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アダム・カヘン氏講演録「共に変容するファシリテーション」(3)

2023年07月07日

この講演録では、南アフリカのアパルトヘイト問題をはじめとして、難しい状況に向き合い続け、解決に導いてきた世界的ファシリテーターの一人であるアダム・カヘン氏の日本での講演(2023年3月10日実施)の内容を3回に分けて報告します。本記事はその3回目で、変容型ファシリテーションとファシリテーターのとる10の外側の動きと5つの内側のシフトについて紹介します。


これからお話しすることは、この基本構造から導かれるものです。協働しようとするグループが変化を起こし、方向性を定め、前に進むためには、5つの問いに答えなければなりません。一度に一つでもなく、順番でもなく、一度きりでもなく、何度も何度も、この5つの質問に戻ってきます。包括的な問いは、私たちはどのように変化を創造するか? 具体的な最初の問いは、私たちの状況をどのようにとらえか? メキシコのワークショップでやっていたレゴのモデルがそれにあたります。

  • 1つめに、私たちの状況をどのようにとらえるか?
  • 2つめに、成功をどのように定義するか?言い換えるならば、どこを目指しているのか?
  • 3つめは、現在地から目的地までどのような道筋をとるか?
  • 4つめは、自分たちの中でどのように組織化、調整をしていくのか?つまり、誰が何をするかをどのように決めるか?
  • 5つめに、最も根本的な問いとして、自分の役割をどのように理解するか?

5つの問いと2つの極性を行き来しながら共に前に進む「変容型ファシリテーション」

5つの問いですが、それぞれの問いに対して、2通りの答えがあります。そして、この同じ極性が5回繰り返されることになります。そして、巻末の図は非常に複雑な図ですが、この考え方を説明します。

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本とこのスライドですべて説明してありますので、5つとも詳しく説明するつもりはありませんが、この例だけ挙げてみます。私たちの状況をどのようにとらえるかという問いに答える場合、垂直型の答えは、「主張する」ことです。例えば、「私はこのように状況を捉えています」というでしょう。(水の入ったペットボトルを指して)「このボトルは1/4空いていると思います。」これは私の考え方で、私は主張しています。私はこういう風に見ていると言っているのです。主張することのプラス面は、専門知識をグループの仕事に持ち込む機会を提供することです。意思決定がしやすくなります。私はファシリテーションでグループの専門知識を無視した苦い経験があります。実に不用意な行動でした。しかし、この主張することが行き過ぎると、グループシンクと否認を招くことになります。

否認とは、このように人々が言うことです。「いやいや、なぜ彼はこのボトルが1/4空であると主張するのか」「実際は3/4ほど埋まっているではないですか」「彼は自分が何を言っているのか分かっていません。もう彼の言うことを聞くつもりはありません。これ以上、彼に従うつもりはありません」またはグループシンクに陥ります。私たちはみな、「はい、はい。1/4空いています」と同意します。でも、もし私たちが間違っていたら何が起こるでしょう?みんな同じ方向を向いてしまっています。同じように間違った方向を向いているのです。だからさっきの話と同じです。主張することのプラス面は、専門知識と決断力です。これをやりすぎると否認やグループシンクが起こります。

この問いに対する水平型の答えは探求することです。「小田さん、この状況をどう見ているのか、教えてください」まあ、小田さんなら「これはリサイクル可能なプラスチックです」と言うかもしれません。同じ現実を別の視点で見ているわけです。私は探求しています。探求の利点は、多様な視点や包摂が得られることです。小田さんはこの会話に招かれたことで、自分が貢献していると感じています。でも、もしずっと延々と質問ばかり続けていたら何が起こるでしょうか?あなたには何が見えますか? あなたには何が見えますか? あなたはどうですか? あなたはどうでしょう? 結果的に様々な意見がでてきます。結論は出ません。私たちはどうすればいいのかわからなくなります。そして、その時点が垂直型に移動するタイミングです。つまり、垂直型と水平型の間には、呼吸と同じ極性があるのです。そしてこの同じ極性を5回繰り返します。

