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【受講者インタビュー】チェンジ・エージェント・アカデミー 第8期「社会課題解決のためのシステム思考」修了生

2020年10月28日

昨年10月に実施した第8期チェンジ・エージェントアカデミーご受講者のお一人にインタビューにご協力いただきました。この回は、社会変革をテーマにして、システム思考で現実を観たうえで介入ポイントその施策を検討することに取り組んでいただきました。今回は受講者のお一人で、地域NPO活動リーダーの堺さんにお話を伺いました。アカデミーの場でなにを得られるのか、体験談が参考になるようでしたら幸いです。

話し手(第8期ご受講者)環境市民プラットフォームとやま(PECとやま)
堺さん

Q.アカデミーを受講するきっかけは?

もともと環境問題に関心があって、パーマカルチャー(持続可能な農法)の実践を目指し、自給自足と学校の先生の両立を目指し半農半教師をしていた。その時に、東北大震災があった。小さなユニットで何かきれいに整えても、社会全体の影響をものすごく受けることを感じた。自分ではサステイナブルな暮らしをしていても、場合によっては放射能汚染で全部リセットされてしまうといったときに、何のためにこの暮らしをしようとしていたのか、と問いを立て、不公平でない社会づくりに自分が関わりたいという想いがより強くなり、社会に関心が向いた。

そんな折、パーマカルチャーをやっている方が「システム思考」や「NVC非暴力コミュニケーション」を紹介してくれた。どうしても正当性を主張してしまうということが、自分を守る意味での裏返しに過ぎないこと、そして自分自身にいかに暴力を振るわずに実践できるかということがセットになったときに、きっと世の中が良くなるのではないかというキーワードに自分がとてもビビッときた。

相手の靴を履いてみる、という言葉に尽きると感じている。それぞれ主張する者は、それぞれにとって正しい。自分が正しいと思っていることもシステム全体で見ると部分にしかない。システムの理解と自分の信条や、相互のやり取りを認識できたらいろいろな日常の些細なこともハッピーなことも良い方向に向けられるのではないかという感覚を持っている。

Q.チェンジ・エージェントとの出会いは?

Webリサーチしたり、書物で枝廣さんや小田さんを知り、直々に指導していることを知った。チェンジ・エージェントのプログラムに参加することによって、システム思考を現場に落とし込むための肌感覚的なところまで理解できるのではないか、という期待があって参加した。

東京へは深夜バスで行き、富山から交通費をかけないように工夫していた。コロナになって、オンラインとオフラインの両方を体験した。アカデミーの受講メンバーが多様で、得意分野が全然違う中でやり取りするというのは、NVCを頭に置きながら、メンタルモデルを保留することを意識してコミュニケーションした。

Q.アカデミーで取り組んだ課題は?

私たちのグループの課題は「真の働き方改革」だった。

システム図を多様な人とつくるというのは難しかった。でも、学びを通じてそうしてつくるほかはないのではないか、と感じるようになった。自分で描くと、自分の中で整合性が取れた図を描けるが、それでは見えていない部分がある。いろんな人が居ると、いろんな視点が入り、皆で合わせて描くことになる。難しいと思ったが、それを進めていくプロセスによって、よりシステム全体を捉えることに近づいていくことを感じた。

Q.そのプロセスが必要なんだ、ということですね?

いま、まさにその感覚でこの仕事をしている感じがある。多様なステイクホルダーの方々と、とにかくSDGsという星を皆で見ながら進んでいこうとするときに、星があることがすごく便利で第一にあるが、正直自分でやった方が早い、ということも度々ある。しかし、それでは変化を生み出すほどのことにはならないし、自分が本来やりたいことではないな、と思う。手間はかかるけれど、多様な人が集まって活動することに自分が価値を置けるようになったことは、アカデミーを受けて実感を伴っている。

Q.6回のアカデミーを受講して印象的なことは?

「TOC(変化の理論)」は、何のために自分がこの活動をしているの?ということを考えるために大事。

自分たちの団体PECとやまも、最初は、ある中心人物が声を掛けて受動的に集まった。だけれども、活動するうちにSDGsの理解が浸透し、私たちはどのような役回りをする団体なのだろうか?と皆が主体的に考えるようになった。すると、富山や社会がどのように流れているか、そのなかで足りない部分を自分たちが差し込んでいこうと話すようになった。そのときに図で話すことを意識している。理想は、その図を皆で仕上げていこうということだろうが、未だそこまでは至っていない。これから皆で作り上げていきたい。目の前の活動に邁進し評価をしないことがあるが、何のためにやるのか?と立ち返るツールとしてとても良いと感じている。

「ソーシャルインパクト」という発想もすごく大事である。TOCを描いて実際にやるけれど、それがちゃんと変化に繋がっているだろうか?ということを測るためにソーシャルインパクトという手法が必要。周りの人からも、「あなたの団体は効果が出せているね」となれば、評価され、資金を得ることにもなる、と理屈として理解できた。レポートするにあたっては、いろいろな人と日々模索しながらすこしずつ進めている。

Q.周りのメンバーとの共通言語化も次のステップとなるか?

その通り。そうした活動のなかで、「チェンジ・エージェント」という言葉を自分の中で意識するようになった。これが一番大きいことかもしれない。

自分は、結果がすぐ見える行動をとる傾向がある。けれど、システム思考やパートナーシップで何かを変えたいと挑んで活動するうちに、自分でやるよりも、皆でつくっていくことの方が楽しいと感じてきて、それで良いのではないかと思い始めている。まさにチェンジ・エージェントとはそういうことではないかと感じている。

Q.最近、具体的にチェンジ・エージェントとして実感したことは?

