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秋冬に実施するチェンジ・エージェント・アカデミーの下期(偶数期)は、「社会課題解決のためのシステム思考」と題して、「システム思考トレーニング」「社会的インパクトを測る」「変化の理論」各2日間のセミナーを通じて方法論を学び、夜間のゼミナールセッション6回では、実際の社会課題を設定して、アクションラーニングのチームを設定して学ぶプログラムです。
本記事では、第10期アカデミーの修了生で、所属する組織の課題を提供いただいた小島美緒さんへのインタビュー内容をご紹介します。
話し手:小島美緒さん |
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聞き手:小田理一郎 チェンジ・エージェント 代表 |
PLAS~取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会を
小田
今日はインタビューへのご協力をありがとうございます。まず小島さんの組織PLASについて教えてください。どのような目的を持った組織で、どのような活動を行っていますか?
小島
私たちの団体エイズ孤児支援NGO PLAS(プラス)では、「取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会を」というビジョンのもと、2005年からウガンダとケニアでの活動をしています。当初はエイズで親を失った子どもたちを支援する活動として学校支援ですとか、エイズの予防啓発活動を行っていたんです。
2016年ごろから、エイズ孤児の家庭の支援、お父さんをエイズで亡くしたシングルマザーの家庭と子どもたちの支援ということで事業を展開していました。2020年からは、これまでエイズ孤児に特化して支援していたやり方を大きく変えまして、取り残された子どもたち全般を対象に、(具体的には)貧困ですとか、様々な理由で地域社会から取り残されてる子どもたちとその保護者、その多くがシングルマザーの女性なんですけれども、そうした家庭の支援活動を現地のパートナー団体とともに行っています。
小田
主なステークホルダーにはどういう方たちがいますか?
小島
ケニアとウガンダに合わせて三つのパートナー団体がありまして、いずれも現地の方たちが立ち上げて運営をしているという団体になります。規模感はさまざまなんです。けれども専従職員が二十名近くいる組織化されたパートナー団体もあれば、パートナー団体と受益者が同一であるというセルフヘルプグループがパートナー団体、という組織もあります。パートナー団体と私たちだけでは課題解決へのレバレッジが効かないと考えているので、地方の行政ですとかの教育機関ですとか、可能な限り、現地のステークホルダーとも協働しながら活動を行っています。
(日本サイドでは)私たちの経常収益の大体40-50パーセントが寄付によって成り立っていまして、そういう意味では個人の方の寄付者と法人の皆様からの寄付というのも大きな支えになっています。あとは助成金も多数いただいておりまして、民間や行政で助成金を出す団体ものステークホルダーの1つですし、活動を支えてくれる人達という意味で、大学生を中心としたインターン生も組織づくりの重要なステークホルダーです。
小田
様々なステークホルダーの方たちがいらっしゃいますけれど、小島さんは、その組織でどのような役割を担われていますか?
小島
私は事務局長という立場で活動をしておりますので、国内のステークホルダーの皆さんと現地のステークホルダーをつなぐ橋渡しのような役割をしています。
具体的には、例えば現地での活動成果ですとか、これから取り組もうとしていることなどを国内に発信をしまして、それを見聞きしてくださって、共感してくださった方たちにご寄付ですとか、さまざまな形でその活動に携わっていただくという、平たく言えば、ファンドレイジング活動や広報活動に従事しています。
あとは、国内外の組織づくり、という意味で、国内の事務局メンバーが一番らしく、生き生きと活動できるかというところに目を配って、組織改革ですとか、制度づくりをしたりしています。あとはちょうど去年ぐらいからパートナー団体の能力強化研修も、日本国内の賛同をいただきながら進めていまして、組織づくりにも関わっております。
小田
チェンジ・エージェント・アカデミーに参加したのはどのような理由や動機があったのでしょうか?
