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システム思考:複雑な世界を理解する手段(2)(リンダ・ブース・スウィーニー)

2024年04月26日

(本記事は、リンダ・ブース・スウィーニー博士による執筆の続編です。前半をお読みになりたい方はこちらからどうぞ。)

さらに知りたい人向けに

ここまでのところよろしいですか? よさそうですね。ここまでで、システムとは何か、システムはどのような振る舞いをするのか、基本的なことはご理解いただけたでしょう。もう少し先に進みたくありませんか? 以下は、システムについて考えるための、他のいくつかの試行錯誤で確かめられた方法です。

  • 「氷山の周りの水位を下げる」:システムの構造が振る舞いに与える影響を見る
  • 「おっと、そんなつもりじゃなかった!」:意図しない結果を理解する
  • システム思考家の時計:異なる時間の見方
  • 遅れを発見する
  • バスタブのように考える

「氷山の周りの水位を下げる」:システムの構造が振る舞いに与える影響を見る

私がシステム思考から学んだ最も深遠で実践的な習慣のひとつは、意識的にシステムを複数の視点から見ること、より具体的には複数の視点のレベルから見ることです。教師が直面しうる例を挙げましょう。ジョニーが学校に遅刻すれば、その日の彼は学校で得られる特権を失うかもしれません。しかし、この「出来事」レベルの視点は、しばしば、物語の全体像を把握できていません。システム思考は、私たちが目にする振る舞いのパターンが、どのような構造(システム内の要素間の関係)によって引き起こされているのかを見るために、立ち止まって水面より下を見るようにと教えてくれます。これら振る舞いのパターンは、私たちが反応する出来事に影響を与えるのです。

iceberg.png

図1:氷山モデル

この考え方を氷山に例えて考えてみましょう。氷の10パーセントだけが「水面より上」にあり、90パーセントは水面下にあります。ジョニーの場合、遅刻という「出来事」があります。具体的には、ジョニーは毎週火曜日と木曜日の朝に遅刻します。ジョニーとその家族に、なぜこのようなことが起きているのか、さらにもう一段階掘り下げて見てみると、火曜日と木曜日の朝は、ジョニーの母親が母親の兄弟を幼稚園まで送っていかなければならず、そのためにジョニーが授業に遅刻することが多いことがわかるかもしれません。教師と親が実際にこのレベルまで会話と探求を進めれば、問題に対する創造的な解決策がいくらでも思いつくかもしれません。

間違いなく、私たちを最も夢中にさせ、最も反応しやすいのは出来事です。火災が発生したり、プロジェクトを期限内に完了させる「奇跡」を起こしたり、株式市場が跳ね上がったり下がったり、原油価格が高騰したり。そして一般的なルールとして、私たちはまず出来事に集中する傾向があるだけでなく、その状況がより大きなパターンにどのように当てはまるのか、あるいはそもそも何がその状況を引き起こしているのかを考えるよりも先に、即座に取るべき行動が何かに目を向けてしまうのです。

同時に、出来事レベルで反応することは、重要な状況においては極めて適切であることも忘れてはなりません。例えば、誰かが走行する車の前へ走り出していたら、大声で止めようとしたり、あるいは突き飛ばしたりするのが正しい行動だったりします! しかし、私の家の近所のように、月に数回、同じ角で人がぶつかっているのを見かけたら、「水位を下げて」、どのような相互作用が事故のパターンを引き起こしているのかを調べるのが有効でしょう。例えば、日差しが最もまぶしい時間帯に子供たちが道路を横断していることを発見し、子供や大人が道路を横断する際に使う反射性の高いオレンジ色の旗を提供することでこの問題に対処できるかもしれません。

「おっと、そんなつもりじゃなかった!」:意図しない結果を理解する

問題を抱えたとき、私たちはすぐに解決できる方法を探すことがよくあります。その解決策は、少しの間問題を和らげるかもしれませんが、私たちが意図していなかった結果をもたらすかもしれません。

このような現象は、あなた自身や周囲でも経験ありませんか。例えば、親が子供と過ごす時間を増やしたいと考えたとしましょう。そこで、仕事の後に子供たちと遊び、つい子どもの寝る時間を過ぎてまで遊んだとしましょう。子供たちはあなたとの時間を増やすことができますが、意図しない結果として、翌朝の子どもは不機嫌で疲れてしまっています!

