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小田理一郎「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」(1) 「変化の理論、3つのポイント」

2010年10月17日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」を数回に分けてお届けします。)

私のほうからは、「システム思考による変化の理論と実践」と題してお話ししたいと思います。まず、なぜ失敗するのかに少し触れた後、それに対して変化の理論はどこが違うのか、そして実際に実践している大きな事例を1つご紹介します。最後に私たちの考える、変化をつくるために必要なことをお伝えしたいと思います。

なぜほとんどの取り組みが失敗に終わるのか―基本的に私たちはつながりを見失うからです。私たちが今やっていることが、将来どういうことにつながるのか、が見えていないことが多いわけです。ですから、良かれと思ったことが意外な展開をしてしまうとか、思わぬ副作用をもたらす。こういったことが多いわけですね。

現実に今起こっている問題というのは、実は昨日の解決策が、何らかの形でつながってきていることが多い。そういった意味で、システム思考では、「今日の問題は昨日の解決から生じている」と言います。

そうやって私たちが懸命に解決策を講じたとしても、回し車の中で走っているネズミのようなものです。ネズミが一生懸命速く走っても、輪がぐるぐる回るだけで、どんどん新しい問題が生じ、それを解決しても全体としては全然前へ進まない状況が起こったりします。

そのような状況にあるとしたら、ちょっと立ち止まり、一歩下がって、「全体の構造はどうなっているんだろう?」と考えることがこれからの組織には必要です。目の前のことだけでなく、もっと長期に考えることがいかに必要か。これがないと変化は失敗してしまいます。

もう1つ、仮にそこで一歩下がって、つながりを見て、正しい構造がわかったとしても、そのときに変化をつくろうとする人が、どういう態度でその変化に臨むか、がとても大きな要因だと思います。もし、企業の人が政府に対して「政府が変わりなさい」と言ったり、逆に政府が企業を指して「企業が変わりなさい」と言ったり、あるいは(組織の中で)「この部署が悪い」とか、「こういった人たちが悪い」という形で変化を起こそうとしたら、望むような変化は起きるでしょうか。

これが変化の理論の根本的な部分ですが、ほとんどの変化のマネジメントで見失いがちなポイントです。「これこれがこう悪いんだから、あなたが変わりなさい」というアプローチは、根本的に失敗します。なぜ失敗するかと言うと、「あなたが悪いから変わりなさい」と言われたら、誰でも大抵むっとします。「なぜ自分が?」と思います。抵抗して、むしろ変えたくなくなってくるわけです。

そして、そういうふうに相手を硬化させる最大の原因の1つが、変化をつくろうとする人が、自分とそこにある状況を分けてしまっていることです。恐らく客体として、自分を客観的に見ているようなつもりで、そこにある構造をあたかも機械かのように見てしまう。そしてその機械について、「この部品がまずいから、ここを取り換えましょう」とか、「ここに油を差しましょう」と見ていると失敗するということを、多くのマネジメントの中で経験してきました。

人や組織や社会を私たちがどう見ているか。たとえば社員を「リストラ」する、あるいは会社のプロセスを「リエンジニアリング」するという話がありますが、みんな工学的な言葉を使って企業の経営を語ります。企業が扱っている対象が、あたかも工場のパーツか何かのようにです。

でも実際に、企業経営で一番大事なのは人の部分ですよね。変化がなかなかうまくいかない理由の1つです。自分の家族のことを考えてみてもすぐわかります。私にも子どもがいますが、「これは悪いことだからやめなさい」と言っても、全然言うことを聞いてくれません。私が強く言えば言うほど、全然聞かないんですね。

それが大人の間ではどうでしょうか。契約とか給料がありますから、さすがにすぐに口答えすることはあまりないでしょう。表面上は言うことを聞いているように見えるかもしれません。でも、実際に本心から変わるかと言うと、そういうことではない。その場をやり過ごして、変わらないままです。そんなことが大人の世界では起こっています。

これは変化をつくろうとする人が、あたかもマシンに対するようなアプローチをすると起こることです。実際には、私たちは生き物を相手にしています。生き物を相手にするときに、「こうしろ」「ああしろ」という指図はあまり効かないんですね。それぞれの生き物は、システムの原理とか道理とか、そのシステムが存在し、働く理由があって動いていますので、何か変化を起こそうとするときには、人や組織や市場社会が生きているシステムとして働いている、ここを押さえることが重要になってきます。

生きているシステムについて考えるときに重要なのは、目の前にあることを「モノ」と見るか「コト」と見るか。ここに尽きると思います。

たとえばここに手があります。この手というものを見て、いろいろ分析することができますよね。骨格があってとか、筋肉があって血管がある、という具合に。それは果たしてこれはモノでしょうか。確かにモノかもしれません。でもコト(プロセス)という視点で見ると、実は常に細胞が死に、細胞が再生し、ということを繰り返している。そして3カ月か4カ月経ったときには、まったく違う新しい細胞にすべて入れ替わっている。そういうことがゆっくりと流れる川のように起こっていて、今はその一部をスナップショットで見ているに過ぎません。川のように、常に新しいものが入り、そして流れ出ていく。とてもゆっくりなので、私たちはそれを見てモノかと思うんですけど、実際に生きているシステムというのは、ほとんどが常に再生と衰退を繰り返していると見ることができます。