小島
一番大きな理由としては、物事をもう少し広い視野で捉えたいということがありました。
私たちの組織は、職員が5人でまたはインターン生で事務局を回している、非常に小規模な団体ということもありまして、1人ひとりがやるべきことが結構多い半面、目の前のことに追われてしまって、なかなかマクロで私たちが取り組む課題がどういう状況にあるのかというのを一歩引いて見る機会というのが限られているという課題感を自分の中で抱いていました。
かつミッション、ビジョンも新しくして、これから支援する対象者もこう広がっていく中で私たちが目指している未来ってのはどういうものなのか、その中でステークホルダーの皆さんとどういうふうに協働していったらいいのか、特に新たな事業開拓ですとか、パートナー団体を広げていくといった横展開のチャレンジというのにも直面していまして、そういったところにもシステム思考が寄与しうるのではないかと考えたことが1点目です。
2点目として、パートナー団体と私たちが一緒に活動しているんですけれども、たまに、私たちにこう資金をこう援助してほしいといったスタンスでのコミュニケーションもありまして、自分たちが自立して、オーナーシップを持って活動していくところで、パートナー団体自身も課題を抱えているのかなという感覚もありました。もしかしたらそういったところもシステム思考で掘り下げていくと何かが見えてくるのかなというのが2点目です。
最後に3点目として、少し重なるかもしれないんですけど、私たちが支援を届けようとしてる子どもたちは、子ども自身が変わっていくことはすごく難しくて、周りの大人たちや地域が変わっていかないといけないということです。
この地域のセーフティネットを、子どもたちのためにつくっていくために、セクター間でどう連携していけばいいか、そういったところも学びたいなと思って、申し込ませていただきました。
小田
ありがとうございます。狭義のシステム思考だけでなく、システムの関係者たちがシステム的に学ぶ、学習する組織になることも目指されているのですね。みんなが集まって共有ビジョンを抱いたり、協働でコミュニティや地域や家族など、いろいろなつながりを強くし、レジリエンスを築いていくといったテーマに取り組まれていると感じました。
ここから、まずシステム思考について伺いたいんですが、小島さんの課題の文脈ではどのような複雑性のチャレンジがあったでしょうか? また、システム思考はどのように役立つと考えたのでしょうか?
システム思考で俯瞰して、どうつなぎ合わせていけるかを考える
小島
一つには、これまで私たちの活動が結構分断されていた部分がありまして、それをシステム思考で一歩引いて見ていくことで、どうつなぎ合わせていけるかと考えるきっかけになったことです。
これまで私たちは三つのパートナー団体と三つの地域で活動を続けてきました。それぞれの国地域ごとの特性があって、その特性に合わせた事業展開をしていこうと考えて、それぞれ独自の三つの領域でプロジェクトを展開していたんです。
けれども俯瞰して見たときに、何か共通する構造、例えば負のループ(悪循環)となる自己強化型ループが生じているのではないか、ということが見えてきました。それに対しての個々の三つのパートナー団体が独自に進めるのではなくて、もしかしたらその地域間で国境をまたいでお互いにその協働ができるのではないか、というところに、団体としても意見がまとまってきたんですね。
例えば、ケニアでは主にライフプランニング支援事業というのをやっていまして、保護者と子どもそれぞれを対象とするカウンセラーを現地で育成して、家のキャリアプランニングといって、将来のこう人生設計を一緒に考えたり、保護者の行動変容を目的として、カウンセラーが2年間にわたってセッションを通して働きかけていくという支援プログラムがあります。
ケニアではそれがある程度体系化されてきてはいたんですが、俯瞰してみると、カウンセリングだけでは、やはりその家庭の収入がなかなか上がらないですとか、地域にそもそもビジネスの機会がないですとか、さまざまな要因が見えてきました。保護者の行動変容と一言で言っても、ソフト面でのカウンセリングだけではなくて、(ハード面の)生計向上と組み合わせないといけないこともかなり見えてきました。
一方で、ウガンダの現場で見たときに、ウガンダでは生計向上を主に活動展開していたんです。けれども生計向上プログラムに参加したシングルマザーのお母さんたちは、収入は上がるんですけれども、その一方でビジネスに専念するあまり、子どもと接する時間がなくなってしまって、結果的に長い目で見たときに子どもとのコミュニケーションがうまくいかなくなってしまうという事例も見えてきたんです。これまで個々にアプローチしていたあのやり方では限界があるなと考えて、どちらの地域においてもカウンセリングと生計向上をセットで行う必要があるっていうことに気づきました。
去年の秋頃に、ケニアでずっと行っていたライフプランニングのノウハウを、ウガンダにも伝えることができないかと考え、ケニアのカウンセラーチームをウガンダに派遣をしました。ウガンダのパートナー団体が彼らからそのやり方を学んで実践して、カウンセリングプログラムを取り入れたウガンダの地域でも実践するというプロジェクトを実施することができました。その過程で、そもそも家庭が地域の中でどういう状況に置かれているのか、孤立してしまってる状態であるとか、あとはお母さんたちにそのメンタルモデルがどういうものかといったところに、パートナー団体も団体の枠を超えて学びの機会というのをつくれたのは非常に大きな成果だったかなと考えています。
お互いに交流した人たちが学びあっていました。ケニアの他のパートナー団体のスタッフカウンセラーも、ウガンダで生計向上の現場を見る機会があったんですね。ウガンダではお母さんたちがカフェビジネスを起業して、それによって生計向上につなげて、子どもの教育をという取り組みをしているんですが、ケニアのスタッフもそうしたウガンダの取り組みを私たち経由で知ってはいたんですが、実際にその研修のアプローチの仕方を現場で見ることができて、「ああ、こういう言葉かけ、働きかけができるんだ」とか、「こういう場を地域の中で設定することができるんだ」とかを、学べた側面もありました。そして、ケニアのカウンセラーたちも、ウガンダのスタッフや村の組織、開発に寄与できたということがすごく自信にもつながったみたいです。
悪循環の罠を察知し、地域や人の能力を培う
小田
素晴らしいエピソードですね。ほかにもエピソードがあるとおっしゃっていましたが、教えていただけますか?
