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学習する組織/システム思考に効く読書(10)『僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる』

2021年04月23日

トランジション・タウンの本が出ることは、とてもタイムリーなことです。なぜならば、私たちの暮らし、仕事を取り巻く社会経済システムは、今まさに「トランジション」が求められているからです。

コロナ禍によって「ニューノーマル(新常態)」が求められます。気候変動によって、早期グローバル規模で炭素正味排出量傾向の反転降下と、2050年までに実質ゼロの実現が求められています。大量生産、大量消費、大量廃棄のパターンを見直し、「持続可能な発展目標2030(SDGs)」に向けて、より多くの個人に幸福追求に十分な豊かさ追求しながら社会と自然が共生する新たなシステムへの変容の必要性が叫ばれています。また、東日本大震災から10年、私たちはどれくらいレジリエンス(再起力)のある社会へと変容できているのか、その問い直しが必要な時期でもあります。今日の文明は、もはや持続可能ではないことがさまざまな次元から問い直されています。

社会経済システムは、私たちの行動、文化、関係性、市場、科学技術、規制及びガバナンスなどの総体として体制(レジーム)を形成します。私たちの考え方が体制をつくり、その体制が私たちの考え方に影響を与えます。ひとたび支配的な体制が形成されると、同じ轍の中で慣性をもって回り続け、そこから新しい軌跡を築くのは容易ではありません。日本や世界が第二次世界大戦後の70年余りで形成され今日の繁栄を生み出した体制は、人類史のランドスケープレベルでの流れや変化の中でさまざまな歪みを起こしており、崩壊の危機を迎えています。体制の完全な崩壊の前に、私たちは「乗り換える船」が必要なのです。そして、新しい体制への移行や橋渡しの役割を担うのが、「トランジション・ムーブメント」と言って過言でないでしょう。

過去の社会経済システムの転換の歴史から、トランジションが綿密な計画やコントロールで起きるものではないことがわかっています。また、既存の体制のリーダーたちは、変化主導には不向きで、むしろ、抵抗勢力になることが多いのも歴史上何度も見てきました。システム的な転換は、ボトムアップで起こり、大勢を形成し、そして新しいシステムとリーダーたちを生み出していきます。

この本は、英国トットネスに始まり、日本では藤野が中心となって始まったムーブメントの軌跡が描かれています。ビジョンを語り合い、ビジョンに向けて、現実的に変化できることについて、ローカルに入手できるリソースを活用しながら、インフラや経済の仕組みやコミュニティのルールを革新し、新しい暮らしや仕事の慣行を実践しています。トランジションはコントロールできなくとも、おおまかにガイドをして、内外に影響を与えることができるものです。そこから創り出される未来のイメージが、より多くの人々の間で共有され、根底にある価値観やパラダイムが新しい可能性を迎え入れ始めたとき、システムの変容は加速していくでしょう。

トットネスや藤野などを、理想郷のように期待するのは誤りです。例えば、どちらの町でも未だガソリン車が走っています。私たちの暮らしは、グローバルや国などさまざまな規模のシステムの影響を受けている中で、すべてにおいて理想を実現しなければならないと考えてしまうとシステムの変容にはマイナスとなります。むしろ、大きなシステムの中にあっても、ローカルに影響を与え、変えられるところから"したたかに"変えて行くものです。そうして、かつては「こんなことはムリ!」と試しもしなかったことが、「そうか、こうすればできるのか!」と変わっていきます。既存のシステムの中でも、行動変容は可能だという、ショウケースとなってくれるのです。

この本には、ローカルレベルの変化がどのように起こるのか、どのようなチャレンジに直面し、今までの通念や常識を覆し、現実的な成果を積み重ねていくのか、が描かれています。既存体制との間で生まれる軋轢、効率・利益重視に変わる新しい価値のモノサシ、そして、自己組織的な変化を生み出すための新しい関係性、ルール、行動規範など、ローカルレベルの変化に求められるおおいなる学習の歴史が刻まれています。

こうした学びは、組織や地域規模でのあらゆるシステム的な変容に有用でしょう。どのように未来を思い描き、困難においても影響可能なところを見出し、自らをガイドして、共進化する変化の生態系を築く上で、多くの示唆を与えてくれることでしょう。

執筆:小田理一郎

榎本英剛著『僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる ~トランジション・タウンという試み』(地湧の社、2021年)

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