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組織と社会のレジリエンス(1)なぜ多くの企業の寿命は短いのか?

2014年10月16日

(レジリエンスとは、システムが外部の衝撃に対して、その衝撃を吸収し、いち早く再起する特性のことです。2011に行った経営者向けのレジリエンスに関する講演より、抜粋してご紹介します。 前回のコラムはこちらから---->「シナリオ・プランニングで組織のレジリエンスを高める」

永く続く企業の4つのポイント

 一般的に、企業の寿命はいったいどれくらいあるでしょうか? その答えは、失望するほど短いものでした。書籍『企業生命力』で示された調査結果によると、1970年の総収入などに基づく全米上位500社のうち、実に3分の1もの企業が1983年までに倒産、解散、あるいは、他社に合併された状態になっていたことがわかりました。多国籍企業、大企業の場合、平均寿命は40年ほど、さらに中小企業の場合は10年ほどでしかないというのです。新興企業の4割近くが10年ももたないことがわかりました。    

 日本では奈良時代からある企業の存在が知られ、江戸時代からある企業も多くあります。また、ヨーロッパでも同様です。それでも全体として見ると、日本とヨーロッパの企業の平均寿命は12.5年ほどだそうです。会社の寿命は、多く人にとっての平均余命よりも短いのです。たとえば、75歳、あるいは80歳生きる人は、その一生のあいだに、平均で、大企業が2つ潰れると考えると企業の寿命の短さを実感いただけるでしょう。それにしても、なぜ多くの企業の寿命はそんなに短いのでしょうか?

 シェルの元戦略担当副社長で現在SoL UK(組織開発協会英国コミュニティ)の顧問を務めるアリー・デ・グースは、前述の『企業生命力』の中で、企業を経済の主体として考えたとき、利益の最大化、効率化を図って株主にリターンをだそうとする考え方は、企業が永く続くことと相反している場合が往々にしてあると述べています。言い換えれば、効率を追求すれば追求するほど、企業の寿命は短くなる傾向があるというのです。(参考までに、株主は投資先を流動的に変えることが最善と考える一般則があるので、投資している企業に永く続いてほしいというこだわりは持たないことが普通です。その流動性は、1940-1975年には株式の平均保有期間が約7年でしたが、2007年までには7ヶ月まで短くなり、さらに今日ではコンピューター制御の発注によってミクロ秒単位で動くので、平均は分単位ではないかとも言われてます。企業が寿命を犠牲にしてでも効率化だけを狙うべきか、ほどほどの効率でも永続すべきかは、誰の視点で見るかによって変わるでしょう。投資家なのか、それとも顧客や社員や取引先や地元地域なのか。投資家でも、年金など長期に安定したリターンを出したい投資家なのか、市場が荒れているときにこそ利益を狙いやすい投機的な投資家なのか、などです。)

 逆に、長寿命の企業、特にその規模が大きいにもかかわらず永く操業し続けている企業の特徴として、以下の4つのポイントを挙げています。

 1.環境と調和して適応すること。

 2.強いアイデンティティ・独自性をもっているということ。特に、何らかの環境変化が起きた際に強い団結力を示すこと。

 3.意思決定が現場で分散してなされることに対して、中央が寛容であること。これは2つ目のアイデンティティと深く関わります。アイデンティティも独自性もない中で、各々のプレイヤーが勝手に動くと混乱状態に陥るからです。一方、共通のアイデンティティがあれば、各々が分散しながらも全体最適に向けて動きやすくなります。

 4.余裕やあそびを常にもっていること。アリー・デ・グースは例として資金を挙げ、長寿企業は大きな借金はけして抱えない一方で、事業機会が生じた際には機動的に投入できるように潤沢な手元資金を保有していることを指摘します。逆に借金ばかりしている企業は、本当に資金が必要なときに限ってそれ以上借りることができなかったりします。

 以上の、「環境に適応する」「アイデンティティがしっかりある」「分散型の意思決定ができるような寛容さをもつ」「余裕、あそびを常にもっている」といった特徴を持つ企業は永く続く企業です。一方、利益や効率の最大化を図ることに焦点をあてる企業ほど、寿命が短い傾向にあることが、調査の結果わかったことでした。

極端な"効率化"がまねく崩壊
 ここでいう効率には、財務資本に対する投資効率の意味だけでなく、生産性という意味も含まれます。生産性は経営者にとって、経営のマントラになっている重要な指標です。

