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新年のご挨拶2025(後編)

2025年01月28日

新年を迎えた折、前回に引き続きチェンジ・エージェント社創業から20周年を振り返り、これからの展望について紹介します。(学習用の記事ではありませんが、貴社の活動にご関心お持ちいただける方はどうぞ読み進めてください。)

創業からの20年間を振り返る(3)発達成熟期(2015年~2019年)

ここまでのリーダーシップ開発及び組織開発手法の研修を行いながら、日本社会の実課題に向き合い、そこからの学習をフィードバックするサイクルは、方法論やプロセスに磨きをかける役割を果たしました。20154月開催の10周年記念イベントにおいて、「システム・リーダーシップ」を掲げてからの5年間は、日本の現場でいかにインパクトをつくるか、いかにリーダーの内面の発達を図るかに没頭する発達成熟期へとシフトしていきます。

2016
年、成人発達理論をビジネスリーダーの育成に活用したリーダーシップ開発の大家ビル・トルバート氏の著書『行動探求』を上梓します。ビルを日本に招聘して行動探求のワークショップを開催して、二次、三次の高次学習を深化させて、自分自身のメンタル・モデルやソースへの気づき、意識を広げる手法を日本に紹介しました。その後、行動探求は学習する組織におけるメンタルモデルと自己マスタリーのディシプリンを深める柱となって、リーダーシップ開発の柱として提供を続けています。

同年、プレゼンシング・インスティテュートのアラワナ・ハヤシ氏を日本に招聘して、U理論を認知(頭)で考えるのではなく知覚(体)で感じすることで、意識を広げる変容の手法について学ぶ「組織・社会変容を導く意識とリーダーシップ」を仲間たちとともに協同主催しました。アラワナとは祖先が小田と同じ青森県出身というご縁もあって、ハヤシ家のルーツを探る旅に出かけたこともよい体験となりました。

2017年からは、プロセス指向心理学の日本での第一人者の一人、横山十祉子さんとの協働で「システムアウェアネス」のセミナーを提供し、リーダーたちの成熟のために知覚、体感を活用しながら自らの無意識へとアクセスし、意識を広げる手法を伝えています。ピーター・センゲは複雑性の理解には、システム思考だけでなく、アウェアネスを通じた「システム・センシング」が重要だと強調します。行動探求、U理論、プロセス指向心理学はまさに、認知や頭で考える限界を補完する手法としての重要性を実感しています。

内面での深化と並行して、より幅広いビジネス及びソーシャルの課題文脈でシステム思考と学習する組織の実践を続けていきました。それらの集大成として2017年には、小田理一郎著『「学習する組織」入門』と『マンガでやさしくわかる学習する組織』を発刊します。

この頃まで顧客からの需要はおかげさまで着実に増えましたが、残念ながら案件をお請けしきれないケースも増えていました。そこで2015年よりパートナー講師との連携や社内講師の育成を重ねて、チームとしてシステム思考、学習する組織の研修需要に応える体制が確立したのもこの時期でありました。

また、これまでのリーダーシップ開発の体験から、2日間のワークショップ単発では、初学者がシステム思考や学習する組織を実践レベルで使いこなすことの難しさを実感していました。そこで、4ヶ月集中で方法論を学ぶと同時に実践を進め、相互コーチと共に学習チームを形成して、チェンジ・エージェント講師が伴走する中期プログラム「チェンジ・エージェント・アカデミー」を開始しました。合わせて、震災以来深いご縁のある宮城県石巻市へ復興の地を訪ねリーダーシップについて探求する「ラーニング・ジャーニー」のプログラムを開始しました。

小田は2018年より東工大(現東京科学大学)の社会人向けMOTコースの非常勤講師として「人と組織のマネジメント~学習する組織」の授業を、また、同年秋より新設の至善館MBAコースにおいて枝廣(常勤)と小田(非常勤)が「システム思考とサステナビリティの挑戦」を担当し始めました。おかげさまでどちらも7年間にわたって定評をいただいております。

2018年には、アダム・カヘンの4作目『敵とのコラボレーション』を翻訳し、日本に招聘してワークショップを実施します。さらに国際ファシリテーター協会(IAF)の受賞歴を持つ認定プロフェッショナルファシリテーター、ジリアン・マーティン・ミアーズを招聘し、欧州で人気を博する「ファシリテーションの基盤」コースを3年続けて実施しました。

