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ループ1つで構成されるシステム原型(2)目標の追求
前のメルマガで「システム原型」17種類を表にして紹介しました。システム原型とは、さまざまな分野で共通してよく見られる問題の構造の基本パターンであり、問題状況の診断や対処を助ける指針となるものです。今回は、ループ1つで構成されるシステム原型の中から、「目標の追求」について紹介します。
目標追求の原型は、「バランス型フィードバックループ」1つで表現されます。この原型は、望ましい状態と現実の状態とを比較して隔たりがある場合、その隔たり(ギャップ)を埋めてバランスをとりシステムが安定する方向へ向けての変化をもたらす構造です。
例えば、一杯のカップに入った熱いコーヒーは、しだいに室温と同じになるまで温度が下がっていきます。身体が体温や、血糖値を調整するとき、空腹や眠気を解消しようとする行動など私たちの生理現象や日常の中で、目標追求型フィードバックループ構造を多く見つけることができるでしょう。
目標追求型フィードバック構造の特徴の1つは、システムの目標(この場合はコーヒーの温度=室温)に近づくにつれて、目標に近づく速度が遅くなります。ギャップが小さくなり、それによって反応も小さくなるためです。一定の割合で直線的に変化して収束点に収まるということはそれほど多くありません。
望ましい状態と現状のギャップが大きいと、それに対する反応も大きく、逆に隔たりが小さいと反応も小さくなるという傾向があります。営業でノルマまで隔たりが大きいときには、努力の投下量が大きく、そしてノルマまでの隔たりが少なければ投下量が小さくなる経験はないでしょうか? また、品質の基準を外れる不良や苦情が頻発する場合には、組織全体で相当の努力量がなされるのに対し、不良や苦情が発生してもその頻度が少ないときには、努力量はそうでないときに比べて減少し、あるいはほかのプライオリティに多くの資源が割かれるようになるでしょう。
バランス型フィードバックループは、成長局面での減速や停滞をもたらすこともあります。前回見たように、自己強化型フィードバックループは、加速度的に変化を強め、成長を生みだします。結果(アウトプット)が出れば出るほど、ますます新しい投入(インプット)がしやすくなるのが特徴です。ところが、このような変化が続くことはまれで、そのブレーキがかかるのです。
事業環境において次のような事例があります。
(参照:『フィールドブック学習する組織「5つの能力」』より)
アメリカのコネチカット州のとあるN病院では魅力的な外来診療所を開設しました。開業して2~3か月たつと、外来患者数が思ったように伸びなくなり頭打ちになりました。調査をしてわかったことは、外来者数が増えるにつれて、満席の待合室に長く待つことがふえ、それを嫌って患者は、別の施設にいってしまっていまっていました。
(図:出典(『フィールドブック学習する組織「5つの能力」』日本経済新聞社より)
同じように人気のレストランの浮き沈みや、ある人のプロジェクトの量がふえると質に影響して評判に影響するジレンマの構造など、ビジネスの一般的な教訓としてもよく見られるフィードバック構造です。
社会においても例えば、人口数は増え続けるばかりではなく、土地や資源のキャパシティとの関係で、いつか安定をしていきます。
このように、自然環境や事業、社会など様々な場面で目標追求型のフィードバック構造をみることができます。
バランス型フィードバックループで構成される、目標追求の原型について概観してきました。収束や停滞などのパターンがみられるとき、どのようなバランス型が働いているのか、そして、そのバランス型のもつ目標あるいは制約がどのようなものかを探ることが、地味ではありますがシステムの挙動を理解するもっとも重要な第一歩となります。
参考文献・出典
『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』(英治出版)
『システム思考―複雑な問題の解決技法』(ジョン・D・スターマン)
『世界はシステムで動く』(英治出版)