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新年のご挨拶2021

2021年01月08日

新年があけました。日本では新型コロナウィルスの感染者数、入院者数、死者数の増加による緊急事態宣言が発令され、米国では現職大統領の扇動によって国会議事堂へ暴徒たちが乱入する歴史的な事件が発生するなど、2021年も波乱含みの幕開けとなっています。

2020年は、新型コロナウィルスによるパンデミックをきっかけに、さまざまな変化を余儀なくされました。個人、家庭、職場、学校のそれぞれがさまざまな感染防止対策をとり、また、感染拡大から爆発的増加や医療体制崩壊の恐れが強まると、人流を下げる施策として、地域間の移動、外出、事業、集会などを制限する自粛要請が強まります。また、多くの国は入国管理による水際作戦を敷き、制限を弱めては強める動きを繰り返しています。

人流を下げながらもいかに経済や社会の活動を続けるか、の観点から、私たちはさまざまな適応を図りました。勤務、会議、商談、授業、学会、視察、買い物、バンキング、診療などにおけるオンライン化が進み、合わせてビジネスもオンライン、遠隔、無人・省人化した事業へポートフォリオをシフトしました。終電の繰り上げ、コンビニ・スーパー・飲食店の営業時間見直しなどの時間に関する認識も変えていきました。飛沫の伝播を抑え、密から疎へ、人の集まる場所のデザインを変えたり、居所や事業所を都会から地方へ移す人たちもいました。また、航空、旅行、飲食など、制限の影響の大きい産業の人材が、医療や農業など別の産業で活躍するなどのシフトし、醸造会社はアルコールを、製造メーカーは医療用具や衛生用の製品をつくるなど設備や技術を他分野で活用する動きがありました。

そうした構造変化には、適応上の課題が現れます。身近なところでは、通勤・通学時間から解放され、家族がより多くの時間を家で共に過ごすことが増えましたが、それには良い面もあれば悪い面もあったことでしょう。音を遮断できる空間や時間、そして集中負荷のかかったネット能力など、思わぬ悩みや課題に直面しなかったでしょうか。多くの適応課題がある中で、あらかじめ備えや対応の多様性、あるいは迅速な学習能力がある人たちは、こうした適応を早期に、比較的少ないコストで実現します。

一方、備えも多様性もなく、新しいことを学習する能力や意欲が乏しい場合には、適応はなかなか進みません。また、社会としても、オンラインシフトをするにも十分な速度のインターネット回線や端末などのインフラがなかったり、既存の規制やルールなどによって、適応がなかなかできないような状況も数多く経験しました。

とりわけ、適応に必要となるインフラ、リソース、能力の獲得は、経済格差・情報格差・政治的な声の大きさによって大きく左右されますので、絶対的・相対的貧困や不平等などの社会構造の問題とは切り離せません。つまり、恵まれた人たちの間では、備えや多様性などのレジリエンスがあるかどうかが問われますが、その前提が整えられていない恵まれていない人たちには、情報・リソースにアクセスできるかにかかってきます。

コロナ禍によるダメージの大きさは、初期においては人流、密度、接触など認知される感染リスクや制限の度合いによって左右されますが、中長期的なダメージと回復スピードは、人、組織、地域といったシステムのレジリエンス、そして適応プロセスを促進ないし制約する構造上の脆弱性の課題によってもたらされると言っても良いでしょう。

コロナ禍のような外的衝撃は、一過性のものではなく、おそらく今後も変異か別のウィルスによって、あるいは気候変動、生態系危機、バイオやIT含むテロ、政治・経済・金融の破綻など異なる種類の衝撃によって、繰り返しもたされることでしょう。その乱気流のような事業環境に向き合う上で、足元では多くの旧態依然とした仕組みが残っています。2020年は、天然資源が少なく貿易やインバウンドに頼っている日本はもちろん、グローバル社会としても、構造的な変化を必要とすることが実感される年でもありました。

将来を目に向けたとき、レジリエンスが鍵を握ると考えています。レジリエンスは生態系と心理学の分野で発展した概念ですが、一つ生態系の観察から生まれたエピソードを紹介しましょう。

森林は山火事によって長く生い茂っていた木々を失いますが、その焼け跡には光が届き、それまで育たなかった新しい芽が息吹きニッチェが育つ環境が整うことで、再生を遂げ、長期に持続していくことが知られています。

コロナ禍が山火事を引き起こす雷の一撃だったとしたならば、私たちの社会経済システムの構造が森林の生態系に相当します。山火事がどこまで広がり、どの範囲が災いを逃れるかは、どこに雷が落ちたかだけではなく、その生態系の質によって左右されます。古く、大きく、乾燥した均質な木々が密になって存在したならば、瞬く間に火は広がっていくことでしょう。一方、さまざまな側面で多様性があり、水の潤いが行き届いた森林ならば、相対的にダメージを抑え、焼けてもその回復はより早いものになるでしょう。鍵は、多様性であり、そして、新たな再生と発展を担えるような新しい種やニッチェです。

