News & Columns
(イラスト:斉藤重之氏)
この記事は、日本生産性本部(旧社会経済生産性本部)の発行する『生産性新聞』に弊社が寄稿した連載記事です。同紙の許可を得て、寄稿内容をウェブでもお届けします。連載第1回は、「氷山モデル」についてです。
今日の問題は、昨日の解決策から
「今日の問題は、昨日の解決策から生じている」といいます。IT化を進めても紙使用量は増え、OA化を進めても私たちの仕事は減りません。道路を建設しても渋滞はなくならず、経済が成長しても、生活者の幸福感はむしろ悪化しています。
なぜ次々と課題が生じるのでしょうか?どうすれば課題解決の袋小路から抜け出せるでしょうか?今回から7回シリーズで、課題解決の行き詰まりに効く「システム思考」のアプローチを紹介します。
私たちが課題解決の罠にはまる大きな理由は、「この問題の原因はこれだ」と要素に注目し、「その原因を取り除けば、問題が解決する」と直線的に考えるため、問題の一部だけが切り出され、部分最適に陥りがちだからです。
この罠から抜け出すのに有用なのが、要素ではなくそのつながりを見るシステム思考です。とりわけ、ものごとの「循環」に焦点をあてて、「全体像」を把握して、ものごとの根源まで掘り下げます。
「できごと」は、氷山の一角に過ぎない
例えば、あるメーカーが売上予算に届きそうにない課題状況で、売上不足の一因として卸の販売インセンティブが足りないと分析されました。そこで、流通に対する販促キャンペーンがたびたび実施されました。
しかし、このような解決策は表層的で長期にはうまくいかないもの。「ちょっと待てよ」と立ち止まり、掘り下げて見ましょう。システム思考では課題を氷山にたとえ、「できごと(=結果)」は氷山の一角に過ぎないと考えます。水面下には、時系列上の変化の「パターン」、そのパターンをつくる「構造」、そして構造に関与する関係者の「意識・無意識の前提」があります。
売上のパターンを見ると、キャンペーン期間中は上がるものの、その後は反動で下がっていました。この対策は毎四半期末毎に取られ、上がっては下がりを繰り返し、長期的にはどんどん悪化していたのです。
そのパターンを生み出す構造はというと、キャンペーンでは、いずれ受注される注文が前倒しされるばかりで新たな需要は生んでいませんでした。むしろ、頻繁な販促キャンペーンから消費者は安物イメージを抱き、価格競争力も市場シェアも低下して売上が伸び悩んでいたのです。売上が足りないとその都度販促キャンペーンが行われるので、さらに安物イメージが強まる悪循環にはまっていました。
現在の構造を作っている、「意識・無意識の前提」は何か?
この構造を作る意識・無意識の前提は、「自分たちの仕事は売上を上げること」「四半期毎に是が非でも数字を作らねばならない」などがあります。加えて、「キャンペーンをすれば短期的であれ売上が上がる」という疑似成功体験のため、うまくいかない解決策を延々と続け、悪循環を繰り返していました。
幸いこのメーカーは、その後ブランド再構築に力を入れることで売上の回復、成長に成功しました。その際、自分たちの「意識・無意識の前提」まで掘り下げることで、いつの間にかはまる構造を乗り越えることができたのでした。
システム思考は、このように袋小路にある課題に対して、対症療法ではない本質的な課題解決に向けて、環境変化へ適応しつつ、構造変化で望ましい未来創造を図り、根源の自分たちのあり方を見つめ直す新しい視点を提供します。
(つづく)
※この記事は、『生産性新聞』に掲載されたものです。