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新型コロナウィルスについて考える(1)指数関数的な成長と倍増期間

2020年04月02日

新型コロナウィルス(COVID-19)により、お亡くなりになられた方のご冥福を祈り、その家族や重症で闘病されている方へお見舞い申し上げます。また、こうした状況にありながら医療、保健の最前線で働かれる皆様、介護や私たちの生活インフラを支え守り続けてくださる皆様に、厚く御礼申し上げます。そして、今いろいろな不便や不利益を受けてつらい皆様、瀬戸際の大事なこの期間、互いに頑張っていきましょう。

昨日、政府の専門家会議より、今後の感染拡大を抑止するために大変強い熱意での説明と提言※がありました。重く受け止めなくてはいけないと思っています。私自身は、医療や公衆衛生の専門家ではありませんので、これから書くことについて、まず何よりも疫学などの専門家の皆さん、厚生労働省や世界保健機関(WHO)などからの情報を最優先にしていただけたらと思います。

※新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

私は、「システム思考」を通じて様々な分野の専門家や多様な関係者たちがどのようにものごとを捉えているのかを理解するかを実践してきました。また、組織学習(「学習する組織」など)を通じて、一般の市民や政策・経営などの意思決定者がどのようにものごとを認識し、時として過ったり、そしていかに学習していくかが可能かについて探求し、よりよい意思決定やアウトカムを導き出すことの支援をしています。今の時期、そうした知見がものごとの理解の助けになるのではと願い、このコラムを書いています。

そして、今の私たちの最大の関心事は人の命を救うことです。死者数という統計を扱いますが、その数字に現れるお一人一人が、どなたかの子どもであり、どなたかにとって大事な故人であるかと思います。一つひとつの命に重みがあります。死者数の統計を数字として軽く扱うものではないことを自分自身に戒めながらも、パンデミックの危機に面する今、一人でも多くの「救える命」を救うために、また状況を冷静に理解するために、そうした統計も扱っていきます。

システム的な視点から理解する:指数関数的な成長と倍増期間

さて、こうした背景から、何回かに分けて、システム的な視点から専門家たちの分析や提言についてを理解し、また、私たち市民がそのシステムの中でどのようにより望ましい未来を築けるように行動していけるかについて紹介します。まず最初に、「指数関数的な成長と倍増期間」について考えます。

4月1日夜の専門家たちの記者会見における大変強い危機感に満ちたメッセージ※の背景は現在の感染状況の拡大があるでしょう。4月2日10時半時点で、日本の感染確認数は2,510人(ダイヤモンド・クルーズを含めると2,945人)、前日比277人でした。グラフをみると、新規の1日あたり感染確認数がこの1週間ほど目立って増加している傾向が見て取れます。

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(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/、 1月16日~4月1日)

世界に目を向けると、4月1日時点で、823,626人(前日比72,736人増)、死亡した人は40,598人(前日比4,193人増)となっています。WHOによればまもなく、感染確認数100万人、死者数5万人を超える見通しです。

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(出典:https://www.worldometers.info/coronavirus/coronavirus-cases/ 、~4月1日)

現時点でみると、日本では人口100万人あたりの感染確認数17人、死者数0.5人、世界では人口100万人あたりの感染確認数110人、死者数5.4人です。(出典:worldmeters)この数字を他の感染症や交通事故・自殺など他の死亡数統計と比べて多いかどうかなどの議論などもありますが、その議論の前提を検証する以前に、感染拡大の途中に現時点でのスナップショットの数字で議論してもあまり意味がありません。今後、数字がダイナミックに変化するからです。

例えば、アメリカは3月13日に国家非常事態宣言を発令しましたが、その前日3月12日時点の感染確認数は1,630人(前日より329人増)、死者数は41人(前日より3人増)という状況でした。それから3月31日までに感染確認数188,853人、死者数4,053人と、19日間でそれぞれ115倍、98倍と急激に増加しました。(出典:Worldometers.info)この数字は残念ながら今後さらに悪化するとホワイトハウスの専門家チームは証言しています。

私たちの重要な関心事の一つは、今後感染がどれくらい、いつまで広がるか、あるいはそれをどれくらい抑えられるかにあります。そこで大事になってくるのが、「指数関数的な成長」に関して理解することです。

指数関数的な成長とは

指数関数的な成長(幾何級数的な成長)とは、何かが増加するスピードが、その結果増えた量の増加に比例して早くなっていく現象です。結果として、その何かは、「ネズミ算式」「雪だるま式」あるいは「倍々」に増えていきます。

例えば、人口や生物の個体数は、親となるペアが2人・2個体を超える子を産むことを、世代を超えて繰り返すことで指数関数的な成長を見せます。経済でもまた、工業資本(工場、生産設備、ツールなど)が、さまざまなモノを生産する際にその一部が工業資本の再生産に振り向けられることでますます多くの工業資本が生産できるようになります。お金もまた利息が元本に追加されて残高が増え、ますます多くの利息がついて残高は増加を続けます。さらに、社会では、口コミなどを通じてさまざまな商品や行動習慣の普及の成長を見せる際や、SNSやさまざまなプラットフォームの利用者数、事業者数が増えていく際にもみられます。

