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気候危機のようにグローバルかつ社会経済システムの多くの側面に関わる課題において、一つのセクターや組織の取り組みでは成果が出すことは難しく、すでに何千ものさまざまなタイプのコラボレーションが展開しています。中には、すばらしい成果を生み出しているコラボレーションもあればそうでないものもあります。そして、そのインパクトの規模とスピードは、安全で公正な社会への変容を成し遂げるのにまだまだ不十分なレベルにとどまります。

もっと多くの人たちを巻き込むコラボレーションがもとめられる一方、人々はさまざまな考えや利害を有してどのような道筋で進むべきか、人々の間で重なりもあれば、違い、矛盾、対立すらも多くあります。どうすれば、より速く、より大きく、より公正なコラボレーションを成し遂げられるのでしょうか?

レオス・パートナーズ、ハイレベル気候チャンピオン、TEDカウントダウン、リーダーズ・クエストの共同チームが、気候変動におけるコラボレーションに取り組むさまざまな実践者たち36人へのインタビューを通じて数多くの失敗談と成功談を集め、その成果を小冊子『Radical Collaboration to Accelerate Climate Action』にまとめました。日本語冊子は現在準備中ですが、原文はこちらからご覧になれます。

https://radicalclimatecollaboration.reospartners.com/

この小冊子が提唱する「ラディカル・コラボレーション」は、スピード・規模・正義を持って前進し、違いを超えた協働するためのアプローチです。漸次的変化に甘んじては行き詰まり、あるいはここかしこで車輪を再発明しようと模索し続ける時間の余裕がない中で、プレイヤーたちがいかにして効果的なコラボレーションを迅速に学ぶために、実践者たちの振り返りから7つの「すべきでないこと」と7つの「すべきこと」をまとめました。

7つの「すべきでないこと」は、相互に関連しており、コラボレーションを狭量で競争的かつ硬直的なものとしてしまうものです。一方、7つの「すべきこと」もまた相互に関連し、包摂的かつ協力的で、反応性が高いラディカル・コラボレーションにつながる実践です。

すべきこと

すべきでないこと

自らの役割を果たす。

相互依存を無視する。

必要な同志を見いだす。

心地よい領域に踏みとどまる。

集合的な力を構築する。

自分のやり方を強要する。

他者との違いに取り組む。

同意を要求する。

前進する道を見つける。

ひたすらまっすぐ突き進む。

希望のストーリーを共有する。

共通の言語を前提とする。

自分自身を大切にする。

ただただ押し進め続ける。

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7つの中から、私たち自身の経験も踏まえて、3つの実践を紹介します。

1.「相互依存を無視する」対「自らの役割を果たす」

気候変動であれ、他の環境問題や社会課題であれ、何かできるのではないかと取り組もうとしている人や組織が年々増えていることは大変喜ばしく、歓迎すべきことです。既存の取り組みに参画する人たちもいれば、新しいイニシアチブを始める人たちもいます。しかし、これまでの歴史や相互依存の構造を無視して、自分たちこそが差別化した取り組みであると鳴り物入りに参画する傾向には眉をひそめたくなることもあります。この小冊子でも、「自分のやり方やブランドでやりたいからだけの理由で、新しいコラボレーションを始めてはならない。」と戒めます。私たちの限られたヒト、モノ、カネ、時間などのリソースを活用するにあたって、利己主義、重複、断片化、競争は、質とインパクトを限定的なものにするからです。

私が主宰するゼミや教えている授業の受講生や学生が社会課題に取り組みを検討する際に、あたかも自分たちが初めてその問題を分析し、短期間での議論をもって、これまでになかった優れた解決策を見いだそうとする傾向も見かけます。意気込みは素晴らしいのですが、すでにどのようなプレイヤーや取り組みが存在していることを無視して、今までの取り組みからの学習やこれから直面する課題を鑑みないままでは、すでにある解決策の焼き直しか、あるいは自社のアイディアや技術を誇示しようとする我田引水の解決策にとどまってしまいかねません。

大事なことは、状況全体を見渡して、多様な関係者たちが、さまざまな面において取っている多様な行動を観察した上で、既存の取り組みを踏まえ、提起するコラボレーションが果たせる最も有益な役割を考えることです。

気候変動には、すでに30年以上にわたる多くの取り組みの歴史があります。その集合的な成果はまだ不十分でありながら、私たちが活動することを選ぶ地域や分野において、すでに多くのプレイヤーたちの活動が存在することでしょう。自らの情熱や能力を踏まえて、そうした複雑なエコシステムをどのように豊かにし、強化することができるかを見定めることが必要です。そして、団結できるときには団結し、差別化すべきときには差別化すべきすることです。ほかの人がやるべきことはその人たちに任せ、「自らの役割を果たす」ことに集中することが肝要です。

4.「同意を要求する」対「他者との違いに取り組む」

多くのコラボレーションが行き詰まる最大の理由は、相違や意見の一致に生産的にとりくむことができないからです。こうした相違は、一見厄介事のように見えますが、実は、コラボレーションに参画するプレイヤーたちがことなる立場、視点、力をもつからこそ、共に全体像を俯瞰し、単独では難しい行動も選択肢に変えることを可能にする可能性の源泉でもあるのです。

