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2種類の「ループ」
システムには、変化を作り出す構造があります。システム構造のもととなっている基本単位は「ループ」と呼ばれる要素のつながりです。世の中にはさまざまな要素がありますが、そのなかにはある要素が別の要素に影響を与えるというつながりを持っているものがあります。
影響を受けた要素がまた別の要素に影響を与え......というつながりがめぐりめぐって、最初の要素に影響を与える、いってみれば「影響を与え、与えられるつながりの輪」がループです。世の中の動きは大変に複雑ですが、そのシステム構造の基本単位であるループは、実は2種類しかありません。つまり、2種類の基本単位をしっかり理解すれば、その組み合わせとして、一見複雑そうにみえる状況や問題も、解きほぐすことができます。
「自己強化型ループ」
ループの種類のひとつは、「自己強化型ループ」といわれるものです。 「○○がますます増える」「××がますます減る」と言ったときには、この自己強化型のループが存在しています。「どんどん」「ますます」という言葉で表されるようなある一定方向へ向かって増えたり減ったりする動きを作り出します。
たとえば、銀行に1万円を預けたとしましょう。年に7%の複利を受け取って元本に組み込んでいくことにすると、1年目の末には、10,000円の7%で700円が追加されます。2年目の利息は、10,700円に対する7%なので749円となり、2年目の末の合計額は11,449円となります。次の1年の利息は801円、合計額は12,250円となり、10年目の末時点での合計額は19,672円というように、預金は加速度に増えます。毎年すでにある額に追加されていくことになりますが、その追加の割合じたいは年7%と定率でも、口座残高が増えるので、追加される絶対額は増えていくのです。これが自己強化型ループの一例です。
ほかにも、人口の増加も自己強化型ループです。「ねずみ算」という言葉があるように、生物の数の増加なども、構造としては自己強化型ループです。
「バランス型ループ」
もうひとつのループは、「バランス型ループ」と呼ばれ、システムが安定する方向へ向けての変化をもたらす構造です。サーモスタットループはその典型例です。その目的は、「室温」と呼ばれるシステム状態を望ましいレベルでほぼ一定に保つことです。目標値(サーモスタットの設定)、目標値からのずれを検知する自動調節装置(サーモスタット)、反応メカニズム(エアコンや扇風機など)という要素を持つバランス型ループを用いることで、この目的を達成します。
ほかにも、ヒトや動物が体温を維持するために汗をかいたりして体温を調整するしくみもバランス型ループです。
先ほども書いたように、システムの変化は、この2つの構造の組み合わせによって引き起こされます。実際のさまざまな変化は、いくつものループが複雑に絡み合って引き起こされますが、基本単位であるループには2種類しかありません。システム思考はこのループを通して構造を理解しようとする思考法ですので、システム思考のワークショップ参加者からも「複雑な物事や状況をシンプルに理解できる」とよく言われます。(私たちもそう思います!)
ループとして考えることで、繰り返し起こる現象における"真の原因"に迫る
ひとつだけ、補足をしておきましょう。たとえば、何かが「どんどん」増えていったとき、そこには必ず自己強化型ループがあるのでしょうか?
「どんどん」増える理由には二つあります。ひとつは、それ自身が自己増殖するものが自己強化型ループの構造にある場合です。さきほどの人口増加を含め、バクテリアから人間まで、生き物はすべて、この例に当てはまります。また、人口だけではなく、経済も工業資本(機械や工場など)もそうです。複利で増える銀行口座の例もそうですし、黒字の企業は投資資金が得られるので、さらに事業を拡大することができます。
「どんどん」増えるもう一つの理由は、どんどん増加する別の何かに突き動かされて成長する場合です。たとえば、食糧生産量や資源消費量、汚染排出量なども、人口や経済と同じように「どんどん」増える傾向がありますが、この場合はそれ自体が増えるからではありません。(生産される食糧が、さらなる食糧を生産するわけではありませんし、汚染が自ら汚染を増やすわけでもありません!)
これは、人口が増えたり生産資本が増えることによって、食糧量や資源消費量、汚染などが増える、ということです。つまり、食糧生産量や物質の消費量、エネルギーの消費量が、加速度的に増加しているのは、それ自体が増えているからではなく、加速的に増加している人口や経済が必要としているから増えてきているのですね。現在、地球の限界を超えるほど資源消費量や汚染物質などが増えていますが、それ自体が問題視すべき原因ではなく、そのおおもとの原動力となっている人口と工業資本の加速的な成長こそが原因であることがわかります。
ここでは環境の側面を例に取りましたが、このように「単に増えている」という現象面だけではなく、その構造を要素のつながりやループとして考えることによって、その真の原因に迫ることができるのです。