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本記事では、第10期チェンジ・エージェントアカデミーの修了生で、所属する組織の課題を提供いただいた小島美緒さんへのインタビューの続編です。前編はこちらからご覧ください。
話し手:小島美緒さん |
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聞き手:小田理一郎 チェンジ・エージェント 代表 |
変化の理論(TOC)でパートナーたちと共に未来の成功イメージを描く
小田
さて、ここから変化の理論について伺います。小島さんの文脈で、変化の理論について考えることがどのように役立ったでしょうか? よろしければ、どのような変化の理論をつくったか教えてください。
小島
そうですね。変化の理論(TOC)に関しては、一つはPLASとパートナー団体の間で共有しいるTOCがありまして、それをちょっとずつブラッシュアップしているという状況ですね。これまでは、現場でそのプロジェクトをこう回していくというところに重きを置いていたんです。けれども一歩引いたときに何が変わることで、何がどう変わるのかっていう変化の構造みたいなところをパートナーと何回も共有できたっていうのは、いい機会になったと思ってますね。
これまでは「I(私)」という主語でPLASを語ることが多かったんです。けれどもパートナー団体とともに「We(私たち)」で考えたときにどういう変化を求めていくのか、さらに一段上で「Together(一緒に)」という地域社会とか、社会全体って見たときに何をどう見ていくのかといった議論をパートナー団体間ともできるようになったというのが大きな変化だったと思っています。
「セオリー・オブ・チェンジ(TOC)」という言葉は、前提を説明したり、難しい部分もあるかと思い、パートナー団体とは使っていません。代わりに、「望ましい変化」といった表現を使っています。私たちが支援しているある女の名前をつけるんですけど、その女の子がじゃあ5年後にどういうふうに変化をしていったら、私たちの取り組みのおかげでこうなったと言えるのか、といった議論をする機会も増えてきました。「ビジョン・オブ・サクセス(成功のビジョン)」と、私たちは共通言語で呼んでいるんです。そのためにどういう子をステークホルダーに働きかけていこうかですとか、どういう課題が現状そのステークホルダー間にあるのか、とかいった話をしたりもしてますね。
小田
いいですね。今の「I, We, Together」にしても、受益者の女の子のペルソナを作って5年後にどうなるかっていうのは本当にイメージがしやすいです。
小島
今後の課題としては今、PLASの組織レベルのTOCはあるんですけれども、それを作ったのが2年ぐらい前でした。この数年でVUCAと言われる時代、どんどん不確実性が高まってきてると考えています。その中で今のTOCって最新版として作るとどうなるかを、アップデートしなければいけないと思ってます。
ちょうど来週、PLASの合宿を予定してまして、その合宿でも、私たちが今の現状を俯瞰したときに、どういうアプローチを取り得るかということで、TOCのような形として、理事も含めての議論をするプログラムを作っていきたいです。ちょうど今まさに追い込みでプログラムを作っているところです。
小田
いいですね、仕掛品というかTOCを更新していく、その都度ゼロベースでやらずに、今までの積み重ねを活かしていくのはよいなと思いました。今見直しているミッション・ビジョンとはどのように連動しているのでしょうか?
外的環境変化の中で、事業の位置づけを俯瞰して見直す
小島
ミッション、ビジョンとの連動という意味ですと、HIV/AIDSの状況が国際社会の中でどう変わってきてるのかを俯瞰したときに、やはりその子どもたちの視点で見たときに、必ずしもそのHIV/AIDSだけがその子どもの未来を奪っているのではないというところに気づいていきました。
一番は感染率がここ10年で急激に下がってきていることです。両親ともに亡くなるエイズ患者さんは少なくなってきていて、片親が残るケースが多くなっている。その一方で、その残された片親が女性だった時に、東アフリカにおいてはセーフティネットが機能していないことが多いことにも気づきました。それもあって、私たちがその子供たちを支えるって言ったときに、どこに切り込んで行かないといけないかと考え、その子供たちを引き受けているシングルマザーたちや地域の女性たちが何の収入を得る機会をつくっていくこと、あるいは、彼女たちをサポートするセーフティネットが地域の中にないといけないこと、そして、そのパートナー団体の多くもこう育成っていうところにも副次的に携わっていかないことへつながりました。そういったことの相関関係を見いだした感じです。
小田
アウトカムをバラバラに見るのではなく、全体を俯瞰しておられますね。
小島
「前向きに子どもたちが生きる」と言ったときに、いくつかの要素をブレイクダウンしないと解像度が上がらないなってことを、すごくシステム思考研修も通してすごく痛感したところでもありました。
家庭の変化、子どもたちの変化、さらにパートナー団体の変化は何だろうって3つに分解していきました。さらにその個々の、個人や組織の変化だけではなくて、そこに影響を与えうる地域の変数って何だろうっていうところを見たりなどです。
大きくなっていったんその解像度が低いものをいくつかの要素に分けてそれぞれを見て、さらにまたそれを上も集め直して、じゃあ何を何が見えるかっていうところは、結構団体の中で議論をすることが多かったかなと思います。
小田
これからの見直しの例を教えていただけますか?