ですから、さまざまな目の前のコトについても、何が再生して入ってきて、何が出ていっているのか、の視点も必要になってきます。「動的平衡」という言葉がありすますが、万物が流転し川のように流れる世界において、何か固定して見えるというのは、入るものと出るものが均衡しているということです。

変化をつくろうとしたときに、何かを押したり引いたりします。私たちの変化への努力がうまくいっているときにはそれでいいんですが、どんなに引っ張っても動かないとしたら、「なぜ変化が起こらないんだろうか。そこでいったい何が起こっているんだろうか」を見ることが、変化の理論を考える上でとても重要なポイントになってきます。

変化の理論について、システム思考の世界にピーター・センゲ(著作の著者名はセンゲ)という人がいます。先ほど紹介したドネラ・メドウズさんと同じMITで勉強した、とても有名な人です。20世紀の経営を変えたマネジメント・グルの1人といわれているピーター・センゲですが、彼が変化の理論をどのように言っているか。要約すると次の3つです。

1つ目には、システム、つまり構造がどのように働くか。システムがどういう構造で、どういう働きで今のような形になっているのかを理解すること。2つ目に、そのシステムのパターンを変え、より良い未来をつくるには、どんなシステムの構造に変えることが必要かを考える。そしてシステムの構造をこう変えればいいとわかったら、3つ目にやることとして、そこに介入しようとしている自分の心のあり方がどうなっているかを見ること。この3つが、彼が言っている変化の理論です。

この3つのうち、特に1番目のポイントと3番目のポイントをこのあと詳しく紹介していこうと思います。

まず1番目のポイントの、「システムがどのように働くか」についてです。これはまさにシステム思考でやってきていることそのものです。システム思考の重要な考え方は、目の前に出来事があったら、必ずその奥底に潜んでいるものがあるということです。その奥底に潜んでいるものというのは、大きな流れとか繰り返し起こっているパターンなどです。

たとえば株価が下がったとか、GDPがどうなったとか、会社の売り上げがどうなったとか、そういった出来事があったとき、それは実は、大きな流れの中の出来事に過ぎません。その大きな流れを感じる力が必要になります。ピーター・センゲの最初のポイントは、このパターンを見て構造を見るということです。

大きな流れやパターンがわかったら、どんな構造がその流れをつくっているのかを考える。そして、構造の奥底にはメンタルモデルがあります。私たちの視点のレベル、つまり私たちに見えるものというのは、何を意識しているかによって違います。自分の意識をより深いところに持っていけば、変化と学習のレバレッジが高まる、というのがシステム思考の基本的な考え方です。

たとえば、これはある大学の笑い話のような話ですが、ある学生が基盤のテストをしていました。工場から送ってもらったバッチが200個入っていて、200個の基盤がちゃんと作動するかどうか、合格品かどうかをテストするために、1個目に電気を通してみたら、いきなりショートしました。「あ、これ、不良品」ということで分けます。2個目をやったら、またショートしました。3個目をやったらまたショートしました。その人はそれを延々と続けて、200個全部やってしまって、全部ショートしました。するとその学生は、「この工場はとんでもない」と。「全部のパーツが不良品だ。とんでもないものを売りつけて、代金は払わないぞ」と言ったそうです。

でもこれは、ちょっと考えれば気づくのではないでしょうか。どんなにひどい工場でも、ちゃんと操業している工場だったら、200個全部が不良品というのはまずあり得ないことです。何が起こっていたかと言うと、要はテスト用の基盤が電圧をかけ過ぎるという間違いだったんですが、その学生は目の前の製品にしか目を向けず、延々と200回もテストを繰り返したそうです。当然あとになって、「これはテストの回路がおかしい」と先生に直されることになりました。

200回というのは極端な例ですが、こういうふうに、繰り返し起こっているパターンがあって、努力しているにもかかわらず変わらない。こういったことがあったときには、「ちょっと待てよ」と。「目の前に見えていることではない、もっと大きな流れがあるんじゃないか」と、そんなふうに感じたほうがいいでしょう。

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▼プレゼンテーションスライド
http://change-agent.jp/files/Riichiro_Oda_on_Change.pdf

▼講演録
(1)「変化の理論、3つのポイント」
http://change-agent.jp/news/archives/000388.html
(2)「人を変える前に自分が変わる」
http://change-agent.jp/news/archives/000390.html
(3)「U理論で食糧システムの転換に挑む」
http://change-agent.jp/news/archives/000391.html 
(4)「メンタル・モデルから自らを解き放つ」
http://change-agent.jp/news/archives/000396.html
(5)サプライ・チェーンに起こった変化
http://change-agent.jp/news/archives/000400.html

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