのですが、ある時期たつと、急に減っているのです。三〇年くらいたつとまた増えてきます。そして、また減ります。ここから、単独のできごとの背後にある行動パターンがわかってきます。今製材所が「困った、困った」といっているできごとは、このパターンが表面化したものであって、これまでも同じようなことはよくあったのです。

【構造】

では、なぜそのような行動パターンがあるのか?と考えてみると、構造がわかってきます。この問題の構造は、このようなことでした。ニューイングランド地域では、製材所を作って木材を生産しますが、たくさんの製材所ができるので、その地域で伐採できる量よりも多くの木材が必要となり、どんどん木を切ってしまうため、ある期間たつと、森林がなくなってしまいます。すると、木材という原材料がなくなってしまうため、製材所は閉鎖されます。製材所が閉鎖されて、木が伐られなくなって何十年かたつと、森林がまた自然に回復してきます。五〇年くらいたつと前のように戻ります。すると「森林があるじゃないか」とまた製材所がたくさん建ちます。そして、また切りすぎて、森がなくなる......このパターンをずっと繰り返している構造がわかります。

【意識・無意識の前提】

そして、この構造をもたらしているのは、おそらく「あればあるだけ取ればいい」という意識・無意識の前提でしょう。「あればあるだけ取りたい」――だからこのような構造になって、このような行動パターンを生み出して、たまたま今目の前で起こっているできごとをもたらしていることが分かります。

本当の意味で深く、違いある洞察は、システムの構造が独自の挙動パターンを作っていることに、あなた自身がどのように気づくかにある。

――ドネラ・メドウズ

人は周辺環境の創造物ではない。周辺環境が人々の創造物なのである。

――ベンジャミン・ディズレーリ(政治家、小説家、著書「ヴィヴィアン・グレイ」より)

私たちが構造を形づくり、その後は構造が私たちを形づくる。

――ウィンストン・チャーチル(政治家、軍人、作家)

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参考図書

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チェンジ・エージェント社のシステム思考に関するセミナー・研修では、氷山モデルをシステム思考の基本的な考え方及びツールとして紹介しています。氷山モデルは下記のセミナーで紹介しています。

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