小島
今、新しい事業領域を開拓しています。アカデミーの最終発表のときに4人で作成した時系列変化パターングラフとループ図がこちらです。
図1:アカデミーを通じてチームで作成した時系列変化パターングラフ 図2:アカデミーを通じてチームで作成したループ図 ※チームメンバー(五十音順): |
このループの中の早期婚と早期妊娠がもしかしたらば、その子どもたちの未来を奪っているんじゃないかっていうところに、理事と職員でタスクフォースを組んで、今何かここに切り込める事業案がないかと見当していて、これから現地調査をして、今年中にはパイロットプログラムを1つ立ち上げられたらいいかと考えています。
「望まない早期妊娠」を切り口に新規事業を開発する
小島
アカデミーで作成したループをもとに、今回は主語を子どもたちにしてて、その早期妊娠を切り口にしてレバレッジをかけようとしたときに何が見えてくるかを、(新しい)ループ図に落とし込んでいて、望まない妊娠が起きている背景を、仮で作り込んでいるような感じですね。
図3:PLASで発展させた「望まない早期妊娠」に焦点をあてたループ図
ちょうど5月から現地に渡航するスタッフがいるので、ここで作った仮説をどういうふうにこう実証していこうかというアプローチを予定していて、今のところを1つは望まない妊娠を防ぐための正しい情報へのアクセス、あとは、子どもたち、主に女の子たちの自己肯定感やライフスキルの会得。あとは学校現場、保護者、ピアサポートなど周囲からのサポートが受けられる場を作っていくことを今の仮説として考えています。
システム思考の研修の中でポジティブ・デヴィアンスについての話がすごく印象に残ってまして、研修課題としてインタビューをした現地スタッフの事例が先程のループを作る上での一つの原点にもなっています。
社会的インパクトを測る上での課題と展望
小田
社会的インパクトについて伺います。小島さんの文脈で、社会的インパクトの計測あるいはマネジメントについて、どのように役立ったでしょうか? よろしければ、どのようなロジックモデル、指標設定、あるいは測定をデザインしたか教えてください。
小島
社会的インパクトは、アウトカムとアウトプットの要素を事前に整理していたものがありまして、ただ数がすごく多くて100以上、200近くありました。
図4:PLASの設定しているアウトカム及び指標の一部
アカデミーを通してすごく問いかけられた気がしました。数多くの指標はつくったものの、それを測る側のリソースと、うまくバランスをつけないといけないなっていうのが、現実的な課題としてありました。そうして見ると(重要なのは)、収入向上、生計向上、心理的な安定などお母さんたちの変化ですね。
あと、子どもへの教育に関する理解が向上するか、そして、子どもの変化ですと、就学しているか、家族と良い関係が築けるか、自分に価値があると感じられるか、前向きに将来を計画できるか、といったところに設定しました。
ただ、これらを測っていくにはパートナー団体も私たちも、結構なリソースを割かないといけないところもあります。ではどこを中心的に見ていくかというところで、まだ試行錯誤しているところではあります。
社会的インパクトを測る研修の中ですごく印象に残っているのが、幸福度のお話をいただいたパートです。(これらの指標は)外的にわかるもの、例えば点数化できるものや平均値が多いのですが、もう少しその内的に、ミクロな視点にはなるんですが、その人自身がどういうふうにその幸福度を捉えてるかも見ていけると良いのかなと今考えていて、そうした指標もプロジェクトのエンドラインでは取るようにしてます。
社会的インパクトという意味では、広い視点で見た方がいいかもしれないですけれども、個々の変化が、その地域の長期的な変化を作っていくというふうに考えているので、そういった内面にも少し目を向けつつ、個人のインパクトがコミュニティや社会のインパクトになるには、どのようにつながるのかという設計をできるといいかなと思います。
一方、これは今申し上げたこととちょっと逆行してしまうんですけど、保護者と子どものインパクトがアウトカム、アウトプットになっているので、ステークホルダーのアウトカム、アウトプットの指標も作っていきたいと考えています。例えば現地の行政、コミュニティ、あとパートナー団体自身の変化も指標にできるといいなと思ってますね。
お母さんたちは子どもたちにダイレクトに対面直面する。接するのが彼らなので、彼らの変化が、お母さんたちは子どもたちの行動変容にもつながるのかなっていうふうに考えていたりと、パートナー団体が自信を持つことで、行政の働きかけというところでもうまくいくと考えてますね。
小田
現地パートナーの組織能力にも広げていくのはすごく面白いですね。
小島
エンドライン調査票というのは持っていけまして、スタッフでいうと、1つのエンドライン調査票が10ページ前後なんです。けどもその質問項目に合わせて、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを混ぜながらヒアリングをさせてもらってますね。
小田
社会的インパクトを測るのに、どんな点で苦労していますか?
