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(レジリエンスとは、システムが外部の衝撃に対して、その衝撃を吸収し、いち早く再起する特性のことです。今回から2011に行った経営者向けのレジリエンスに関する講演より、抜粋してご紹介します)
レジリエンスとは
レジリエンスとは、基本的な機能、構造、あるいはアイデンティティを保持しつつ、外部からの衝撃に耐える能力です。例えば衝撃を吸収する力、受け流す力、それから回復・再起できる力、そして外部環境に適応する力です。
例えば、台風が多い宮古島のようなところでは、サトウキビがずっと立木のように直立しようとしていると強風にあおられた際に簡単に折れてしまいます。そこで宮古島のサトウキビは、強風に対しては水の上げ下げを調整して逆らわずに寝てしまうように適応しました。そして、台風が去るとまた直立するのです。これはまさにレジリエンスである回復力のある例です。
強い衝撃に対して、もろさが露呈することがあります。自分より弱い力が相手の場合はよくても、自分よりも強い力、例えば、想定しているよりも高い津波がきた場合はどうでしょう。あるいは、固いものと固いものがぶつかりあうような場合も、いずれどちらかがくだけてしまうでしょう。このように力に力で対抗するのとは反対で、受け流すやわらかさ、しなやかな強さというのがレジリエンスのあるシステムの特徴です。レジリエンスの反意語は、脆弱さ、固さといってもよいでしょう。
レジリエンスというのは、大きな災害時のリスクマネジメントだけではなく、未来への針路の文脈でも考えることができます。例えばコップに一杯にはいっている水を、ある地点から、別の地点に運ぶことがわたしたちの課題だったとします。その時にコップにめいっぱい水をいれるのがいいのかどうかを考えなくてはいけません。もし目の前の平らな道をゆっくり歩いていく状況だったら、コップの縁のすぐ下までいれてもいいでしょう。しかし、目的地は、海の向こうで荒波を越えてヨットでいかなければならない場合は、どうでしょう。水をいっぱいまでいれると、ほとんどがこぼれてしまうと容易に想像できます。適度なところに抑えておき、なにかあったときには、ゆらしてもこぼれないようにしておかないと水はうまく運べません。レジリエンスを作るというのは、外部の衝撃を吸収して、弾力を持たせ、柔らかく遊びがあるという状態が必要です。
レジリエンスをあらわすシステムの特徴
21世紀においてわたしたちは海の荒波の上をいくような、環境変化の激しい時代に突入しています。これまではあまり、考えられてこなかった、レジリエンスのような要素が必要になってきています。レジリエンスというのはシステムで考えたときに、よく次のような模型で表します。
図1
力をかけたときにどう変化するか、図1の左(1)のように平らなところでは、ボールは、理論上、力をかけた方向に移動しますが、常にそれが起こるというのは実験室の中だけです。現実社会の中で多いのは次の2つのうちのどちらかが基本となります。ひとつは図1の中央(2)のように、山の上に置いてあるボールにちょっと力をかけるように、外部の衝撃があって動き出すと、最初はゆっくり、そのあと急激にころがっていきます。現実のシステムではこのような加速度的な変化がよくあることが知られています。一方で現実の社会には、変化を加速する動きだけではなくて、抵抗もあります。図1の(3)のように、登ろうと一生懸命に力をかけたとしても戻ってしまい、せいぜい振り子のように平均は同じ谷の位置にバランスします。レジリエンスということを定義するときに、私たちは、下の図2のように、ちょうど谷と谷があって、そのあいだに山がある状態をよく使います。
図2
例えば、レジームAが今の状態で、レジームBが望ましくない状態だったとしましょう。望ましくない状態に落ち込んでいくときに働く力としては、環境の変化、政策の変化、競合や新規の参入の増加、顧客のニーズの変化の場合もあるでしょう。そのような外部からの力がかかっても、ある程度の間は、レジームA(今の状態)に収まります。ところが下の図3の(5)のように、力がさらに掛かり、閾値(しきいち)に達すると急激に、別の世界へ転がり落ちて、レジームBへ、たとえば望ましくない状態に入っていくということが起こります。
図3
レジリエンスというのは遊びがある状態と定義しましたが、閾値からどれだけ、距離をおいているかということでも測られます。自分たちが閾値からどれだけ離れているか、閾値に近づいてきたときに、どれだけ押し戻す力、フィードバックの力が働くかが、レジリエンスを考えるときの基本模型です。そのためには、自分たちが、閾値にあるのかどうか、また、システムをコントロールする変数は何で、いまどういう状態にあるかということを知る必要があります。
ところが図3(5)のように外部からの強い力で、ボールの位置が閾値に近づくというだけではなくて、私たちが自分たちの構造を変えて、この谷がなくなった図3(6)のような状態をつくってしまうこともあります。谷の状態が変わってしまうと、ボールの位置はかわっていなかったとしても、閾値が近づいて、簡単にレジームBに落っこちてしまう状態になります。自分たちが予想しないような変化で、足元をすくわれるように、知らず知らずのあいだにティッピングポイントを越えるような状態が起こってしまう。レジームAにとどめようというフィードバックがなくなり消えてしまう状態です。これは、しばしば、無駄を省こうとして標準化する結果、多様性、冗長性といった重要なフィードバックが失われることによって起こります。
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