サステナビリティの側面では、20151月より同年採択されるSDGsを国内のインフルエンサーたちへ伝え、啓発に努めました。気候変動では、枝廣が安倍内閣の「パリ協定による成長戦略」委員会の委員に就任します。枝廣は、アル・ゴア氏が設立したクライメイト・リアリティ・プロジェクトの日本展開を支援し、小田はクライメート・インタラクティブの開発した政策シミュレータC-ROADSEn-ROADSの日本語化を支援すると共に、同ツールを利用したソーシャルシミュレーションのファシリテーションを行っています。

2018年、ディヴィッド・ピーター・ストローの『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』を翻訳し、ディヴィッドを招いての社会課題へのシステム思考活用に関するワークショップを開催し、レクティブ・インパクトや変化の理論などの考え方を紹介します。同年、インパクト・マネジメントに関して定評のある英国NEFコンサルティングと共同開発を行い、「社会的インパクトを測る」「変化の理論(TOC」の2日間コースの提供を開始しました。

この5年間は、自己マスタリーやメンタル・モデルにおける内容面の深化と特に社会課題面での幅の広がりが特徴的な時期となりました。

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創業からの20年間を振り返る(4)激動期(2020年~2024年)

2020年代の10年間を展望して始動した2020年、世界と日本はCOVID-19のパンデミックにさらされます。これによって、物理的に対面する「場」や人と人の「コンタクト・ポイント」を重視した私たちのサービスモデルの大幅な見直しに迫られることとなりました。

2020
2月下旬以降の対面のセミナーはすべて開催を見合わせ、4月からはプログラムのオンライン化を順次進めていきました。同時に、オンラインならではの特徴を生かせるプログラムの開発も行い、4月から「ビジネスシミュレーションでシステム思考を学ぶ」シリーズを提供、また、海外講師たちとオンラインでつなげて「システム原型」「レバレッジの効いたリーダーシップ」「ファシリテーションの基盤」「社会生態システム」などのウェビナーを展開していきました。

一部の体感覚を重視するコースの提供見合わせを続けていましたが、202210月から徐々にソーシャルディスタンスをとりながら集合形式のセミナーを再開していきます。2023年はオンラインと集合の両形式を平行したものの、オンラインの需要が減っていったため、2024年までに定番コースはすべて集合形式となりました。

一方で、日本全国どこからでも参加しやすいオンラインのメリットを活かし、継続的な学習実践の場を残しています。2021年に開門した「システム思考家 実践道場」を開設、2023年には初学者向けの「システム原型 入門道場」を加えて、オンラインによる継続的な学びの場を提供しています。こうした積み重ねを経て2024年創設されたのが、「システム思考実践発表会」であり、今後も継続的な学びの場を提供していく予定です。

海外から日本への入国がより平常化した後の20233月、『共に変容するファシリテーション』を発刊したアダム・カヘン氏を招聘しました。特別セミナーとワークショップを開催して、水平・垂直のファシリテーションを統合する手法を学びました。アダムとは、同年7月彼の第一作となる『Solving Tough Problems』を復刊し、新たに『それでも、対話をはじめよう』とタイトルを刷新して上梓しました。

2024年は、長年の友人リンダ・ブース・スウィーニー氏を招聘します。リンダは、5歳から70代の大人までシステム思考をわかりやすく伝えることで定評があります。今回は、リンダンが多数の財団と共にどのように社会起業家たちを助けてきたか、また、オバマ財団でのシステム・リーダーシップの取り組みをもとにワークショップをデザインしました。

サステナビリティの観点では、クライメート・イニシアチブのEn-ROADS日本語版の支援を続け、そのワークショップを継続開催しています。20241月にはMITのジョン・スターマン教授が来日、1週間に17カ所700人のリーダーたちにEn-ROADSのワークショップを実施しました。

社会・生態システムに関しては、2023年長年の友人である生態系学者のヤン・センジミールによるウェビナーを通じて、レジリエンスやクロススケールのシステム効果など重要なシステム概念を学びました。ヤンの来日の際に、佐渡を一緒に訪ねて、トキの復活の取り組みへの視察を行いました。その際、日本が誇る太鼓芸能集団「鼓童」の音楽に触れ、2015年にチェンジ・エージェント社員がシステム思考の講演以来となって、日本の伝統的音楽芸能を世界に伝える人たちとの間に運命的な出会いを感じています。