2つめの問いも同じです。結論を出すことと先に進むことの間をどう行き来するかについて、3つめの問いは、予め道筋を描くことと発見することの間を行き来することについてです。4つめの問い、指揮することと伴走することをどう行き来するのか。そして最後の問いは、外側に立つことと内側に立つことをどう行き来するのかについてです。どの問いでもパターンは同じで、交互に行き来することです。基本的なメッセージは、垂直型がいいとか悪いとか、水平型がいいとかではありません。どちらも前進するために必要なものです。両方必要ですが、吸ったり吐いたりの呼吸と同じように、交互に使うものです。では次に進みましょう。

10の動きを取るタイミングを知るために重要なこと

良い知らせがあります。ファシリテーションをするためには、10個のことだけできればいいのです。5つの問いのように水平型に向かう動きと垂直型に向かう動きがそれぞれ1つずつ、5で10になりますね、私は物理や数学を専攻したと言ったでしょう?わずか10個です。あまり難しくないですよね。難しいのは、予め決められたリズムや順番でやらないことです。

そして、私が思いつく最高の例えがこれです。私が食料品の入った袋を持ってあなたの家にはいり食材をカウンターに置くとします。私のように料理の仕方を知らない人からしたら、これを見て、こう言うでしょう。「そうですね、できるとは思います。グレープフルーツとアボカドは生で食べる方法を知っているし、サーモンは焼けばいいのでしょう。」でも、それ以外はどうすればいいのか、本当にわかりません。それに対して、私の妻のドロシーのように経験豊富で腕のいい料理人だったらこういうでしょう。「まあ、素敵、これはすごいですね、1カ月分の食材だから、これで50の料理が作れます。」まあ、実はドロシーなら、50種類のサーモン料理になるのですが、それは全く別の話ですから、でも、経験豊富なシェフならわかるはずです。この10種類の食材の様々な使い方を知っていると。同じイメージでみなさんに伝えたいのは、動きは10個しかないということです。コツは、いつ、どのように使うかを知ることです。

少し脇道にそれますが、ドロシーと私はカナダに住み、そして私はジョギングが趣味です。街の中を走るのは簡単です。あちこちに道の標識がたっているからです。100回はジョギングをこなしましたが一度たりとも道に迷ったことはありません20203月にコロナ禍が押し寄せたとき私たちは街の中での生活を離れ、田舎で暮らし始めました。2020年3月、4月、5月と、周りの山中で走りました。最初にジョギングに出かけたとき、道に迷いました。実のところ、4回も道に迷ったのです。ドロシーごめんなさい、私が道に迷ったことはまだ話していませんでしたね。道に迷って、辺りが暗くなってきて、不安になりました。家にたどり着けないのではと、とても心配でした。考えてみると道に迷った一つの理由は、当時この本を書いていたので、自分がどこにいるかは考えずに、本のことばかり考えていました。いつも気が散っていたので、私の目の前に何があるか気づいてもいなかったのです。そして、道に迷って自分がどこにいるかをわかったと思うや否や、注意を払うことをやめていました。そしてまた道に迷うのです。23日後になって気づいたのですが、実はそのトレイルにはマークがついていました。小さなリボンがあったのです。それは、誰かが木に巻き付けたものでした。木にマークがあることを知らず、そして木のリボンを探せばよいことをしらなかったので、リボンが見えていませんでした。

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実のところ、数週間たった後に、トレイルにはリボンだけでなく、木にスプレーで色づけされていることに気づきました。もし目線を少しあげていたら、目の前だけでなく、見上げていたら大きく赤いスプレーのペイントを見ることができたのです。森のトレイルには数多くのサインがありました。しかし、もしそれらのサインを見ていなかったら、何をすればよいかわかりません。何を探せばよいかもわかりません。そして、私たちはコロナ禍のために1年以上そこにいました。同じトレイルを1年間毎日走りました。日々景色は大きく変わっていきます。私は常に注意していなければなりませんでした。トレイルは日々異なって見えるからです。四季を通じてひとたび葉が枯れ落ちて以前頼りにしていた印が見えなくなりました。雪の時期になると、私は滑らないように足元に注意を払う必要があります。文脈は変わり続けるのです。そしてこんなイメージが浮かびます。ファシリテーションは、街の中のジョギングではなく森の中のジョギングのようなものであると。それがこのストーリーを語った理由です。

