システム思考
社会編
アメリカ医療制度問題(3)
医療費は、疾病・傷害の件数が増えると増加します。またその件数を人口との比で表す死亡率・疾病率の影響も受けます。さらに、症状の現れていない疾患を持つ人も、不調を訴えたり、検査したりなどによって医療費を増やす要因となります。
死亡率や疾病率を上昇させるのは、疾病・傷害件数であり、とくに疾病件数は、症状が現れていない疾患(不具合)が蓄積して、やがて発症します。つまり、医療費削減の鍵は、その大元はである疾病・傷害の件数や、症状の現れていない疾患を持つ人数をいかに減らすことができるか、にあると言ってよいでしょう。
飲食や運動などの生活習慣によって疾病などのリスク要因であることはよく知られています。塩分を取りすぎたり、必要以上にカロリーを摂取したり、習慣的に運動をしなかったり、タバコを吸ったり、不規則な生活をしたりなどといった「リスクのある生活習慣」は、症状の現れていない疾患や疾病・傷害の件数を増やします。
「生活環境上の危険要因」も、傷害件数やリスクのある生活習慣を増やします。人々が、住み、働き、通い、あるいは遊ぶ場所の衛生環境が悪かったり、危険な化学物質や構造物があったり、治安が悪かったりなどがその例です。
また、世帯収入が不安定だったり、少なかったりする「社会経済的に不利な状況」は、しばしば疾病・傷害や症状の現れていない疾患に直接・間接に影響を与えます。たいてい、経済的に恵まれない家庭では、リスクのある生活習慣が頻繁に見られ、また、生活環境上の危険要因が多い場所に住んだり、働くことが多いからです。さらに悪いことに、疾病・傷害を持つことによって、仕事を休む、定職につけない、など、さらに家計が悪化する悪循環に陥ります。
ここに挙げた「社会経済的に不利な状況」、「生活環境上の危険要因」、「リスクのある生活習慣」のいずれもが、医療へのアクセスに不利な状況を作り出して、医療の不公平性を悪化させます。
こういった、社会的な取り組みを進める上で、地域コミュニティの市民団体や非営利組織などの、「市民の自治力」が成否を握っています。
【問い】
疾病・傷害の件数や症状の現れていない疾患の状態を減らすためには、どのような政策をとることができるでしょうか?
【参考】
アメリカ各地での医療改革にかかわる関係者のダイアログを促進するために開発されたシミュレーション・ゲーム「HomeBound」の紹介はこちらをご覧ください。
また、アメリカの医療制度における問題点としての、相対的に医療費が高いにもかかわらず、医療の質が必ずしも高くない構造を示すループ図はこちらにあります。
その構造に対する政策分析として、主に川下対策(すでに罹患した患者向け)の検討を示すループ図については、こちらをご覧ください。
※このループ図は、米疾病管理センター(CDC)のボビー・ミルスタイン氏らによる論文「The "HealthBound" Policy Simulation Game: An Adventure in US Health Reform」を元に作成しています。