20244月には、サステナビリティに関する企業戦略や街づくりについて、参加型で共通理解を深め、分野横断のコレクティブ・インパクトを深めるためのVISISワークショップを市民有志と共に開催しました。VISISとは、「ビジョン」「指標」「システム」「イノベーション」「戦略」の英語頭文字で構成されるワークショップのステップを表しています。特徴的なのは、ゴールを一つに絞らず、自然(N)、経済(E)、社会(S)、そして個々人のウェルビーイング(W)の4分野にまたがり、それぞれのゴール間のつながり、トレードオフ、そしてシナジーを探求することです。45回のセッション(通しで2-3日間)でピラミッドの模型を一緒に構築する参加型のプロセスは、多くの人に当事者意識をもっていただくのに役立ちます。

この5年間は激動の時期ではありましたが、国内で社会課題に取り組むさまざまなNPO、あるいは国際的に活躍するNGOと一緒に、システム的な課題構造分析、ビジョン策定、あるいは変化の理論(TOC)策定、インパクト指標設計などの仕事に多数取り組みました。日本において、社会課題に対する関心の高まりと実際の取り組みの成熟化を感じる時期でもありました。

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2030年を展望して、2025年に何を目指すか?

こうして20年を振り返ると、さまざまな方たちから恩やご縁をいただきながら、仲間たちと一緒にずいぶんと遠くまで来たものだと実感します。けして平坦な道ではありませんでしたが、その都度関わり続けることで、道が拓けていったことを実感します。とりわけ、より多くの人や組織がシステム思考の必要性を実感し、学び、あるいはその応用を求めています。リーダーシップのあり方もまた、機関車のように牽引するリーダーシップよりも、VUCAといわれる時代に現場単位で全体を俯瞰しながら考えて実行する分散型のリーダーシップネットワークが求められるようになり、改めて学習する組織の意義が見直されています。

翻って世界では、人権、格差、気候災害や紛争の問題に加えて、インフレで舵取りの難しくなった経済、右傾化し対立や自国主義を推進する政治、大国の独裁者たちによって不確実性を増す地政学リスクなど、「厄介な問題(Wicked Problem)」がさらに「絡み合った問題状況(Problematic Situation)」を構成しています。気候危機と生物多様性危機による「デュアル・クライシス」、それに資源問題を加えた「トリプル・クライシス」、さらには上述の経済・社会・政治・公衆衛生などの危機が重なり合った「ポリ・クライシス」が大きな文脈を設定します。AIやバイオなどの技術のイノベーションもまた、こうした文脈の中で、社会にとっては恩恵となるのか、かえって害悪となるのか、その分かれ目は私たちの組織や社会におけるガバナンス次第とも言えるでしょう。

この5年は、現代文明にとって大きい岐路となりえます。2030年と言えば、気候危機に対する「パリ協定」や持続可能な開発アジェンダであるSDGsといった国際的に重要な目標の節目を迎えます。この20年間の進展はあったものの、ゴールに向かって有意にインパクトを残すには、一層の加速が必要であり、そのためにはさまざまな関係者の結集、協働、レバレッジあるリソース投下のシームレスな展開が求められます。

そのカギを握るのが、「システム的なアプローチ」をさらに広げ、より効果的に活用すること、そして関わる私たちの「当事者意識」です。チェンジ・エージェント社が目指す社会の中での使命は、これらカギとなる要因に関わる能力開発とエコシステムの形成であると考えています。

システム的なアプローチについて、その基礎となるシステム思考、つまり要素還元・線形的な在来型の思考ではなく、よりつながり、循環、蓄積、波及効果を重視する思考への転換をさらに加速して進めます。基本となる考え方やツールは、より教育の仕組みを通じて広げるのが望ましく、この数年高まってきている教育セクターでのシステム思考教育の普及を後押しします。同時に、組織や社会の変化の担い手に対しては、より現実に取り組む課題についてシステム思考のプロセスやツールをいかに活用するかの能力開発支援を進め、実装の事例の発信も広げていきます。デニス・メドウズ、ジョン・スターマン、ディヴィッド・ストロー、リンダ・ブース・スウィーニーらに学んだ方法論に加え、日本国内でチェンジ・エージェント社が直接・間接に取り組み、あるいは取材した事例が有用だろうと考えます。

