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リーダーシップ開発や組織開発の分野では、心や身体からのアウェアネスを高めるアプローチへの注目が高まっています。そうしたアプローチの一つとして、深層心理学をベースに発展したプロセスワークを活用し、組織や社会などの集団、関係性、個人の間の相似性を見出す手法「システムアウェアネス」実践者の横山十祉子さんから話を伺いました。前回につづき、【2】ではシステム思考との親和性についても紹介していきます。
これまでの対談はこちら
【1】システムアウェアネスとは?~身体性から複雑性と全体像を知る~
小田
システムアウェアネスの特徴として、前回、身体をセンサーとして使ってアウェアネスを高めるということをお話しいただきましたが、初学者にたいして、横山さんはどんなステップをすすめるのでしょうか?
横山
私はロールプレイをよく使います。個人であっても集団であっても、自分以外の別の役割(ロール)になってみるということで違う視点や可能性が見えてくるという方法があります。例えば、自分が部下だとして、上司のロールの場所に移動して上司の役割をやってみる。実際に、空間に自分(部下)と上司のロールをおいてみるということをするのですが、上司のロールから自分(部下)を見てみることを試すと、視野がはっとかわる。その体験を重ねていきます。
小田
場とか空間にロールをおいてみて、実際に象徴的にその場に移動して、そのロールの体験をしてみるのですね。その役割をやってみるとそこからどんな体感がわきあがってくるのでしょう。
横山
自分以外の別のロールに移動して体験してみた瞬間に「ここは落ち着かないですね」とか、「すごく偉くなった感じ」といった感情、感覚みたいなものが、まずはじめに自然にわきあがってくると思います。次に別のロールから、もとの自分のロールをみてみると自分のことを「小さいな」と感じたり、別の視点や感情、風景が見えてきます。
ロールというのは、本来は、全部自分の中にある視点なんです。それを一回ばらしてロールとして一個一個体験しなおしてみるといってもいいと思います。そうすると実際に視点の転換や気づきが起こりやすくなっていきます。
小田
能の世界にも世阿弥の、離見の見という言葉がありますよね。見があって、離見があってさらに離見の見(「演者が自らの身体を離れた客観的な目線をもち、あらゆる方向から自身の演技を見る意識のこと(能楽用語辞典より引用)」)がある、つまり個人のなかに、相手からみる自分や、もっと俯瞰する視点もあるということです。とにかく自分から離れてみると、違った見え方がするということは間違いないですよね。
横山
だいたい、ロールとしておくのは、自分の立場と、課題としている対象、あとは両方をみる俯瞰です。俯瞰する視点を「メタコミュニケーター」とか「源泉」とかという名前をつけて置いてみて、ここで両方をみてみる、3つの立場からそれぞれのロールを見てみるということをやります。
例)
小田
役割、ロールには実際には非生物もあるし、「源」という抽象的な概念もある。ロールはそういう多様性を含んだ単位なのですね。
横山
ロールになって別のロール(役割)から沸き起こる感情を体験することや、別の風景を見ることは、その人が投影して外に見ているものに自分で気づき、理解を深め、自分のなかで、統合されていくことを助けてくれると考えています。
そこにある関係性がより密に繫がって、そこに血とか、エネルギーが流れるというか、そのことによって感情的にもいろいろな選択肢がひろがって見えてきやすくなります。
小田
別のロールになるということを通して、より自分のなかの多様性を知って、その多様性の中に血が通って統合していくというプロセスなのですね。
横山
そうですね。ロールプレイでロールをやってみた人(先ほどの例でいうと実際の上司の人)と次に会ったときに、自分が相手のロールとして感じたものと別の視点や感情を相手がもっていることがわかったとしても、自分の視点からしか見えていなかったときと比べてそういう別の視点や感情もある、ということに共感や想像をしやすくなります。
シンプルですが、それがはじまりだすと、自己組織化的に、どんどんアウェアネス(気づき)を広げていくことができるようになるというのが、面白い部分だと思っています。
小田
気づきと言ったときに、外のことが見えている/いないとか、誤解に気がつくということもあるでしょう。結局、「見えていない」「誤解がある」というのは自分の内側で統合されていない分断されているなにかがあり、それが、外で現象的に現れているとも言えるでしょうか。
横山
個人のことを中心に置いた場合にはそうです。また、個人のなかで起きていることと、世界で起きていることは相似形、フラクタルと考えるので、気づきの最初は個人の場合もあるし、組織だったら組織全体のダイナミクスの変化をきっかけに個人の内側の気づき促すということもあります。
小田
個人のなかにあるシステムも人間関係や、組織、社会のなかのシステムも、基本的なダイナミクスが、同じ構造、相似形を持っていることを、「フラクタル(相似形)」と言ったりします。
自分の中や、あるいは職場のなか、社会でも、それが矛盾やジレンマのようなねじれをもった状態で、解決できないのは大抵の場合、その関わっている個人のなかにもねじれの相似形があり、それに気がついて自分のなかでほどくと、まず自分の見方が変わって、アプローチの態度や、発言や行動も変わるということが起きやすくなりますよね。
組織をよくするとか社会の問題を解決しようといった場合には、そこからどんな風に発展していくのでしょうか?
