サステナビリティ
成長の限界
ローマクラブより「成長の限界」レポートが発表され、その内容をわかりやすく伝える同タイトルの書籍が出版されたのは、1972年3月2日、今から50年前のことでした。
このレポートは、システム・ダイナミクス手法を使って、長期的に成長を続けている人口と物質経済の成長がこの後どのようになりうるのか探求するために、定量化したシミュレーション・モデルを策定するためのチームによって作成されました。
そのメッセージは、人口や工業が、20世紀と同じようなペースで21世紀も、成長をしつづけたなら、将来的には崩壊につながる、というものでした。
指数関数的な成長を続ける限りにおいて、限界は次から次へと層状に訪れ、市場や技術で解決しようとしても、コストの上昇と設備投資が工業資本の再生産の自己強化型フィードバック以外の用途により多く割かれるために経済や人口は減少に向かう、というのがシミュレーションの結果です。
1972年に出版されたこのベストセラーは、環境保護運動に拍車をかけただけでなく、現代の産業界の根底にあるダイナミクスが、人間の寿命の2-3回分ほどの時間スケールで持続不可能であることを明らかにしました。同時に、著者たちは私たちが選択によって人口や物質の成長を止めて持続可能な発展を遂げれば崩壊を避けることが可能であることも訴えます。
出典:メドウズ他「成長の限界 ー人類の選択」
成長の裏側で起こっていること
「人間活動を支えるためには地球がいくつ必要か?」を表す、エコロジカル・フットプリントを見ると、「成長の限界」が出版された1972年には、0.85個ですんだのですが、現在では1.7個つまり、70%も限界を超えてしまっています。
私たちは成長の表側で起こっていることに注目しますが、成長の陰で起こっていることにはあまり注意を払いません。しかも、裏側で起こっていることは、線形ではなく、非線形に、つまり、全体の中でのある量を超えてはじめて強く表に出てくるものが多いのです。この非線形性のために、私たちは思わぬ罠にはまってしまうのです。
成長の限界から50年
私たちのチャレンジと選択
成長の限界から50年、私たちは極めて難しい舵取りに直面しています。個々の人、あるいは組織の立場で言うならば、成長は重要な原動力です。しかし、地球全体から見ると、すべての人がそれを求めると地球の扶養能力を超え続けるというジレンマです。
個別の労働者や会社の立場で見ると、給与のアップや売上、事業規模の拡大なくして、一緒に働く仲間のモチベーションを高めることが難しくなります。地球規模では有限な限界の範囲で、永遠に成長を続けることは不可能であると告げられても、一方で、成長が続かないという現実は極めて不都合であり、またそれに伴う調整は労働や事業などにおいて大きな不安定をもたらすだろうとの不安が大きくのしかかるのです。
ここにシステム的な課題の難しさがあります。一個人や一組織が、モノの購入利用や事業規模を増やすこと自体に問題があるわけではありません。現実に人口や経済規模が小さかった頃にその問題を感じることがありませんでした。しかし、人口が16億人だった1900年頃であれば何の問題のなかったことも、その5倍近くの人口をもつ今日においてその影響は比較になりません。これが、システム効果です。個々としては、問題の無い行動も、多くの人が同じ行動をとってその絶対量が増えるとその基盤が成り立たなくなるという問題です。
この50年間だけでも、人口は2倍以上、世界GDP(実質ベース)は約4.5倍、そして資源や汚染の量もGDPにほぼ近いペースで増えてきました。それによって、地球環境への再生不可能資源の利用負荷や汚染は、いくつかの分野ですでに限界を超え、他の分野も限界がもうすぐ見えるところまできています。
この状況を切り抜ける方法は、すでに多く話し合われています。循環型経済や再生型経済、資源効率の向上あるいは脱物質化などです。
また、目的や目標を問い直す動きが進んでいます。経済に関わる人にとっては、誰のための、何のための経済か、の問い直しです。株主志向からより広くステークホルダー志向へ、事業の財務価値だけでなく、より広範な経済、社会、環境価値を出すことへの転換は進んでいます。また、暮らしのウェルビーイングや幸福を企業に頼るのではなく、コミュニティの中での社会関係資本を強め、健康や教育のための人的資本を強め、自然資本を護りながらその恩恵の範囲内で生活していくようなライフスタイルや社会のあり方への移行やミックスが、日本国内でも世界でも進んでいます。今後、こうした転換をシステム規模で展開する必要があるでしょう。
私たちは、有限な地球というコモンズを、現世代の80億人近くの人たちと分かち合い、あるいはこれから生まれてくるであろう未来世代の人たちとも分かち合って行く必要があります。今、不安や不快を先送りにできるが物理的に実現不可能な世界を志向するのか、それとも不安や不快と向き合いながらも物理的に実現可能な社会の構築を目指すのか?私たちの選択と実践は続きます。
チェンジ・エージェントでは、システム思考の手法をとおして「成長の限界」が示すような大きな視点で経済や社会をシステムとして捉え、社会、企業のビジョン・方針・戦略策定と組織づくり、人財づくりのお手伝いをしています。
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