システム思考の実装で欠かせないのは、多様な関係者が集い、対話し、ともに今の現実と未来の可能性を探求するような場を招集し、そして率直かつ建設的な対話をファシリテーションすることです。アダム・カヘン、ジリアン・マーティン・ミアーズらに学んだファシリテーションの技術とあり方はその基盤となります。また、チェンジ・エージェント社の役員・社員が、組織や地域、国際社会の課題についてファシリテーターを務める場面を通じて、システム的な課題構造分析やビジョン・戦略・TOC策定を支援し、また、国内外の他のファシリテーターたちとも協働してファシリテーションの実践をより身近に、そして効果的なものとしていきます。

リーダーシップとは、地位によって得るものではなく、誰もが当事者意識をもつことによって、まず自身の生き方において、そこから広がって家族、チーム、部課などの集団において、そしてより大きな会社組織や業界、市場、地域社会においてリードすることを選択できるものです。そして、より大きな集団でのリーダーシップを発揮せんとする者は、カリスマやヒーローといった「ひとりのリーダー」の幻想を棄却し、さまざまな人たちによる集合的に構築されるシステム・リーダーシップを習得するのが効果的でしょう。固執を手放し、謙虚さを備え、脆弱さに身を委ねることのできる人こそが、組織や社会の変容、トランスフォーメーションの触媒たりうるのです。チェンジ・エージェント社は、そうした変容型リーダー育成、個人と組織、そしてつながりに関する能力開発を通じて支援していきます。ピーター・センゲ、ビル・トルバート、オットー・シャーマー、アラワナ・ハヤシなどから学んだU理論、発達理論、ラーニング・ジャーニーなどの越境学習、システムアウェアネスなどを活用しながら、より大きなシステム規模でのシステムチェンジを誘発し相互に学習するリーダーたちのエコシステム形成を支援していきます。

本年4月には創立20周年イベントを迎えます。その際には、国内外でシステム・リーダーシップの先鞭ともいえるような取り組みをしてきた実践家たち8人をお招きして、「システムチェンジのためのシステム・リーダシップ~未来を共創するリーダーたちのあり方」を開催します。基調講演には、ジリアン・マーティン・ミアーズ氏、横河電機で未来共創イニシアチブのプロジェクトリーダーを務める玉木伸之さん、カカオのサプライチェーンにおいて児童労働撤廃に向けてルールメイキングなどの動きを集合的に築いた白木朋子さんをお迎えするほか、他のゲストたちも国内屈指の方たちばかりです。

同じく4月、ジリアン・マーティン・ミアーズ氏との共同で6年ぶりとなる「ファシリテーションの基盤」ワークショップを開催します。9月には、システム的なアプローチとサステナビリティの国際ミーティングが日本で開催される機会を活用して、多数のサステナビリティ・プロフェッショナルたちと共に「サステナビリティのキャリアを考える(仮)」シンポジウムと、マルチ講師体制による「システム・リーダーシップ」のワークショップを開催する予定です。

これまで4冊の著作で協働させてもらったアダム・カヘン氏の最新作『Everyday Habits for Transforming Systems』(原書4月発売)の翻訳に取りかかります。出版に当たっては、アダムを日本に招聘してイベントを開催する予定です。また、出版は少し先になりますが、チェンジ・エージェント社がシステム思考を日本で教え、実装してきた体験を踏まえたシステム思考の実践書にもとりかかります。

セミナー・研修では、従来の定番セミナーに加えて、「社会課題のためのシステム思考」シリーズを下半期より展開する予定です。また、上半期の一連のシステム・リーダーシップに関するイベントの経験をもとに、同テーマの研修・セミナーを定期的に開催することを企画する予定です。

2025年は年始から予定が盛りだくさんとなっていますが、こうした取り組みを進めていけるのも、チェンジ・エージェント社の仲間と応援してくださる人々がいらしてのことです。これらの取り組みを行うことが、それぞれの志の実現、成長において重なることを願いながら協働を続け、その輪を広げていけたらと願っています。

これまで以上により一層、応援してくださる皆様、社会、そして未来世代の方々に恩返し、恩送りをしてまいる所存です。本年もどうぞよろしくお願いします。

小田理一郎
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