システム思考について知れば知るほど、意図しない結果に不意を突かれることなく、それを予測することができるようになります。時には、結果を引き起こす行動が、それほど重要でないように見えることもあります。例えば、蒸し暑い土曜日の午後、子供たちが落ち着きません。あなたは子供たちを地元のビーチに連れて行き、涼ませようと決めました。家族みんなを車に乗せて湖に向かうと、町中の誰もがまったく同じことを考えていました! 家族連れはビーチのあちこちにタオルとタオルを詰め込み、指定された遊泳区域は満員で誰も泳ぐことができません。あなたの子供たちも含めて、みんなイライラしています! あなたもイライラしていますが、ビーチに来ることを決めた他の人たちと同じように、自分も混雑問題の一端を担っていることに気づいていないかもしれません。(このような状況はよくあることなので、システム思考家はこれを「共有地の悲劇」として知られるシステム原型として特定しています)。

システム思考は、意図しない結果を予測したり回避したりするのに役立つだけでなく、意図した結果を強化するよう促すこともできます。例えば、最初の成功がさらなる成功につながることはよくあります。初期の成功に投資する(例えば、銀行口座にお金を入れたり、子供と一緒に時間を過ごしたりする)ことで、後に配当が得られます。意図した結果を意識することは、物事がうまくいかない様子に注意を払うことに役立ちます。また、初期の努力が報われるのを見るために必要な忍耐力を養うことにも役立ちます。

システム思考家の時計:異なる時間の見方

システム思考家は、時間のとらえ方が普通の人とは大きく異なります。ひとつには、ほとんどの生命システムは、短期間ではその行動の完全な「サイクル」を示さないことを理解しているからです。そのようなシステムを理解し、扱うためには、より長い時間軸でその振る舞いを見る必要がある。例えば、ペレストロイカの数年後、ソ連の経済状況はほとんど変化しませんでした。しかし、システム思考家のドネラ・メドウズが説明するように、「人々はそれを失敗と呼び、国家の資本工場、疲弊した土壌、不満を抱えた労働力が活性化するまでにどれほどの時間がかかるかを理解していません」。もうひとつの例として、指導者たちは自分の政権中に起こった経済的な改善を自分の手柄とするのが一般的です。しかし、そのような経済的変化は、おそらく2つも3つも前の政権が就任するはるか以前から動いていた可能性が高いものです。

しかし、長期的な視点に立てば、数回のリーダーシップの交代よりもさらに長い「時間的視野」が必要になることもあります。例えば、ナシュア・インディアン(ニューハンプシャーに住んでいた先住民)は、何か決断を下す前に、7世代後への潜在的な影響を考慮しました。あるいは、ガーデニングをする人なら、種まき、発芽、成長、結実、食用、腐敗のサイクルから知ることでしょう。

システム思考家の時間観を身につけるにはどうすればいいのでしょうか? まずは、私たちの社会に存在する膨大な数の力と、それらがその効果を発揮するのに要する時間を意識することから始めましょう。次に新聞を読むときは、ある記事を選び、その出来事が今後1週間、数カ月、数年、数十年、さらには数世代にわたってどのような影響を及ぼすかを考えてみましょう。

遅れを発見する

長期的視野で見ることを学ぶもうひとつの方法は、遅れを見つける練習をすることです。例えば、ティーンエイジャーを持つ親が心がけていることですが、家族やコミュニティの大切さについて子供たちに教えても、子供たち自身が大人になる前まではそれらが「身にしみる」ことはないかもしれません。