小島
システム思考で言いますと、2020年の後半頃に、(新型コロナウィルス感染拡大期における)アフリカ緊急支援ということで、現地で食糧支援や石けんなどの衛生用品の緊急配布を行っていました。現地に私たちが渡航できなかったので、主にパートナー団体が主体となって行いました。現地では、公共交通機関もすべて止まってしまっていたので、まず行政に活動の許可を取り付けるところから始めてもらって、食糧を配布していました。パートナー団体経由になりますけれども、私たちとしては、食糧を配布することによって、特に脆弱な環境に置かれたお母さんたちにとっては、子どもたちがポジティブな状態になる、良い変化が起きるだろうと考えて食糧支援を行っていたんですね。実際に食糧を受け取って、栄養状態が改善して、本当にこう命をつなぐことができたというフィードバックもあったんです。
けれども、食糧支援を計6回ほど続けていく中で、これはもしかしたら長期的に見て、依存を生み出す負(悪循環)の自己強化型ループになってしまう可能性もあるんじゃないかなと感じて、団体の中での議論をするきっかけが生まれたんですね。
そのきっかけとなったのは、システム思考の研修でポジティブ・デヴィアンスの事例として紹介したパートナー団体の女性スタッフの発言でした。この食糧配布が行われると、「次の食糧配布はいつか」というリクエストを地域の人からもらうようになったと聞いたんです。
そこで、実際の現場をよく見てみると、彼女たち自身は小さな家庭菜園を持っていて、そこで野菜を育てて、最低限のビタミン類がとれている家、地域で助け合いながらお互いに食糧を相互扶助してるというお話も聞いたんです。もしかしてこれは、私たちが食糧を送れば送るほど彼女たちの自立する力や地域の相互扶助の力を奪ってしまうんじゃないかと考えて、PLASの中でもすごく議論を重ねた結果、結果的には食糧配布は継続しないという意思決定に至ったんです。
図1:緊急支援として食糧配布を実施したことの長期的な意味合い
その代わりに、現金収入を得られる手段がコロナ禍ですごく限られていたので、何かしら現金収入は得る手段を機会創出しようと考え出したのが、カフェ事業のお母さんたちにドーナッツなどの軽食を現地で作ってもらうことでした。それをPLASが一旦買い取って、地域のHIV陽性者の方たちに配布するという違う形での食料配布を始めました。
それによって、お母さんたちにも現金収入がありますし、地域の相互扶助という意味でも少し寄与するのではないかなと考えたのです。もしそこでシステム思考で立ち止まることがなければ、エンドレスでニーズがあれば食料を届けようとすることを繰り返していたリスクもあったのかなと思ってます。
小田
今のストーリーは本当によく見られる問題のすり替わりの構造ですね。特に外部リソースへの転嫁によって、依存を生み出してしまいがちなところです。そこに気づかれたし、単に支援を止めようじゃなくて、代わりの策を考えられているところは、まさにシステム思考だなと感じました。現地でのソーシャルネットワークを強化し、野菜を育てたる力をつくり、また、食糧配布など外部に依存するのではなく、地域内での能力を活用しています。システム思考を上手に活用された事例かと思いました。
組織の中ではどのようにシステム思考の素地をつくったのですか?
小島
理事やスタッフ向けにシステム思考で学んだ経験をシェアする機会を組織内に設けさせてもらって、そこである程度シェアしていったこともありました。ですので、みんなの頭の中にループというのが完全な形ではないにしろ、ある程度その描ける組織を描ける素地はあったのかなと思ってます。「これって悪循環にはまってしまいましたよね」みたいな話になって、「そこはガチにハマるのはやばいな」っていうのが組織内にインストールされていると、そのストーリーの虜になることを回避できるのですよね。
(後編に続く)
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