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では、本題に戻りましょう。有名な話があります。ユダヤの賢人ラビであるヒレルのストーリーです。ヒレルは忍耐強いことで知られていました一人の生徒が彼の元にきて、片足立ちをしている間に、ユダヤ教の教えをすべて教えてくれないかと挑みました。偉大なラビに対して、無礼極まりない質問でした。この生徒に同じ事を尋ねられた別のラビは、彼を追い返しました。しかし、ヒレルの答えは「あなたにとっていやなことは何か? それを他者に行ってはならない。それが律法のすべてであり、残りはその解釈である。勉強しなさい」私は思ったのです。もし誰かが私のもとに来てこう尋ねられたら「ファシリテーションのすべてについて片足立ちをしているうちに教えてほしい」と言われたら、追い返すことはせず、こういうでしょう。「ファシリテーションの要諦は注意を払うことです。残りはその詳細です。実践しなさい」

では、結論です。10の動きそれぞれを取るタイミングを知る上で重要なのは、グループの中で何が起きているかに気づくことです。私は、レーザーと呼ばれるオリンピックで使用されるクラスのヨットで航海の仕方を学びました。このヨットには、帆に小さな紐がついていることにお気づきでしょうか。英語ではこの紐を「テルテール」と呼びます。そして、この種のボートのレースに参加する場合、この紐の部分に非常に注意を払わなければなりません。その紐は、風に対する自分の向きを正確に示してくれます。そのテルテールがどこにあるのかに気づくことで、レースに勝つ方法を知ることができます。

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ファシリテーションでこれに相当するのは、10の外側の動きです。どのような時に探求し、どのような時に主張するのかをどうやって知るのか? いつ探求し、いつ主張するのかに気づき、注意を払うことができるようになるために必要な内面のシフトはオープンになることです? 10の外側の動きと、5の内側のシフトがあります。それだけです。非常にわかりやすいですね。

これが、変容型ファシリテーションの概要です。まず、注意を払うことです。グループの中で、グループの文脈の中で、自分の中で何が起こっているのかに注意を払います。私が森の中を走るのに注意しなければならなかったように、注意を払います。状況はどんどん変化していきますから、常に気を配る必要があります。注意を払えば調整できるので、垂直型と水平型の間で前後に行き来することができます。垂直型、水平型、垂直型、水平型、というように決められた順番やリズムではなく、必要な時に必要なだけ動けます。垂直、垂直、垂直、垂直、水平、水平、垂直、水平、水平、水平といった動きかもしれません。すべてはその時々の状況次第です。垂直型と水平型を循環させることで、つながり、貢献、公平性を表現するための障害を取り除きます。そして、これによって、グループが共に前に進むことが可能になります。

最後に

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もっと気の利いた言い方をしましょう。貢献、つながり、公平性について語るには、もう一つの方法があります。そして、この本の結論として、私はこういった概念に対して、別の言葉を用いています。もっと大きな、もっと大きな可能性を示唆するような、より喚起させるような言葉の集合とでも言いましょうか。その言葉は、愛、力、公義です。英治さんが私の本をすべて出版してくださるということで、私はこう言いました。「日曜日に、これらの本で何が語られているのか、次の本は何なのかについてお話しましょう。」次の本がどういうものになるのか不明だったのですが、宿題をいただきました。ありがとうございます。今、それが何かが分かりました。だから日曜日に初めてお話しすることになります。録画しておけば、次の本を数カ月後に、すぐに出せそうです。

ともかくこれがみなさんがお持ちの本の結論です。同時に日曜日の講演の宣伝広告でもあります。このすべてを語る方法があります。フランシスコ・デ・ルーが神秘の出現の障害を取り除くと話したときのことです。神秘の出現とは「愛、力、公義」を可能にする人間の本質的な衝動です。ファシリテーション、コラボレーション、システム変容または、システムを変容させるための変容型ファシリテーションは、愛、力、公義の出現を阻むものを取り除くことです。これは今説明してきた本の結論の部分にも示唆されています。今回の東京訪問に向けて、それを考えるのが楽しみでした。今夜はみなさんとこれについて少し議論して、明日はもっと深く掘り下げることを楽しみにしています。

ありがとうございました。

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