横山
組織として関わっていく場合には、多くの場合、組織開発の部署や、関連するポストの人たちと関わってグループシステムワークを使ってみんながいろんな立場をロールをとおして体験します。自分達が向き合うべき課題や問題について、そこにいる全員で気づきを共有するということがすごく重要になると思っています。
小田
組織プロセスというのは見えにくくて、概念的にも扱いにくいですよね。目に見えないけれどなんとなく、身体とか感情的には感じている職場の雰囲気や空気があるとして、そこに問題があるときは緊張感やストレスが増幅しやすくなります。そういう組織全体の状況を、関わっている複数の人に見えるようにみんなで紐解いていく感じですね。
ロールの間で起こる体験を通して、フラクタルな構造から起こるダイナミクスが再現され、見えにくかったプロセスが言語化、構造化されることで、共有され、見えなくて立ち往生していた状況をよい方向に流れやすくしてくれるのですね。
横山
その通りです。ストレスは、プレッシャーからも起こりますが、立ち往生している状況で実は一番起こりがちです。ひとは、本来とどまっていません。とまっているように見えても、呼吸をしていて常に動いています。ですので、立ち往生してしまっていることが流れ出すと自然と変化が起こってきます。
小田
個人ワークやグループワークを通して変化や気づきを促進していく方法ということですね。ではあらためて、システムアウェアネスを個人や組織で経験したり、キャパシティや能力として身につけたときに何がメリットになるでしょうか?
横山
ひとつは組織や個人が、人であることや生命システムとしての活力をとり戻すということだと思います。本来組織は人でできていますが、組織だととくに役割にはまって個性を失うということがあります。歯車や機械のようにではなく、それぞれが自分らしさや、その組織で働く意味をもう一度取り戻すことに貢献していけると思っています。
もうひとつは、組織の中で言えば、例えばさまざまな対策を試したけれどミスがなくならない状況があった時にそこに介在している問題が何かを紐解いていくことができます。それはシステム思考も得意だと思いますが、システム思考は要素をおいて矢印でつないで関係を見ますが、システムアウェアネスはロールをおいて身体知をとおしてヒューマンシステムのダイナミクスを見ます。システム思考的な理解と身体センサーをいれたシステムアウェアネス、この二つが入ると複雑なシステムへの理解がより強力になると思います。
小田
ロールはひとつの要素である以上に、そもそもロール自体が複雑性をもっていますね。
モデリング手法でエージェント・ベース・モデルというのがありますが、複数の要素が、あって、それぞれの意思決定がどのように相互作用するかをシミュレートでき、コンピュータモデルをつかったゲーム理論などに応用されていますが、頭の中でプログラム化できる世界をこえて、全人的におこる問題の複雑さ、感情、身体知をとりいれてエージェント・ベース・モデリングのエージェントをさらに進化させているという感じですね。