小島
数が多いのと、あと受益者が広範囲に渡っているので物理的にアクセスを全員にしようとすると、結構時間がかかってしまうところもあります。それでもなんとか、現場の全員で回してもらっています。
今後は、機会があればスマートフォンにアプリケーションを検討したいです。(アプリに)現場でヒアリングした項目をどんどん入れていって、それをAIが自動仕訳するシステムも実際に国際協力の現場で使われるようになってきているので、そういったITツールを活用するのも、一つ解決策の案としてはあるかと思ってます。
小田
社会的インパクトの計測で、今、工夫されていることはどんなことですか。
小島
今、現地スタッフのコミュニケーション研修もやっています。受益者の方と対峙するときに、結構その自分の思い込みとか、意図に沿って質問をしてしまって、違う回答が得られるっていうケースが結構あったり、ケニアの場合はNGOワーカーの地位が高いので受益者の方が結構この萎縮ではないんですけど、率直に話せなくて、「事業に参加してよかったです」みたいな無難なコメントが返ってくることも往々にしてあるかと考えています。
事実に基づいた質問を重ねていくって、「メタファシリテーション」のコミュニケーション研修も受けてもらっていまして、それに基づいてフィールドでエンドラインのインタビューをしていくようにしています。「事実は嘘をつかない」と言います。思い込みを排して受益者の意見を聞けるだろうと期待してます。
その上で、検証だけでなく改善のアイディアも聞いていけるだろうと思います。何があったらよかったと思いますか、これから事業に参加した学びをどう次に生かしていけますかなど、受益者に聞いてもらったりできるでしょう。あと、パートナー団体との学びの場というのも毎回のつくっていて、振り返りをしたりもしているので、そこでいろんな議論を今後も重ねていきたいなと思ってます。
アカデミーはマルチステークホルダーとの出会いと協働の場
小田
素晴らしいですね。その繰り返しの議論、対話の場があるってのがすごくいいなと思いました。すごく学習する組織的です。
総じて、チェンジ・エージェント・アカデミーへの参加はどのような体験だったでしょうか? 印象的だったことや役立ったことについて教えてください。
小島
沢山ありまして、一つは思い込みに気付けたっていうのが大きいと思ってます。特に現場でのプレイングマネジャーをしていると、今見えてる事象の外に飛び出して、そこから見るっていうのが結構難しいこともありました。アカデミーのゼミナールでは、(他のゼミ参加者と)一緒にやっていくので、アフリカの現場を知るのは全くもって初めての方たちとご一緒できたので、その方たちからのフィードバックとか、一緒にリサーチしてく中で見えてくる数字のインパクトっていうのはすごく大きかったですね。
4人のチームだったんですが、皆さんと一緒にリサーチしていく中で、中退生たちが学校を中退してる理由っていうのは会社の家庭の貧困が一番大きいっていうふうに私たちは捉えていて、実際に現地のフィールドで調査した数年前は確かにそういった数値は出てきたんですけれど、マクロのデータで見てみると、ウガンダもケニアも早期妊娠によってによって中退するっていう割合が圧倒的に中等教育に於いて多いっていうのが見えてきました。初等教育に通うことを、私たちPLASはずっと目標にしていたんですが、アカデミーに参加したことで、何かその前提を疑うことができたのもすごく良かったですね。
初等教育に通っていても、子どもの学力は伸びないってことが結構データで出てきていて、それは学校の教師の方たちの質とか、カリキュラムとか、定番の読み書きが初等教育を卒業してもできない状況にあって、中等教育、高等教育を目指していこうっていうところに行けたのも大きな転換点でした。
それを個人的にこう思うから、中等教育までやりましょうではなくて、全体を俯瞰してみると、こういう要因で子どもの進学を妨げていて、初等教育に行けないことで、こういう事象が今後起きていくっていうところを、段階の中にこう認識をすり合わせることができたっていうのも非常に大きかったかなと思ってます。