この種の遅れ(つまり、あなたの行動とその効果の証拠が出るまでの間のタイムラグ)は、意図しない結果が起こる最大の理由となりえます。なぜでしょうか? なぜなら、自分の行動の結果がすぐに現れないとき、私たちはしばしばシステムをいじり続け、すでに適切な行動をとっているにもかかわらず、さらに「修正策」を考え出すからです。(結果がまだ明らかでないため、その措置が効果的であったかどうかがわからないだけなのです)。

例えば、あなたも多くの人と同じように、シャワーの温冷調節と毎日悪戦苦闘しているかもしれません(訳注:古いホテルに泊まったときにボイラーから各部屋まで長いパイプでつないでいる施設を想定してください)。シャワーの水が冷たすぎると感じると、温度調節器を「温」にします。しかし、お湯が温まるまでには時間がかかります。震えながら、さらに温度調節ダイヤルを「温」に上げます。しかし、ようやくお湯が温まったと思ったら、今度は熱すぎとなります。そこで温度調節ダイヤルを「冷」に戻して、また同じサイクルを繰り返します:お湯が冷めるまで時間がかかるので、ダイヤルをひねって「冷」にします。どなど......

遅れを理解することで、このような効果のないシステムいじりを避けることができます。遅れについて知れば知るほど、自分が意図していなかったような結果を避けるチャンスが増えるのです!

バスタブのように考える

これまで私たちは、相互関係、循環的な原因と結果、遅れの影響などに焦点を当てたシステムについて考える方法を探ってきました。原因と結果が互いにどのように影響し合うかを示す簡単な図もいくつか見てきました。システム思考についてさらに興味深いことを知りたければ、この図のもうひとつを詳しく見て見ましょう。

SavingAccountBalance.png

図2:預金残高

この図は、普通預金口座の残高とその残高に対する利息の支払いの関係を示すフィードバック・ループですが、さらに何かがあります。もう少し詳しく見てみよう。口座の残高は一種の浴槽のようなもので、お金はどんどん増えていく(もちろん、引き出しをしない限りは!)。つまり、残高は蓄積していくものなのです。一方、口座に利息を支払うことは、残高が増えるほど速く流れる蛇口のようなものです。つまり、それは行動、あるいはプロセスのようなものです。システム思考家は、あなたの口座残高を「ストック」と表現します。

そして利息の支払いは「フロー」となります。それぞれが互いに影響を与えています。

バスタブと蛇口のように考えること、つまりシステムをストックとフローで構成されていると考えることは、システムのより微妙な関係を理解するのに役立ちます。

StockAndFlow.png

図3:ストック&フロー

システム思考家のドネラ・メドウズは、ここでも興味深い見解を示しています。彼女が説明するように、私たちは国家の財政赤字(期間当たり借金、つまりフロー)と国の債務残高(累積債務、つまりストック)の違いを理解する必要があります。メドウズが指摘するように、単年の財政赤字額を削減しても債務残高の水準は下がりません。債務残高が蓄積される速度は遅くなりますが、債務そのものは依然として蓄積され続けるのです。

これは微妙な点ですが、理解することが重要です。ほとんどの人は、ストックを増やすには、そのストックへの流入を増やすことが必要だと思い込んでいます(例えば、銀行に多くのお金を貯めるには、期間当たりの預入額を増やす必要がある)。しかし、ここが気づきにくいところですが、流出を減らすことによってもストックを増やすことができます。メドウズが説明するように、私たちは新しい設備に投資するだけでなく、古い設備を修理し、維持することでも国をより豊かにすることができるのです。

(リンダ・ブース・スウィーニー執筆、小田理一郎翻訳)

原典:When a Butterfly SneezesA Guide for Helping Kids Explore Interconnections in Our World Through Favorite Stories (Pegasus Communications, 2001)から抜粋. 著作権 ©2001 by Linda Booth Sweeney. 著者の許可を得て翻訳掲載


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