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「目標のなしくずし」はどのように起こるのか?
Dさんは、若い頃から目標を持ってこつこつと勉強をしていました。好きな分野だったので、20代半ばくらいまでは、時間を見つけては勉強をしていたのです。
ところが、20代後半にもなると、会社でもいろいろな責任を担うようになり、夜や週末にも仕事が及ぶことが多くなりました。たまに時間が空いたときは疲れがたまって勉強をする気にはなかなかなれません。勉強をあまりしなくなって、その分野についていけなくなっているのを感じましたが、「仕事が忙しいのではやむをえない」と自分を納得させるようになりました。
それから、10年、20年と年月が過ぎ、Dさんはますますその分野での勉強はしなくなっていました。もうすっかり、その分野にはついていけなくなり、一抹の寂しさも感じていました。
Dさんのような状況は、システム原型の「目標のなしくずし」にあたります。Dさんは、自分自身のもつ理想と現実のギャップに常に悩まされます。本来、バランス型フィードバック・プロセスが作用するならば、「最近仕事ばっかりして、すっかり自分の勉強をしていなかった。たまには、勉強の時間をとろう」といった具合で、現実を高める努力が取られてしかるべきです。
しかし、忙しかったり、背に腹を変えられぬ状況においては、現実を高めるのではなく、目標を下げる力に屈してしまいがちです。
もちろん、こういった調整は時として必要です。問題は、このような調整が繰り返されてしまう時に起こります。「人は3度までは都度悩むものだが、3度屈してしまうと、その次からは、ほとんど悩むことなく、日常的に屈するようになってしまう」と言われます。目標の低下がさらに目標の低下を呼ぶ悪循環をつくってしまうのです。
(ループ図を見る)
理想と現実の差によって生まれる、「創造的緊張」と「感情的緊張」
理想と現実の差があったとき、その差を埋める方法は2つあります。1つは現実を高めて理想に近づけること。ここで生まれる緊張を、ピーター・センゲは「創造的緊張」と呼びました。
もう1つの方法は、理想を下げることです。理想と現実のギャップに悩む感情やそこから起こる衝動は「感情的緊張」と呼ばれますが、理想を下げてしまえば、そうした緊張を感じずに済みます。そのために、目標がなしくずしにずり落ちるという状況が生まれるのです。
理想と現実の差に焦点を当てることで2種類の緊張が起こりますが、それぞれの力をいかに上手に使うかを意識するといいでしょう。自分の中にある感情的緊張に注意を払い、その存在にきちんと対処することで、創造的緊張が力を発揮することができるのです。