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システム思考入門(8) 「システム思考の基本的な考え方(氷山モデル)」

2006年06月26日

望ましい変化を作り出していくために、システム構造をどのように見ていけばよいのでしょうか? システム思考の基本的な考え方とアプローチをご紹介しましょう。

私たちは、「社員に改善提案を出せと言ったのに、ほとんど出てこない」「売上が落ちた」
「またクレームが来た」といったできごとに一喜一憂し、すぐに「売上を上げるために何をしたらよいか」という対策や解決策を考えようとします。ここで「なんとかしなくては!」と思っている問題は、氷山にたとえると、海水面の上に見ている部分であり、それぞればらばらの「できごと」です。このレベルで考えても、事後的に「反応」しているだけで効果的な変化は起こせません。


氷山モデル
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氷山と同じく、水面上に見えているできごとは、全体のほんの一部であって、その下にもっと大きなものがあります。すぐ下にあるのは、「経時パターン」です。表面に見えているできごとを過去にさかのぼって考えてみると、「いつも販促キャンペーンの二ヶ月後に売上が落ちている」といったパターンが見えてきます。そして、このまま同じやり方をしているとどうなるか、というパターンも考えることができます。

たとえば、売上が落ちるたびに、販促キャンペーンをしても、その少しあとに結局売上は落ちてしまうだろう」といった具合です。このパターンがわかったとき、たとえば売上のパターンに応じて受注や発送の人員体制を配置するなど「適応」が可能になります。しかし、本質的には経時パターンそのものを変えなくてはいけません。

このような経時パターンはなぜ生じるのでしょうか? 経時パターンを生み出すのが、氷山でいうと、さらにその下にある「構造」です。システムの構造が経時パターンを作っているのです。たとえば、この例で言えば、「販促キャンペーンは、販売店が在庫をつみますことで将来の売上げを先取りはするが、最終消費量そのものは増えず、その反動で、その後の注文が入らなくなる」といった構造があるのかもしれません。このレベルに掘り下げると、構造のどこに働きかければ望ましいパターンを生み出せるかが考え、変化を「創造」することが可能になります。

そして、さらに深いレベルには、そのシステム構造の前提となっているいろいろな意識・無意識レベルの前提や価値観があります。この例でいえば、販売員の間で「後先のことを考えずに、自分の目の前のノルマを達成できればよい」と意識または無意識レベルで思っているのかもしれません。こういった意識レベルに働きかければ、自律的に学習し、つねによりよいパターンへの変化を創り出す個人や組織を作り上げることも可能です。

『地球のなおし方』(デニス・メドウズ・ドネラ・メドウズ+枝廣淳子著、ダイヤモンド社)で紹介している例を引用しましょう。

アメリカのニューイングランド地方の森林の話を、この見方で考えてみましょう。この森林地帯には製材所がたくさんあり、木を切って木材を作っています。ところが、森に木がなくなってしまって、製材所はみんな封鎖され、破綻してしまいました。「困った」とみんな言っています。これは「木がなくなって製材所が破綻した」というできごとです。

ところでこれまではどうだったのだろう?とニューイングランドの製材所数のグラフを見てみると、波形になっていることがわかりました。あるとき急に増えるのですが、ある時期たつと、急に減っているのです。三〇年くらいたつとまた増えてきます。そして、また減ります。ここから、単独のできごとの背後にある行動パターンがわかってきます。今製材所が「困った、困った」といっているできごとは、このパターンが表面化したものであって、これまでも同じようなことはよくあったのです。

では、なぜそのような行動パターンがあるのか?と考えてみると、構造がわかってきます。この問題の構造は、このようなことでした。ニューイングランド地域では、製材所を作って木材を生産しますが、たくさんの製材所ができるので、その地域で伐採できる量よりも多くの木材が必要となり、どんどん木を切ってしまうため、ある期間たつと、森林がなくなってしまいます。すると、木材という原材料がなくなってしまうため、製材所は閉鎖されます。製材所が閉鎖されて、木が伐られなくなって何十年かたつと、森林がまた自然に回復してきます。五〇年くらいたつと前のように戻ります。すると「森林があるじゃないか」とまた製材所がたくさん建ちます。そして、また切りすぎて、森がなくなる......このパターンをずっと繰り返している構造がわかります。

そして、この構造をもたらしているのは、おそらく「あればあるだけ取ればいい」という意識・無意識の前提でしょう。「あればあるだけ取りたい」――だからこのような構造になって、このような行動パターンを生み出して、たまたま今目の前で起こっているできごとをもたらしていることが分かります。

システム思考は、目の前にあるできごとを単体で捉えるのではなくて、その奥にある経時パターンや構造、そしてその前提となっている意識や無意識の考え方や価値観を見て、最も効果的な働きかけをしようというアプローチです。

個々のできごとは、あるパターンのスナップショットといえます。そして、システム思考では、時間的な視野を広げそのパターン全体を見て、さらにそのパターンを生み出している構造へと視野を広げていくことになります。そのためのツールも追ってご紹介していきます。

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