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システム思考入門シリーズも、おかげさまで22回の連載を重ねてまいりました。今回は、今までのシステム思考入門を振り返ってみましょう。
•第1回「システム思考とは何か、システムとは何か」
•第2回「システム・ダイナミクスとは何か、システム思考との違いは?」
•第3回「システム思考とシステム・ダイナミクスの歴史」
•第4回「システム思考はなぜ重要か?システムの特徴」
•第5~6回「システム思考の特徴とメリット」
•第7回「システムの構造」
•第8回「システム思考の基本的な考え方(氷山モデル)
•第9~10回「システム思考と非システム思考の違い」
•第11~12回「システム思考のプロセス」
•第13回「システム思考の基本ツール① 時系列変化パターングラフ」
•第14~15回「システム思考の基本ツール② ループ図」
•第16~17回「システム思考の基本ツール③ システム原型」
•第18~22回「システム思考の実践」
※全てのアーカイブはこちらからご覧いただけます。
システム思考は、一般システム理論に端を発して、自然科学と社会科学の両分野で、さまざまな考え方が存在しています。中でも、私たちチェンジ・エージェントが紹介するのは、システム・ダイナミクスの理論と実践をもとにしたシステム思考です。(第3回)
システムとは、「多くの要素がモノ、エネルギー、情報の流れでつながり、相互に作用しあい、全体として特性を有する集合体」のことです。生物の細胞のレベルから、人やそのほかの動植物の個体レベル、組織などの集団、社会経済から地球生態系まであらゆるレベルでシステムが存在しています。(第1回)
これらのシステムは、さまざまな要素が複雑に絡み合っていて、その仕組みを理解することはしばしば通常の人の認知レベルを超えてしまいます。システムの理解不足のために、人やグループが変化を目指した行動が、予期せぬ結果や副作用をもたらしたり、あるいは意図する変化が抵抗を受けることがしばしば見られます。これらの現象の多くは、システムのフィードバックによって起こっています。(第4回)
システム・ダイナミクスは、経済や社会、自然環境などの複雑なフィードバックをもつシステムにおいてなぜどのように変化が生じるかを理解し、望ましい変化を創り出すためにはどうすればよいかを考える実践的学問です。ビジネスの戦略・方針策定にはじまり、社会、環境、経済のさまざまな分野での政策策定に応用されています。システム思考は、システム・ダイナミクスの考え方を使いながらも、精緻なコンピューター・モデリングやシミュレーションなどのプロセスを省き、より一般の人に使いやすいツールを使います。(第1回、第2回)
システム思考及びシステム・ダイナミクスの基本的な考え方は、しばしば氷山モデルによって説明されます。すなわち、私たちの関心を集めるできごとや結果は、より長い時間的文脈の中で時系列での「パターン」として理解する必要があること、上昇、下降、安定、不安定、繰り返し起こるなどのパターンは「構造」から起こること、そして構造は私たちがどのようにものごとを見ているかの「意識・無意識の前提(メンタルモデル)」が基盤になって生じています。(第8回)
システムの構造を考えるとき、私たちはしばしばモノやエネルギーなどの物理的なもの、社会構造や目的、ルールなどの制度的なもの、情報フローなどを考えます。システム思考では、さらに人の認知と行動まで構造に含めて考えます。なぜならば、環境が私たちの行動に影響を与え、その行動が環境に影響を与えるフィードバックを構成しているからです。私たちと環境の、そして環境や私たちの中にあるフィードバック構造が、さまざまな変化のパターンを作り出します。私たちは、ものごとがうまくいかないときに、特定の人や外部要因のせいにしがちですが、多くの問題はシステム内部の構造によってもたらされていることが多いのです。(第7回)
システム思考が、いわゆる「論理的思考」や多くの専門分野の学問と異なる特徴には以下のことがあげられます。(第9回、第10回)
1. 木ではなく森を見る
2. 静的ではなく、動的である
3. 一方通行の因果関係ではなく、循環(フィードバック・ループ)を重視する
4. システムの外部からの影響ではなく、内部で起こることに焦点をあてる
