News & Columns
(image photo by DonkeyHotey on flicker)
(「生産性新聞」で連載した「袋小路からの脱出」シリーズ第5弾をご紹介します。)
ゆっくりと迫る変化を、見過ごしてはいませんか?
私たちは、突然襲いかかるものにはすぐに反応できますが、ゆっくりと迫る変化にはなかなか対応できません。
ある食品会社では、十年前にコスト削減の圧力が高まり、工場でコスト改善プログラムを始めました。しかし、相次ぐ改善でコスト削減を図っても、なかなか利益は上がりません。売上が思うように伸びなかったのです。
その原因を調査したところ、「味が落ちている」と、顧客離れが起こっていたのです。そこでさらに調査を続けたところ、顧客離れは十年前から徐々に起こっていることがわかりました。
実は、コスト改善プログラムを開始した時期から、少しずつ品質基準が変わり、顧客は味の変化に気付いて、商品を買わなくなっていたのです。
徐々に顧客が離れることで、収益が上がらず、コスト削減圧力はさらに強まります。こうして、コスト改善プログラムは絶えず続けられ、その都度品質の基準が少しずつ見直されていきました。それによって、徐々に、しかし確実に離れる顧客が増えていったのです。
「ゆでガエル現象」:ある化学会社の工場でのこと
このような事態は、「ゆでガエル現象」と呼ばれます。カエルは、熱い湯に入れるとすぐに飛び出しますが、水の中に入れて徐々に熱すると、温度上昇に気付かないうちに死んでしまうとの寓話に由来します。
ゆでガエルのように、徐々に起こる変化に気付かず、気がついたら死が間近に迫っている組織も少なからず存在します。
ある化学会社の工場では、製造設備の故障率が高く困っていました。故障を減らすには、設備の不具合を点検整備する予防保全が不可欠です。しかし、この工場では、事後対応の故障修理ばかりに明け暮れていました。
直近十数年で起こった原油価格高騰や新興国からの競争、環境規制の強化などの経営環境変化から、コスト削減圧力が高まり、徐々に予防保全要員が減らされていきました。すると故障はますます増え、さらに多くの人員が故障修理に割かれます。生産現場も、稼働率が低いために予防保全を嫌い、ぎりぎりまで設備を稼働しようとします。
こうして、予防保全ができずに故障ばかりが増える悪循環にはまります。組織にもいつの間にか「火消し」の文化が蔓延してしまいます。
ゆでガエルを避けるには?
ゆでガエルのパターンをつくる構造のポイントは、その組織が大切にすべき理念や価値基準が、いつの間にかずり落ちていくことにあります。減収減益からコスト削減の強い圧力にさらされ、背に腹は代えられないとひとたび基準を落とすと、同じことを二度、三度と繰り返すようになり、なし崩し的に基準を下げていってしまうのです。
ゆでガエルを避けるには、目標や基準の設定の仕方を見直すことです。
多くの人は、「現状比○%増、減」といった具合で現状に立脚して目標を定めます。成長局面では、現状と目標は好循環をつくりますが、下がる局面では簡単に悪循環をつくってしまいます。
目標基準を設定する上で重要なことは、まず自分たちにとって、絶対に譲れない目的や長期ビジョンを明確に持つことです。絶対的な目的やビジョンに基づく目標はそう簡単にぶれません。
顧客調査や優良企業との比較調査も、安易にずり落ちない目標設定に役立ちます。例出の企業は、こうした外部の基準との比較がきっかけで、ゆでガエルに対処し、抜け出すことができました。
「しかたない」「まあ、いいか」の気持ちから起こるなし崩しを起こさないためにも、経営環境の厳しいこの時代、組織理念をあらためて浸透させることが重要なのです。