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ダイエットを試みるDさんのストーリー
体重が増えてしまったDさんはダイエットを決意します。「やせたい」の一心で、食事を我慢しました。その甲斐あってか、理想の体重にも近づいてきました。
しかし、体重が理想に近づくと気が緩むのか、あるいは我慢の限界を迎えるのか、食事量が増えて、体重は増加して元の黙阿弥になってしまいます。ひどいときには、当初の体重を超えてしまうことも。Dさんはその都度ダイエットを決意し、食事を控えますが、何度もこのサイクルを繰り返しています。
繰り返し起こるパターンには、必ずそれを引き起こす構造があります。自然界にも、社会にも、理想や目標とする状態に現実を近づけようとする「バランス型」フィードバック・プロセスがあることが知られています。現実が理想から離れているとき、その差を埋めようとする力が強く働き、現実が理想に近づくと、その力は弱くなります。
二つの目標の対立:「構造化された葛藤」
実は食事を控えるダイエットは、人間なら誰もが持っているもう一つの目標との対立関係にあります。それは、飢餓を避け、生存を目指す目標です。空腹が続き体内の血中の糖分が少なくなると、脳が「食べよ」という命令を発します。非常に強い命令なので、これに逆らうのは並大抵のことではありません。その結果、いわゆる「リバウンド効果」によって、元の状態やさらに悪い状態に引き戻されてしまうのです。
Dさんの場合、「体重を減らすために食事を控えよう」という行動と、「飢餓を避けるために食事をとろう」という行動が、相反する目標の狭間を行ったり来たりするパターンを作り出しています。ロバート・フリッツはこのような状況を「構造化された葛藤」と呼びました。「品質とコスト」「中央集権と分散化」「短期的結果と長期的結果」など、ビジネスのさまざまな状況下でも日常的に見られます。
どうしたら、抜け出せる?
この構造の中で、一方の目標だけに注目して、ほかの目標の存在を無視しても、必ず反対の力が働きます。この状況を抜け出すには、相反する目標の関係を変えて折り合いをつけることが必要です。ではどうすればいいのでしょうか?
方法①:対立を起こさない目標を再設定する
生理的な「食べる欲求」は、そう簡単に折れてくれそうにはありません。そこで、一歩下がって見てみましょう。Dさんは「ダイエット」という方法にこだわっています。しかし、運動をしてカロリー消費量を上げるとか、筋肉をつけて基礎代謝量を上げるなど、食事面以外で理想の体重を目指すことも可能です。必ずしも「食べる欲求」と相反する関係に陥らなくても済むでしょう。体が必要としている1日のカロリー量を計算して、体重を理想に近づける運動量を設定することもできるからです。
方法②:「先行指標」により管理する
もう一つの視点は、結果だけを見ながらマネジメントしないことです。体重は努力に対してやや遅れて反応する「遅行指標」ですが、これだけで管理すると失敗しがちです。
例えば、1日のカロリー収支などの「先行指標」なら、もっと管理しやすくなります。運動や基礎代謝によって消費されたカロリーでもいいでしょう。そして、カロリー収支が中長期的に「消費>摂取」となるようにしておけば、体重という結果もそれに従って減っていくことでしょう。
こうして目標が両立するようにさえなれば、「最も抵抗の少ない経路」が開け、行ったり来たりはなくなるはずです。
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