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悪い「できごと」を避け、良い「できごと」に満ちた日々を送るには?
- 製品のトラブルのためにリコールとなった。
- 顧客からサービスへの苦情が出た。
- 上司からプロジェクトの遅れを怒られた。
- 担当地域での売上の伸びが落ちた。
などなど・・・
これらはすべて「できごと」です。職場でも、社会でも、私たちのまわりは「ニュース」や「できごと」にあふれて、多くの人の日常の関心事になっています。そして、私たちはみな、できれば悪いできごとは避けて、よいできごとに満ちた日々を送りたいと願っていることでしょう。
しかし、その日のできごとが「吉」と出るか、「凶」とでるかは、おみくじやさいころの目で決まっているわけではありません。
「できごと」は、時間の経過に伴うパターンと捉える
もしかしたら、予測不可能な不運な事態があなたの周りに舞い降りて、あなたの仕事に影響を与えることもあるでしょう。しかし、もしそのできごとを予感させる傾向が見られるとしたら・・・。あるいは、もしそういったできごとが繰り返し起こっているとしたら・・・。
そんなときは、不運だけでは済ませられません。「蝶が舞うと地球の裏側で嵐が起こる」といわれるように、一見つながりのない一連のできごとがその日のあなたの運命を決めているかもしれないのです。
システム思考の重要な特徴は、できごとを単独で捉えるのではなく、時間の経過に伴うパターンとして捉えることにあります。パターンとは、上がる・下がる、増える・減る、強まる・弱まるなど、変化がどのような軌跡をたどっているかをみるものです。増加や減少、あるいは現状維持などのトレンドを示すこともあれば、定期・不定期に上がったり下がったりを繰り返していることもあるでしょう。
望ましくないシナリオ
あなたの周りの問題に関して、過去遡ってみると「今まで」のパターンはどうなっているでしょうか? 売上は今までどのように推移してきたか? 製品の品質はこの数年間で上がっていますか? それとも下がっていますか? ここ数ヶ月の間サービスの質は維持されていますか? プロジェクトの遅れは今回が初めてですか? 前にも起こっていませんか?
もし、そのできごとが、ある傾向やパターンの中に位置づけられるとしたら大変です。「今まで」のパターンが「このまま」続いたとしたら、かなりの確率で、あなたの周りの問題は繰り返し起こることでしょう。悪化することすらあるかもしれません。「このまま」のパターンというのは、あなたにとって望ましくないシナリオなのです。
「もっと一生懸命やろう」だけでは、パターンは変わらない?
このようなとき、あなたは自分を責めたり、不運の引き金となった人やできごとを責めたりしていないでしょうか。残念ながら、自分や他人を責めても、あなたの「このまま」のパターンは変わらないでしょう。悪化の傾向が続く、繰り返し起こるなどのパターンには、必ずそれを引き起こすシステムの構造があるからです。(これは、エドワード・デミングが提唱し、日本で幅広く取り入れられているトータル・クオリティ・マネジメント(TQM)の根底にある考え方です。)
ものごとがうまくいかないとき、私たちはもっと一生懸命やろうとします。残業時間を増やしたり、顧客の訪問回数を増やしたり、とにかく一生懸命になります。また、あるときには責任者を交代させるとか、チームの配置を換えるということを試みます。しかし、いくらがんばっても、人を変えても、あるいは不運の起こらないようにと願っても、残念ながらその構造を変えない限り、「このまま」のパターンは起こり続ける可能性が極めて高いのです。
望ましいパターンを明確にする
しかし、チャンスもあります。もし、そのパターンを起こしているシステムの構造を明らかにして、構造そのものを変えることができれば、「このまま」とは別の「望ましい」パターンを実現することができるでしょう。あなたの周りのシステムは、あなた自身の行動と周りの顧客や同僚、取引先などの行動との相互作用で作られています。あなた自身、あるいはチームとして会社の中で、構造を変えることができる部分はきっとどこかにあることでしょう。
変化の担い手の重要なアプローチは、自らにとって「望ましい」パターンはどのようなものなのか、明確な目標を立てて、そのパターンを実現するにはどのようにシステムの構造に働きかければよいかを考える、というものです。
売上をその商品の潜在的な価値のレベルまで高めたい。製品の不具合・不良をゼロにしたい。顧客サービスを最高の質にしたい。プロジェクトの遅れを3%以内に抑えたい。
いつまでに、何を、どれくらい変えたいのか? あなた自身の目標を明らかにして、現在の立ち位置から、どのような軌跡をたどれば目標にたどりつけるのか? それを表したものが「望ましい」パターンです。
時系列変化パターングラフ
システム思考の基本ツールである時系列変化パターングラフは、これらの3つのパターンをひとつのグラフにまとめたものです。縦軸に、あなたの関心のある変数をとり、横軸には過去から未来への時間軸をとります。そして、そのグラフ上に、「今まで」、「このまま」、「望ましい」の3つのパターンを書き込みます。
変数は、自分の関心のある大事なことを選ぶのがポイントです。定性的な変数でもかまいません。「朝の気分」、「やる気」、「信頼感」など、定量的でなくても大事だと思うものをグラフにしてみましょう。今を基準に上がってきたか、下がってきたか、おおまかな線を描くことはできるはずです。
また、時間軸は少し長めにとるのがポイントです。システムのつながりをたどって及ぶ影響にはしばしば遅れを伴います。したがって、すっかり忘れているほど昔にあったできことが、いまの問題につながっていたということもあるのです。時間軸の単位は、時間でも、週でも、月でも、年でも、課題に応じた適切なものを選びます。
パターンは選択できる
身の回りの課題について、時系列変化パターングラフを描いてみてはどうでしょうか? そうすると、「なんとなくうすうすわかっていたけれど」ということがくっきりとあぶりだされるかもしれません。職場のことなら、グループで描いてみるとよいでしょう。
時系列変化パターングラフの大きな効果は、自らの運命の手綱を握ることです。描きあがったグラフの「現在の地点」から「未来」に向けて見てみてください。あなたは今「このまま」のパターンと「望ましい」パターンの分れ道に立っているのです。
さあ、あなたはどちらの道を進もうと思いますか?