感染症も又、その拡大・蔓延期には指数関数的な成長を見せることで知られます。他の例であげたモノやコトは、だいたい何年から何十年の単位倍増し、流行商品などでもせいぜい数週間単位の倍増であることが多くありますが、現在流行している新型コロナウィルスは、数日単位で倍増しています。アメリカの3月12日~31日でみると、倍増期間は3日間を切っています。つまり、19日間の間に7回近くの倍増を繰り返して、115倍に増加にいたったわけです。

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(出典:https://www.worldometers.info/coronavirus/country/us/ 、~4月1日) 

 

私たちが習慣的に陥りがちな「線形」思考のメンタルモデル

私たちが一般にものごとを認識したり解釈したりする際の前提となる知識や枠組みのことを組織学習では「メンタルモデル」と呼んでいます。私たちは、よほどの訓練や厳格なプロセスを経ないと、しばしば暗黙にもっている自分自身のものごとを考える枠組みであるメンタルモデルによって、簡単にものごとの誤って解釈したり、見るべきことを見落とす傾向があります。例えば、多くの人は新聞の見出しに出るような「アメリカで感染確認数20万人超」「イタリアで死者1万人超」「世界の感染確認数100万、死者5万人に迫る」といった出来事にはびっくりしがちですが、その一方で、そこにいたるパターンを見たり、パターンに潜む兆候にはそれほど注意を払わないことがないでしょうか。

フランスのなぞかけで、「ある池に毎日2倍に増える睡蓮があり、30日間で池を覆うことが見込まれる。池の管理人は池の半分まで広がったら対策を打つことにした。池の半分を覆うのは何日目か」というものがあります。皆さんは、池の半分になるのは何日目だと思いますか? このなぞかけの答えは29日目です。倍増する睡蓮は、最後の1日だけで池の50%から100%までいっきに増加するのです。

このなぞかけに、驚く人が多くいますが、そうした場合に私たちがしばしば暗黙に考えている前提は、傾向やパターンを「線形」であると考えがちだからです。こうしたメンタルモデルに基づくと、「ある日1%何か増加したら2倍(100%増加)になるまで100日かかる」「ある日人数が2000人から2200人に増加したら、1日200人(10%)の増加だから4000人になるまで後9日間ある」といった具合です。しかし、指数関数的な成長をしている局面では、線形のメンタルモデルの類推は誤りです。実際に1日1%増える場合は70日で倍増します。1日10%増える場合は7日間で倍増です。(期間あたりの成長率を見る場合、70%をその%でわると倍増期間の概算ができます)

アメリカでは4月1日に感染確認数が20万人を突破していますが、その半数である10万人を突破したのはその5日前の3月27日、さらにその半数の5万人を突破したのは3日前の3月24日のことでした。最初の11日間の増加は、19日間の増加の4分の1に過ぎませんでした。

仮に倍増期間が6日間で続いた場合、60日間(2ヶ月)で10回の倍増期間を迎え、感染確認数は1000倍以上(2の10乗=1024)になります。もし倍増期間が3日間なら、わずか30日間で1000倍に増えてしまうのです。インペリアル・カレッジを始め多くの研究機関から桁違いと思える予想が出ているのは、感染症の指数関数的な成長する傾向をふまえているためです。(追記:インペリアル・カレッジのFerguson氏のシミュレーションではベースの倍増期間を5日間としています。)

指数関数的な成長をとげるパターンに対して、一般的なメンタルモデルのもつ傾向として、成長の早期は過小に見積もり、成長の終盤では課題に見積もるバイアスがかかりやすいものです。

感染確認数や死者数がもっと大きくなってから対策をとればよいという考えの前提には、この拡大成長をする傾向にある数値の絶対値を見て、「●●に比べればたいしたことがない」という判断があるかもしれません。しかし、しかるべき対策をまだその量が少ないうちに打たないと、指数関数的な成長による増大は、あっという間に私たちの対応可能なリソースを超えるものとなって、保有するリソースやキャパシティを超えて、医療体制の崩壊や感染トレーシング、ウィルス判定などの公衆衛生対策などのためにつながる甚大なリスクがあります。大抵、対策が効果を現すには必要な期間の分の遅れが生じることを鑑み、予兆を捉えて、私たちの通常のメンタルモデルよりも早めの対策が必要になります。

このことが、専門家会議の専門家たちの危機感につながっているのだろうということを感じています。提言には、私たちがどのような行動をとればよいかが書かれていますが、大変な事態を待つのではなく、早めの行動で事態を回避するのが肝要だということと考えています。この後、引き続き、この指数的成長を引き起こす構造と、私たちができる行動変容について考えてみます。

執筆:小田理一郎

(つづく>指数関数的な成長を生み出す構造と抑える構造)

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