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(生産性新聞に寄稿した「袋小路からの脱出」シリーズを、同紙の快諾を得てご紹介します。)
「問題のすり替わり」
疲れているけど、仕事の締めきりが間近に迫っている。そんなときにあなたならどうしますか?
Aさんは、コーヒーを飲んで、眠気をとばしてがんばるそうです。しかし、気がつくと、いつも締め切りを抱え、疲れて、中毒のようにコーヒーばかり飲んでいます。
無論、コーヒーをいくら飲んでも、疲れがとれるわけはありません。コーヒーは、脳神経を麻痺させて、肉体から送られる疲労の信号をブロックする「対症療法」でしかないからです。
疲れをとるための根治療策は、休養や睡眠です。しかし、コーヒーを飲むことによって、休養の時間を削るだけでなく、コーヒーの覚醒作用からなかなか寝付けなかったり、睡眠が浅くなるなど、重大な副作用が生じます。
つまり、「問題→対症療法→副作用→根治策の能力損傷→問題の悪化」の悪循環の構造となって、問題はますます悪化するし、対症療法への依存が強まっていくのです。
このような問題構造を「問題のすり替わり」と呼びます。なぜならば、本来解決策は「疲労の蓄積に向けられるべきなのですが、いつの間にか「疲れを忘れる」ことにすり替わっているからです。
皆さんの職場で、こんなことが起こっていないでしょうか?
問題のすり替りの構造は、職場や社会の中でも実に多く見られます。
Bさんは、部下の能力不足の課題を抱えていますが、能力開発に時間がかかるために、つい細かい指示を出したり、自分でやってしまったりするそうです。すると、目の前の業務は済みますが、部下の心の中では、細かな指示で意欲をなくしたり、「どうせ上司が何とかしてくれる」という甘えや依存心が生まれがちです。やる気がなくては効果的な能力開発はままなりません。
結局、部下はその能力不足のためにいつまでも上司の指示待ち、救済待ちとなる一方で、いつまでも業務がBさんから手離れせず、ますます部下育成にさける時間が減る悪循環に陥ります。
Cさんの会社では、自分たちに手が余る問題に直面すると、すぐに外部コンサルタントらに解決を依頼するそうです。ここでも、内部スタッフの依存心が生まれ、いつまでも組織の問題解決能力は向上しない状況に陥ります。加えて、外部や上からの押しつけの解決策では現場の士気も上がらず、実施が滞って問題が悪化し、外部の救済者への責任転嫁が起こっているそうです。
重要なのは、「何が本当の問題か」を問うこと
このような問題に陥ったならば、まずは立ち止まって全体像を見ましょう。対症療法的な解決策は、むしろ問題悪化につながっているという構造が見えれば、その解決策は行わないか、あるいは副作用にはつながらない実施方法を考えることができます。また、すでにわかっている根治策の実施に時間や資源を割くことも有効でしょう。
もっとも重要なのは、「何が本当の問題か」を問うことです。コーヒーの例では、疲れを忘れることに問題がすりかわっていましたが、本当の問題は疲れの蓄積と回復のバランスがとれていないことにあります。中毒のほとんどは本当の問題からの回避の結果起こっているともいえます。
上司の細かな指示や外部コンサルタントへの依存においても、目の前の業務や成果ばかりに目が行きがちですが、部下たちが学ぼうとする動機や仕組みづくりがされていないことが多くあります。
やる気さえあれば、能力を伸ばす機会は職場でも研修でもいくらでもあります。もし、部下たちが、自律的に学び、育っていないとしたら、何が本当の問題でしょうか?これからの管理者や経営者が問うべき組織課題のひとつです。
※袋小路からの脱出シリーズは今回で最終回です。以前の回をご覧になりたい方はこちらからどうぞ。
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