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チェンジ・エージェントアカデミーも6年目を迎え、上期・下期に一回ずつ実施し、この9月に11期が終了しました。今回は、社会課題に取り組んでいらっしゃる3人の方に集まっていただいて、その後の活動についてお話を伺いました。(2021年9月21日実施)
≪ご参加いただいた方≫
堺勇人さん:8期生(社会課題解決のためのシステム思考)
- 富山で一般社団法人でSDGsを市民レベルで広めることで、多様な人が集まり、対話をして互いの気づきをもとに、世の中をよりよくしようと思い変革をしていこうということを促している
- オンラインで富山県内の高等教育機関の学生たちにフィールドワークをSDGs目線で行う。射水の多文化共生、持続可能な漁業など、射水市の魅力や課題を5つの視点で切り取り、地域の方々へフィールドワークでインタビューして、オープンスペーステクノロジーのやり方を取り入れてまとめたばかり
Nさん:9期生(学習する組織を導くリーダーシップ集中プログラム)
- 企業で人事労務、給与・勤怠管理、保健衛生を行っている
- プライベートでは認知行動療法を企業内研修に生かすことを取り組んでいる。2021年今年からセッションをはじめ、いろいろなことをやりながら吸収しアウトプットできるようになってきた
鬼木基行さん:11期生(学習する組織を導くリーダーシップ集中プログラム)
- 会社でDXを推進するにあたって、多くの関係者を巻き込むために必要と考え アカデミーに参加した。近く、全社の知見者を集めた社内ワークショップを実施する。
- 有志活動で地域の居場所づくり、NPO法人として間伐材を使ったログハウス作りなど各種活動を行っている。学習する組織を学ぶなかで、会社の業務だけでなくほかの興味にも生かしたいと思うようになった。自己マスタリーのディシプリンの学びでは、環境課題や地域の繋がりなど社会関係資本が薄いことについても課題と感じ同時に取り組みたいと考え活動している。
- この座談後に地域防災を考えるきっかけとして、#楽しい防災をキーワードに防災キャンプイベントのアイディアをワイガヤで開催した。
堺勇人さんのストーリー
チェンジ・エージェントアカデミーを修了した2020年当時から行ってきたことをお話します。
〇わかりやすく伝える
一つは、団体のコンセプトを分かりやすく発信したことです。当時、SDGsが言葉としては広がってきていましたが、どこか遠い国のことで身近に感じられていない方が大半だと感じていました。なので、SDGs団体ですが、あえてSDGs色をあまり出さずに、「〇〇でも生きやすいこれからの富山をみんなで考えてみました。」をコンセプトにして活動をしました。
活動を進めるために、富山県の地球環境基金の助成金をもらったことで、県下全域にこの取り組みを拡げられるようになりました。なにか特別なことをするのではなく、身近でご自身の判断基準が変わるだけでも、社会が変わっていくということに訴求したいと思って取り組んできました。
そのためにも、冊子をつくり、誰一人取り残さない、という団体のメッセージを届けています。SDGsは、先住民、女性、若者などたくさんの当事者が議論の場について検討したからこそたくさんの項目が出て、それを17に分けて、それらがつながっていて分かつことができないと聞きましたが、そのまま伝えても意味が伝わらないだろうと思ったんですね。なので、言葉を分かりやすく、これを機に、いろんな立場の人が、今もこれからも生きやすいとはどういう社会だろうか?ということを考えるネットワークの基盤にしたいとメッセージを工夫しました。
〇つながりをつくる
また、自団体で行っているイベントを通じた出会いから、各団体の活動をSDGs文脈の中でつなげようとしています。それまで、それぞれに世の中を変えることに取り組んでいた方々が、SDGs文脈だからこそ、その課題に関心のない人にも活動を広く知ってもらったり、また、自分たちも他の課題や活動に気づいてもらったりできました。その結果として、イベントを一緒にやっていけるようになったんです。
行政も取り残し状況に取り組んでいますが、手が届いていないところがあります。そこにNPOが取り組んでいるわけですが、個々の活動範囲にとどまっています。本来は社会構造上のしわ寄せになっているので、みんなで考える必要がありますが、実際には応急処置をしているだけとなってしまっています。
そうしたなか、PECとやまがSDGsの市民団体として認知されるようになってきて、県のSDGs委員会に誘われるようになりました。そうすると、委員会のメンバーに偏りがあり、社会的弱者の声を届ける委員になっていないことに気づくことがあります。せっかくSDGsという大きい文脈が出てきて、富山県もSDGs未来都市と打ち出して進めようとしているのであれば、本当に誰一人取り残さない、ということをやりましょうと行政制度につなげることにも模索しながら取り組んでいます。
