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(image photo by Dustin Tinney on Flicker)
(前回に続き、システム思考に基づくプロジェクト・マネジメント事例を紹介しながら、どのように知識創造型の「学習する組織」を築けばよいかを紹介します。)
プロジェクトの全体構造をじっくり観察し、対話により最善の意思決定をする
進行中のプロジェクトを、途中で変更することがしばしばあります。しかし、変更が多ければ多いほど、プロジェクトのパフォーマンスが下がることが明らかになっています。それでも、当初の計画とずれが生じた場合など、何らかの変更が避けられないこともあるでしょう。そうした場合、いつ、どのような変更をどの程度行えばいいのでしょうか? その答えは、業界やプロジェクトの特徴、プロジェクトのフェーズや活用できる資源の範囲によって異なりますが、プロジェクト・マネジメントにおいてはこうした点を考えておくことが非常に重要です。
大切なのは、プロジェクトのマネージャーやメンバー、経営陣、クライアントなどの関係者が、リワーク・サイクルや波及効果、ティッピングポイントを含めたプロジェクトの全体構造とライフサイクル上の影響を理解すること。そして、考えられる複数の変更案それぞれについて、直接の効果だけでなく波及効果まで分析した上で、最善の選択肢を選ぶことです。もし、当初の計画に対して遅れが生じ、かつスケジュールの余裕がない場合は、品質、スコープ、コストの間で何らかのトレードオフが避けられません。プロジェクトの目的や価値観の中で何が大事なのか、どういったトレードオフをどの程度なら受け入れられるのかを対話し、関係者全員が選択する方向性を理解することも必要です。
初期の設計段階で、背伸びしていませんか?
そもそもスケジュールやコスト上の超過が生じる理由の多くは、入札や初期設計の段階で、スコープ、生産性、人員数などの見積り精度が甘いことです。こうした見積りには、経験豊かなスタッフが十分に精査する必要がありますが、人員不足や経験不足のため、精度が甘くなることもしばしばです。また、設計の見通しが立っていないにもかかわらず、最終的な期限へのプレッシャーなどから見切り発車するケースもよく見られます。設計が未完成なままスタートし、あとで完成させようとすると、仕様変更と同様のロスが生じ、コストやスケジュールを超過させる原因となります。
入札や初期設計段階は、プロジェクト・システム内で最もレバレッジの高い段階であるにもかかわらず、このような事態に陥るのはなぜでしょうか? プロジェクトの遅れが日常化して、多くのスタッフが火の車だという事情もあるかもしれません。逆に、「プレッシャーが低過ぎると生産性が下がるものだ。ストレッチ(背伸び)した目標を与えなくてはならない」と考える経営陣やマネージャーもいるかもしれません。また、こうしたフェーズは直接的には収入を生み出さないため、経営判断上のプライオリティが低いことも考えられます。是が非でも仕事をとろうとするあまり、非現実的な見積りや計画に終始する場合もあるかもしれません。
そうした環境下での意思決定は、背に腹はかえられないもののようにも思えます。しかし、現実にはこうした私たちの判断が、スケジュールの超過を招き、過度な時間のプレッシャーを与えて、さまざまな波及効果や悪循環を生み出し、結果的にはプロジェクトメンバーやサプライヤー、クライアント、株主に顔向けできないような結果を生み出しているのかもしれません。
(次回、最終回)
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