多様性への取り組みは、社会課題へのコラボレーションに限らず、さまざまな組織や地域の課題にも見られます。共通して、問題の根底にあるのは、「自分が正しく、他者が間違っている」という前提であり、その前提から生まれる行動は、自分のもつ状況理解やゴール、道筋などのさまざまな面で相手に同意あるいは合意を求めることです。

コラボレーションを行う上で、何かしら共通することや重なることがなければ存続し得ませんが、あらゆる側面で合意を図ろうとすることは、コラボレーションを阻害するだけでなく、相違ゆえの多様性がもたらす潜在可能性を制約してしまうことすらあるでしょう。

2011年の東日本大震災と福島第一原発事故が起こった後、チェンジ・エージェント社の会長でもある枝廣淳子は、原発の賛成派から反対派までの幅広い有識者たちと共に、「みんなのエネルギー・環境会議」を発足しました。原発に懐疑的な立場からはAPバンク代表理事の小林武史さん、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さん、原発稼働を容認する立場からは一橋大学の橘川武郎教授、日本経団連のシンクタンクの研究主幹で経産省元官僚の澤昭裕さんなどが共同の発起人となり、エネルギー政策をめぐる国民的議論を深めることを狙いました。

枝廣は、「原発の賛成、反対という単純な二項対立を抜け出し、多くの人が納得できる未来をつくるため、論点を洗い出したい」「『私と意見が違っても、あなたが意見を主張する権利を絶対守る』という民主主義のルールを守りたいという発起人の思いは同じ。統一的な結論はでないだろうが、この取り組みを通じて国民の議論が起こることを期待したい」と語りました。

ラディカル・コラボレーションにおいてもまた、自分の好きな人たちだけで話すのではなく、変容に必要となる同士を見つけること、そして、それぞれが我を押し通すのではなく、集合的な力を構築することを推奨します。そのためには、自分たちの違いをオープンに認め、合意できること、合意しなければならないことについて合意し、前進するためのより良い方法を模索し続けることが必要となります。

7.「ただただ推し進め続ける」対「自分自身を大切にする」

気候変動の取り組みは、長く険しい、いつまでも続く上り坂のような試練とも言えるでしょう。また、サステナビリティや社会変容の道のりもしかりです。

進歩には意志と粘り強さが必要ですが、ただひたすら突き進み、ほかの人を駆り立てるだけでは、燃え尽き症候群やメンタルヘルス上の問題を引き起こすばかりです。仕事でもプライベートでも、相互支援のネットワークを構築すること、困難な局面において、互いに助け合うことが大事です。

サステナビリティの分野で20年以上取り組んできた経験として、実に多くの先輩や同志たちが、燃え尽きや精神障害に悩まされてきました。とても嘆かわしく、なんとかできないだろうかと思っていました。

私自身は、2006年から、サステナビリティに取り組むプロフェッショナルの国際ネットワーク「バラトングループ」に属しています。このグループは、鉄のカーテンのあった1982年に設立されたのですが、地球規模の課題に取り組むために旧ソ連中心の東側と米欧の西側の双方から、そして後々は先進国と途上国、そして西洋だけでなく東洋からもと実に多様なメンバーを集め、気候変動やサステナビリティなどの課題についてディベートをすると共に、メンバー間のコラボレーションを進めてきました。このグループが大事にしている価値観の一つが、互いを慈しむことです。創設者や中心メンバーたちの一貫した「慈しみ」の価値観のおかげで、激しい議論にはなっても互いの信頼関係を築き、そして意見が違えども互いに支え合うネットワークとなっていきました。私の親しい仲間たちの間で燃え尽き症候群が起きることがありましたが、その都度仲間たちがハドルを組んで、代わる代わる寄り添うようにしています。

触発されて、私も日本で環境問題や人・組織・社会の課題に取り組む実践者たちとの間で2010年「清里グループ」を設立しました。ここでもまた、優れた実践を希求するだけでなく、慈しみの文化を心がけています。

そして、私自身もこのネットワークの仲間たちに助けてもらいました。2011年より東日本大震災のあった地域へたびたび出かけ、なんとか力になりたいと現地の活動グループを支えていました。しかし、問題の大きさに比してあまりにもリソースが少なく、人々の負った心の傷が癒えるには多くの時間が必要でした。2年近く奔走した後の2013年、このグループの合宿にはいつもよりもこわばり、強い意志力で切り抜けようとしている自分がいました。しかし、やっていることが上滑りし、空回りをしている状況でもありました。そんなとき、仲間たちは私を受容し、凝り固まった背中と肩をほぐして、心と体の回復を助けてくれたのです。仲間のありがたさを深く痛感しました。

社会課題を仕事にする人たちは、えてして自分自身のことには目もくれず、自分の仕事だけにのめり込んだりしますが、自分自身のケアを怠ると、自己防御や硬直を生み出し、自身の効果を制約します。気分を一新し、自分自身の源とつながり、回復・再生するために立ち止まる時間を持つことが大事です。

自分自身を大切にしましょう。特に変化の担い手として奔走されている皆さんはそれを軽視しがちですから肝に銘じてください。より多くの人たちのためにより大きく持続的な成果を届けるためにも、あなた自身がとても大切な存在なのですから。

小田理一郎

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