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前回に引き続き、システム思考を組織や個人の目標達成、問題解決のために活用する場合の典型的なプロセスを紹介します。
以下の10のステップのプロセスのうち、
(1)課題を設定し、クライアントを確認する
(2)時系列で3種類のパターンを描く
(3)「今まで」のパターンの構造の仮説を立てる
(4)ループ図を描く
(5)「このまま」のパターンを確認する
(6)構造の仮説を現場で確認する
(7)「望ましいパターン」を創る働きかけを探る
(8)システムの抵抗を予期する
(9)働きかけ、抵抗への対策を選択する
(10)働きかけを実行する
前号では、ステップ1から6までで、現状の課題に見られるパターンとその構造を分析するところまでを説明しました。この構造とパターンは「レファレンス・モード(現状のパターンと構造)」というひとつのベースシナリオを作り出します。
ステップ7からは、いよいよ望ましい変化を創るための、ベースシナリオとは異なる別のシナリオを模索します。
(7)望ましいパターンを創る構造を探る
現状の構造やこのままのパターンに関する仮説が確認されたら、いよいよ望ましい変化を創り出すための方法を考えます。ステップ7からステップ9のことを、「ポリシー・アナリシス(代替戦略の分析)」といいます。
システム思考では、構造が変わらない限り、そこから生じるパターンは変わらないと考えます。したがって、「望ましい」パターンと「このまま」のパターンが異なる場合には、望ましいパターンを生じさせる構造に変える必要があります。
この時点では、できるだけたくさんの選択肢を考えることが肝要です。働きかけたいフィードバック・ループにいくつかの要素があるとき、要素のそれぞれや、さらに要素のつながりのそれぞれが働きかけの対象になりえます。私たちは、目の前の解決策に飛びつきがちですが、システムにおいては、問題の真の原因や解決策は問題の近くにあるとは限らないからです。
(8)システムの抵抗を予期する
組織や経済、社会などシステムには、システムの安定を求める性質があるため、働きかけが創り出そうとする変化に抵抗します。ですから、ステップ7で検討した働きかけが、どのようなシステムの抵抗に出会うかをあらかじめ想定し、その抵抗を和らげる方法を考え、できるだけシステムの抵抗が少ない方法を探ることが重要です。
それぞれの対策がさらなる変化を創り出しますから、それらの変化が折り重なって、システムとしての思わぬ抵抗を作り出していることもよくあります。このような複雑なシステムの抵抗は、全体像を見てはじめて気づくことができます。
こうして、ステップ7で考えた働きかけのひとつひとつを吟味し、システムの抵抗への対策を組み合わせて、選択肢を整理していきます。
(9)働きかけ、抵抗への対策を選択する
ポリシー・アナリシスの最終段階は、ステップ7と8で検討した選択肢とその組み合わせの中から、最も効果的な変化を創り出す方法を検討します。
一般的な意思決定の手法と同じように、選択肢のコスト・ベネフィットを比較して最適なものを選びます。目的に対する効果、その達成に必要なヒト、モノ、金、時間などの資源、実現の可能性やさまざまなリスク、リスクへの対策の有無とその有効性などです。効果、資源、リスクなどを考える際にも、システムが与える影響も考慮に入れます。
(10)働きかけを実行する
最適の選択肢を選んだ後には、いよいよ働きかけを実行します。実行の段階で重要なことは数多くあります。ビジョンや目的の共有、PDCAサイクルなどのマネジメントシステム、さまざまな指標の「見える化」、組織内外のコミュニケーションなどです。
これらの要素を包括する、もっとも重要な概念は「学習」です。というのも、システムはあたかも生き物のようにとても複雑で、その行動を完璧に把握するということはできません。あるシステムを把握できたと思っても、そのシステムが時間とともに変化したり、あるいはそのシステムの上位にあるシステムの変化が影響を与えることもあるでしょう。組織の変化はさまざまな予期しないできごとをもたらします。
このようなシステムの変化に対して、継続的に学習し、システムの内外で起こる変化に対して、常に適応していく姿勢が必要です。
以上が、システム思考を活用して、効果的に変化を創り出すための典型的なステップになります。次回からは、これらの各ステップで使われるシステム思考の基本ツールについて紹介します。