 生産性を高めた例として、20世紀もっとも画期的だったといえるのが1908年発売のT型フォードです。黒塗りで標準化した車をデザインし、それまで、高嶺の花だった自動車を、労働者でも手に入るような大衆車を目指して販売開始しました。1913年にはベルトコンベアラインを導入して、革新的に生産性を高めてコストを下げ、年収の3~5倍以内の低価格を実現して大衆車のはじまりとなりました。ベルトコンベアラインの作業は労働者にとってはつらいもので、退職率が高かったこともあって、労働者の賃金を3倍近くまで上昇させました。こうして、黒塗りのシンプルなT型フォード車は実に1500万台販売という歴史上も有数の記録を打ち立てます。これも生産性の功績によるものでした。

 その後、フォードはしばらく自動車業界の王者となるのですが、それも永くは続きませんでした。GMの登場です。GMはフォードのように黒塗のひとつの種類の車ではなくて、色も、黄色や赤など多種類をだし、車種もキャデラック、シボレー等、顧客のニーズに併せて多様化、差別化をはかりました。こうした多様な品揃えで販売展開を図るGMに対抗する営業マンたちのジョークが、「フォードはどんな色でも持っています、その色が黒である限りは」でした。顧客のステイタスやアイデンティティにあわせて選べる多様な車を出すというGMのマーケティングの前にはフォードの生産性追求による低コスト戦略は通用せず、あっさり首位の座を譲り渡したのでした。

 ラインを徹底的に効率追求すると、ひとつの規格に併せて標準化でき、その規模を最大化すればコストが一番安くなります。ところが、そのモデルでやっていったのでは、消費者ニーズが多様化する局面では環境変化についていけません。マネージャーは歴史的にも、また直感的にもわかっているはずです。

 市場の変化が予期されるとき、標準化や生産性の追求は諸刃の剣となる一方で、ある程度、多種多仕様ものが1つのラインでつくれるよう生産ラインをフレキシブルマネジメントシステムのようにしていくと、さらに柔軟性、多様性が増してきます。ちなみに、こうした特徴を有するトヨタ生産システムによって躍進したトヨタの時価総額は、ほんの一時期の例外を除き過去30年にわたってフォード、GMを含むビッグ3の時価総額を上回っているといわれます。

 私たちは、効率を最大化する一辺倒ではなくて、いかに多様なニーズや変化するニーズに適応するかという柔軟性、適応力と効率を両立してはじめて永く存続することができます。加えて、時代とともにニーズはたえず変化していきます。永く売れ続けている商品、例えばコカ・コーラは、瓶の形などのマイナーチェンジも何度も繰り返えされています。コカ・コーラに限らず、何十年も続くヒット商品というのは、ほとんどがマイナーチェンジを頻繁に重ね、時折おおきなポジショニングチェンジなどもすることでそのアイデンティティを永く保つことで知られています。これがまさに環境適応という側面で、それができる会社やブランドのみが、永く残ってきています。

永くパフォーマンスを出す企業に必要な指標、「レジリエンス」
 このように極端な効率追求は崩壊をまねくことを私たちは市場で痛い目にあいながら身をもって知っているはずです。企業が永く続いていくためには多様性や冗長性は環境適応力を高める必要があります。にも、関わらず、経営者、マネージャーや投資家は、あくまで生産性や効率をあげることを追い求め、多様性や冗長性を切り捨てる傾向にあります。今の時代、近視眼的に効率や生産性を求める利害関係者が多いからでしょう。

 効率は重要な目標である一方で、効率化が行き過ぎた場合、効率そのものの長期パフォーマンスはおろかその土台となる存在すべてを崩壊してしまうおそれがあるというジレンマの中にいます。このジレンマの中で、どの程度の効率化を目指すのが適切なのでしょうか? どこまでいくと崩壊の危険があるのでしょうか? そうした問いに対して、効率というひとつの軸で考えていたら、この解はなかなかでにくいものです。過去をみても将来に対する、示唆はありません。また、過去利益がでた会社が今年も必ず利益がでるという保証はどこにもありません。そこで必要考え方がレジリエンスです。レジリエンスというのは、企業が永くパフォーマンスを出し続けていく上で、効率という尺度では測れない「必要なこと」は何かこれを示す指標になります。ただし、レジリエンスは、効率のようにインプットとアウトプットを比べるような単純な測り方では捉えられません。レジリエンスは、システムのレベルでもつ特性、つまり全体像や文脈の中ではじめて捉えることができるものだからです。

 効率ばかりを目指す経営は、風の吹き荒れる崖っぷちにいて、一本脚で前に進もうとしている状況といえるでしょう。強風にあおられてよろめいても立ち続けるにはもう一本の脚が必要です。偉大なる先人は皆もっていたレジリエンスという知恵をあらためて見直す時ではないかと考えます。


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