私たちがやっていることはもちろんその個々の細かな修正は必要なんです。同時に、意味のあることなんだ、っていうところを再確認できた意味でも非常に良い時間だったなって思っています。グループの皆さんからも、この活動を継続されていることがまず素晴らしいことだとおっしゃっていただけて、背中を押して押してもらえたというか、なかなかNPOは、自分たちでやってること、自分たちで定義して前に進んでいかないといけないことがしんどいときもあるんです。けれど、「これでいいんだ」と後押ししていただけるメンバーの皆さんや小田さん、他の参加者の皆さんと出会えたっていうのが一番大きな収穫だったなって思ってます。
小田
小島さんが今日お話いただいてる様子から見て、しっかり(自分自身の)根っことつながって話されていて、だからそういったプロセスを歓迎できると思いました。そして、受け取ったものを、明確なストーリーにしたり、同時にメタファシリテーションやファクトを大事にしたり、すごく意欲的に学ぶ姿勢もあると感じることができていました。
さて、これからのビジョン・展望を教えてください。
子どもたちが前向きに生きる社会のために日本とアフリカが相互に学ぶ未来
小島
これからのビジョンとしては今年から来年にかけてウガンダとケニアでの新しい地域で、新しいパートナー団体との連携を始めようってふうに考えてることを今調査のスタート段階に立ったところです。
私たちのビジョンが「取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会をつくる」というところで、社会的に広く目指しています。今、個々の家庭においてはそれが実現できてはいるんですけれども、社会で考えたときに、やはりリーチできる地域を面としても広げていくことが大事だと思っています。
なので今後、「ラストワンマイルまで心を届ける」という私たちも軸に基づいて新しい地域に進出していきたいというのがひとつのビジョンです。もうひとつはもうちょっと長期的なビジョンで、やや個人的なものにはなるんですが、2050年頃になると、おそらくアフリカは人口の面でも経済成長の面でも世界の僻地から中心になるんじゃないかなと思っています。
アフリカという課題大国で取り組んできたノウハウや実績を身近な日本にも何かこう還元したい、いい循環が生みだしたいと個人的には考えてますね。すごく卑近な例になってしまうんですけど、現地でそのカウンセリングプログラムをやっていますと、その事例は結構日本の家庭支援にもつながったりします。
日本の周囲のお母さんたち、お父さんたちに具体的な取り組みの例を伝えると、「すごい参考になる」とか「自分も実践してみたい」などのフィードバックを結構たくさんいただいています。アフリカだけの課題ではなくて、日本にもこう応用できる要素がカウンセリングに限らず、様々な形で実はあるんじゃないかな、と考えています。
ですので、今後長い目で活動していく中で、アフリカだけがフィールドだとは思わずに、日本とアフリカがつながりあいながら、いろんな知見や学びを共有できるような、そんなサイクルをつくっていきたいなっていうのがありますね。
小田
素晴らしいビジョンだと思います。
さて、最後にチェンジ・エージェント・アカデミーへの参加を検討する方たちに向けて、メッセージやアドバイスがありましたら聞かせてください。
小島
これから受講を考えている皆さんへのメッセージということで、もし迷っていらっしゃる方がいたら、迷わずに飛び込んでいただきたいなと思ってますね。このアカデミーでしか出会うことのできない素晴らしいメンバーの皆さんや小田さんはじめ講師陣など、本当に、たくさんの出会いがありますね。
すごくよかったなと思うのが、私たちが生きる社会は、いろいろな人たちによってつくられて動かされていく中で、まわりの社会人経験を積めば積むほどまわりの同質性というのが高くなってくると思うんですね。でもこのアカデミーは本当に非営利組織の人たちもいれば、一般企業の方たち、起業家の方たち、行政の方たち、教育現場の方もいて、多様な関係者による社会の縮図みたいな形で、その方たちが集まって、じゃあ何ができるか、っていう知見を持ち寄って話して、さらにそれが自分や自分たちの行動変容にもつながる、という非常にいい有機的な学びあいの場、実践のための原動力になるような場だったかなと思っていますね。
本当に、受講して後悔は一切ないかなと思います。ですので迷ってる方がいたら、ぜひチャレンジしてみてください、というのがメッセージです。
小田
ありがとうございました。
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