コロナ禍に端を発する山火事は収まったどころか、ますます火の勢いを強めて燃え広がろうとしています。すでに復興の努力は始められていますが、これから予防、減災、回復の観点からも、構造変革の観点からも、どのような復興を目指すのかについて、今一度議論する必要があります。どのような社会を目指すのか、そのためにどのような知識やアイディアを持ち、どこで開発が必要か、ITやバイオ技術の期待が高まる中で、社会構造的にどのような技術普及とガバナンスが望ましいのか、などよく吟味し、未来の社会について明確なビジョンを共有することが大切ではないでしょうか。

山火事でできた焼け野原をてっとり早く元に戻そうとスギなどの単一樹種林を増やすようでは、結局レジリエンスが低いままで元の木阿弥となりかねません。森林の生態系の本来の潜在可能性が活かされたならば、広葉樹、針葉樹など多様な種の植物と多くの種の動物たちが森の恵みの中で暮らしながら、新しい種の出入りもあって入れ替わり、また、分解者である微生物などの働きですべての物質が有効に活用され、空気や水も巡りよく森全体を潤し、それぞれの生活環境を整えています。

私たちの社会もまた、森の自然の本来の活力を活かすように、多様な人たちがそれぞれ居場所があって活かし活かされ合い、若者たちが入れ替わり脚光を浴びながら老いた者は尊敬され、必要充分なモノ・サービス・カネが行き渡り、社会全体としては廃棄物を出さず、また、それぞれにとって快適な気候が維持するような社会を目指せないものでしょうか。

ソーシャル・ディスタンシングなど公衆衛生の意味だけでなく、システムとしても「新常態」を踏まえた、よりよい社会経済システムへの復興の必要性が叫ばれています。世界では、バイデン新政権の「グリーン・ニュー・ディール」、EUの「グリーン・リカバリー」など世界は持続可能な社会経済システム構築に向けてすでに動き出しております。

日本でも管政権が2050年温室効果ガス実質ゼロを含め環境とITを新たな重点分野として掲げました。復興に向けて政策、財政、民間投資をの大きな方向付けとして、第一声が出された点ではよいですが、その中味はまだまだ抽象的で、ビジョンと呼べるものはまだありません。しかし、ビジョンを描くことは、首相や政府だけに頼ることではありません。多くのセクターの有志たちが、人々の声、とりわけシステム周縁で政治経済的に声が届かない人たちの声を拾いながら、どのような未来の社会を目指すのか、その前提として今の現実はどのようになっているのか、しっかり対話をしてこそ、よりよいビジョンが描かれ、共有されるでしょう。

とりわけ、炭素ゼロ社会、持続可能な社会へ向けた産業や都市のデザインを転換するならば、今が好機となるやもしれません。温暖化問題、地方創生など長年課題として叫ばれ、またこの5年間SDGsに向けた動きが始まっていますが、日本全体から見ればまだ少数のニッチェが現れてきているに過ぎません。これらのニッチェをつなげ、その中から再生に向けた本質となる"もの"や"こと"を学習して広げ、また、阻害要因や抵抗勢力となっている古いシステムへの政治的、経済的な優遇をやめていくことも必要になるでしょう。化石燃料などを中心にする古いシステムは、グローバルでのトレンドを踏まえれば、メインストリームから外れていくことでしょう。座礁を迎えつつある古いシステムの延命を図るよりも、「乗り換える船」となる新しいシステムを広げて「橋渡し」をすること、そして終焉を迎える際の「ホスピス」を用意することが賢明かと考えます。

規制、市場、ネットワーク、技術のガバナンス、そして新しい文化へのムーブメントを組み合わせたビジョンを描けたら、自ずとバックキャスティングによる政策や戦略が、それぞれの自治体やコミュニティ、業界や企業、非営利組織などによって肉付けされていくことでしょう。

将来歴史を振り返って、コロナ禍にも「福」の側面があるとしたら、こうしたシステム的な変容をもたらしうることではないでしょうか。今を凌ぐだけでなく、新しい時代のイマジネーションを広げ、互いのビジョンに耳を傾け合い、今生まれつつある萌芽をすくい上げ、育て広げていくことが肝要かと考えます。

また、今年も多くの人たちと、そんな対話の場を重ね、社会経済システムの創造や変容に関わる戦略策定やムーブメントにご一緒できたら幸甚です。

(小田理一郎)

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