5. 要素の羅列ではなく、実際に起こるプロセスに注目する
6. 「測れるもの」ではなく、「大事なもの」に注目する
7. 何かを証明することではなく、目標の達成に役立つことを重視する
システム思考の大きな特徴は、「ちょっと待てよ」と一歩引いて、私たちがどのように環境を認知し、行動するかを見ることにあるといってよいでしょう。できごとを現象だけでとらえるのではなく、どのような因果関係のつながりになっているのか、どのような背景・文脈にあるのかなど、構造の全体像を「見える化」することによって、システムに対する新しい視点と洞察を得ることができます。とりわけ、組織などの集団の文脈では、複雑なシステムの全体像を探り、共通理解を進めるためのコミュニケーションツールの役割を果たします。GMの自動車リース戦略や、デュポンの向上での技術サービス戦略などの事例がシステム思考で得られるメリットを教えてくれます。(第5回、第6回)
システム思考による課題解決は、典型的には次のステップをとります。順番に挙げてはいますが、けして直線的なプロセスではなく、新しい発見や問い直しなどによって前に戻っては繰り返す循環的なプロセスです。(第11回、第12回)
(1) 課題を設定し、だれがクライアントであるかを確認する
(2) 時系列で3種類のパターンを描く
(3) 「今まで」のパターンの構造の仮説を立てる
(4) ループ図を描く
(5) 「このまま」のパターンを確認する
(6) 構造の仮説を現場で確認する
(7) 「望ましいパターン」を創る働きかけを探る
(8) システムの抵抗を予期する
(9) 働きかけ、抵抗への対策を選択する
(10) 働きかけを実行する
最後の実行ステップですが、大きな組織や社会などとくに複雑なシステムにおいては、実験し、確かめながら、広げていくプロセスと理解するほうがよいでしょう。
システム思考のプロセスを進める上で、3つのツールが役立ちます。ステップ(2)で使われる時系列変化パターングラフ。ステップ(4)から(9)で使われるループ図。そして、これら2つのツールを補完し、特にステップ(3)、(4)、(7)で有効なシステム原型です。
時系列変化パターングラフは、過去から現在までの変化(「今まで」パターン)と、現在から未来への変化(「このまま」パターン及び「望ましい」パターン)をグラフ上に記すツールである、できごとレベルではなくパターンのレベルで課題を把握し、目的の明確化するとともに、課題・目的に応じた適切な時間軸を設定するためのツールです。(第13回)
ループ図は、因果関係のつながり、とりわけ、フィードバックの構造を把握するために使われます。まず時系列変化パターンの「今まで・このまま」パターンについてのループ図を描き、そして「望ましい」パターンを創り出すための構造への働きかけについて考えます。(第14回、第15回)
時系列変化パターングラフも、ループ図も、比較的シンプルなツールなので、グループの話し合いにも有効です。システムの中の重要な要素、パターンや因果関係に関してのグループの共通認識や相違点を見つけることができるからです。
システム原型は、個人レベルから地球レベル、生活から社会、経済、環境分野など、世の中のさまざまなシステムに共通して見られる典型的な問題のパターンと構造をまとめたものです。そして、それぞれの構造とパターンには、過去50年にわたるシステム思考の実践から得られた洞察と知恵を知ることができます。「成長の限界」、「問題のすりかわり」などの原型は特によく使われますが、このメルマガでは、「共有地の悲劇」の原型を紹介しています。(第16回、第17回)
システム思考の活用は、学際的に幅広く行われています。その実践例を個人・集団、企業、政府・コミュニティ、文明社会と経済、地球環境と経済社会システムの5つのレベルを紹介しました。(第18回、第19回、第20回、第21回、第22回)これらの実践からも、いかにシステムの構造的な問題が私たちの周囲にたくさんあるかということがわかります。
以上、これまでのシリーズ内容を振り返りながら、システム思考についてまとめてみました。
これからも、メルマガやウェブサイトを通じて、多くのツールの活用例や実践事例を紹介していく予定です。次回から私たちの生活の中でも特に多くの時間を使っている職場に焦点をあてて、「学習する組織」という考え方と実践事例をお伝えしていきます。これからもどうぞよろしくお願いします。