〇現状の課題を発信する
ホームページも、自分たち単独でなく市民団体に声がけして、ここに載せることで広く関心を持ってもらったり、皆が変わるチャンスにしたりできないか?と声掛けしています。どういう課題が富山にあるのか?取り残している課題の現状を明らかにすることで、SDGsの文脈だからこそ目を向けてもらえるのではないかと思って発信しています。
鬼木さん:いろんな活動がつながっていくのは重要だけれど、日本ではなかなかメインストリームに移行しません。草の根活動で世の中を変えるためにはどうしたらよいでしょうか?私は、デジタルトランスフォーメーションを儲け主義のツールにせずに、一人ひとりの意識変容につなげたいと考えていますが。
堺さん:たしかにムーブメントをつくりだすのは難しいですね。
ただ、場に変容が起こる経験はしました。象徴的な一つの例をお話します。
まだオンラインもオフラインもコロナでバタバタしていた2020年夏頃、お寺の会場とリモートをつないで富山の課題6つを対話する、というイベントを行いました。その一つの、不登校のテーマで、思いもよらないことが起こりました。元不登校の経験者がオンライン参加をして、その人が「不登校の当事者も、関係する家族も、ぜひ自分を責めないでほしい」と発言したときに、瞬間、会場に沈黙が流れたんです。不登校を持つ親御さんもいて、なんとなく染み渡った言葉だな、ということが起きました。そして、親御さんの一人が一言、「その言葉に救われました」とおっしゃったんです。それまで自分をずっと責めていた、それは結果的に子供も責めることになっていたんだと気づいたとおっしゃったんです。リモート参加した不登校の経験者も、「今思えば必要だったからそうしていたんです」と話しました。彼は、今は世帯も子供もいると言っていましたが、当時は3-4年引きこもっていたそうです。リモートとリアル現場が通じ合った瞬間に立ち会いました。
鬼木さん:今の話を聞いて、TEDトークの動画を思い出しました。「裸の男」です。野外音楽祭で、一人の男が上半身裸で踊っていて、最初は周囲も傍観していましたが、そのうちに、一人のフォロワーがつきます。そうすると、二人目を呼ぶんです。すると、人が人を呼び、みんな集まれ、という状況になり、そこに参加しないとむしろ手遅れになる、といった状況になりました。リーダーシップの話です。最初にフォローする人が大切、という話でした。
堺さんには、動画でいう一人目のフォロワーのようなパートナーはいますか?
堺さん:はい。株式会社たがやすの鈴木耕平さんです。深いレベルで場づくりをしてくださるファシリテーターです。
内発的動機付け、心理的安全性を大切にし、「すべては正しい、だけど一部です」と常に言われます。システム思考でいう、全体の中での一部をそれぞれが見ているので、否定されることはなく発言してよいし、すべてが正しいよ、という前提で進める、そうした場づくりがとても上手です。理念としてマルチステークホルダーで、異なったもの同士が、お互いが気づいて、それぞれがその気づきを起点としたアクションがきっと生まれるだろう、という構造づくりを地道に仕掛けたいというのがありました。団体の活動を進めるにあたりファシリテーションの力が必要だと思っていた絶妙なタイミングで出会いました。
今度、神通川の流域、流域治水について関係者で対話をするプロジェクトが始まるのですが、そこでもその方に一緒に関わってもらいます。
川に堤防をつくるだけでなく、わざと水を逃がして、普段は田んぼとして使っているところに水を溜める、というようなアイディアです。流域に住む人たちが、それぞれの立場で、川の流量の許容範囲を超えたらカバーしあおうという発想が、国から話が出ています。その対話を神通川流域でしようということになり、電力会社や地域住民や上流下流の農家の方、まさに当事者と対話をする運営を任せてもらえました。話を聞くと、自分の田んぼが大事だから守りたい、ということが現実で、関与者それぞれの領域で守りたいものがあるので、それぞれは正しい。ただ、全体としてみたときは、たとえば、自分の田んぼを守りたいがために水をどんどん流してしまうと、皆がやることで、用水路に水がバンバン溜まってしまう。用水を維持する人たちは、用水からとにかく水を流したいから水を出すと、その先で水はどうなるのか?と問題がつながっていきます。システム思考の通り、自分の暮らしのつながりと、そもそもの原因である気候変動というグローバルな影響を受けていることとのつながりにも気づきます。
まさにSDGsとは繋がりで、みんなで考えるということをこれから始めます。どうなるか分からないけれど、話し合うしかないことだと思っているのでワクワクしています。