今年企画して実行している全6回のSDGsトークカフェを通じて感じた。

この企画では、いろんな方に講師として登壇してもらう調整をしている。SDGsの誰一人取り残さないという共通テーマで、分野は違っても目指すことは一緒だね、と集まることができた。今は調整のレベルに留まっているが、この先に、同じテーブルについて、システムの中でより世の中を良くしていくことを念頭に自分のトピックをやるための下地づくりに関わっているという実感があった。この経験から自分はチェンジ・エージェントであると自覚している。自分がしなくてもいつか生じることかもしれないけれど、このタイミングでアクセスして関わったから今の状態を生み出すことができていることを客観的に見て悪くない、と思っている。

Q.SDGsの意味合いをどう捉えるか

フィールドや関心が異なる人もSDGsがテーマとなったときに集うようになった。共通点を見出したように感じる。これこそ、結果としてシステムに意識が向くことに繋がるのだろう、と思う。

自分が興味を持っているのは、SDGsの社会変革の進め方。国連のメジャーグループという多様な人たちからの話を聞かないことには本当の策は出せないという考えから、女性、先住民など9つのフィールドから2年半かけて行ってきた結果がSDGsの17のトピック。国連はどれも大事でどれも繋がっていると捉えている。まさにシステムの発想だが、どこかをとったらどこかがマイナスになってしまうということも、マルチステークホルダーが集って話し合うことで防げるのではないかと考える。当事者をちゃんと入れて考えるということが、いろいろなレベルでできたら、特に一人ひとりがシステムを意識できなくても、結果的にシステムの発想になっていくのではないか。そこに期待をもって、それをローカルでできないかと思っている。

Q.その強い想いはどこから生まれるのか?

3.11東日本大震災をきっかけに、社会やシステムについて考えるようになった。小さいころから不平等は嫌だと思っていたり、生き物が好きだったり、そうした根っこが自分にはあるだろう。それを横において世の中に合わせることは表面的にできても、心底にはできない。自分なりに波に乗り生きてきた果てに今この団体の活動をしている。

4-5年前には、自分がこのような活動をしていることは想像していなかった。流れに身を任せている。これまで、物事を決めつけないということは意識してきた。これが好き、とか、多分この人はこうだろう、ということは、自分の中での評価に過ぎない。物事を決めつけないで生きていくとどうなるのだろう?と自分で実験しているような感覚である。今までならそれはできない、と断っていたことに、自分で良ければ、というように受け入れると、自分でも思っていなかったようなところに誘われ、気が付いたら自分の存在が必要とされていることがある。この実験、"メンタルモデルの保留"はこれからも続けていく。

Q.トークカフェ第1回はどんな様子だったか?

第1回は、「不登校・引きこもり」がテーマにお寺の現場とオンラインとで行った。参加者は、お寺で20名、オンライン側で10名の計30名。オンライン側では不登校の当事者が参加してくれていた。お寺には経験者が数人来ていた。機械のトラブルやオンラインの運営は不慣れでスケジュール通りにはいかなかったが、対話のファシリテーションを行う、ということには集中していた。そこでその場の面白さが出てきた。

冒頭、キーノートスピーカーが喋って主観的な話をされ、それは良かったが、たまたまその話に引っかかって、問い詰めるような発言があった。今回は議論する場ではないことを共有していたので、「こういう意見もあればこういう意見もあった。皆さんはどうでしょうか?グループに分かれて話してみましょう。」と皆がしゃべることが大事である、ということをブレずに出して、対話をしてもらった。その後、全体共有の際に、オンライン側は?リアル側は?と場に出た話を聞いたら、オンライン側が話したことが、リアル会場にとても刺さった。オンライン側の当事者が、「不登校で引きこもりになったときに、どうして不登校になったのか?引きこもりになったのか?ネガティブにとらえると、自分に罪の意識を持つ。でも、それは、誰も悪くないですよね。罪の意識を、親も持たないでいいし、本人も持たないでいいですし、そうであって欲しいです」と発言した。その場面が、お寺のプロジェクターで映し出されていて、音が会場に届いて、会場のメンバーの心に刺さった雰囲気があった。ある学校の先生が、「すごく救われました」と仰った。自分も教え子に対して罪の意識をもっていたが、当事者からそう言ってもらえたことが本当に救いです、と。それがオンとオフの対話の場でできたことが、すごく良かった。シンプルな言葉だったが、皆に変化が生まれる瞬間であった。もちろん、予定調和でなかった。この場を得たことで、なにかこれはいけるかもしれない、という感触があった。

予定調和ではないことを楽しみにできるのは、「学習する組織」の学びが支えになっている。組織で集合知、経験値としてスパイラルアップしていけば良いと思っている。それ自体が結果的にはしっかりしたものになっていく。優れた個があることよりも、互いにやり取りすることで気づきあって、全体として一定の状態になっていけば良い。カフェを通じてなにかそういうことが起こるのではないだろうかという希望的観測を含みながら、期待と確信とが混じっている。ようやくこの状態になってきた。

一回一回に個性があり、大変だなと思うが、大変の果てに面白いことが待っているということが見えてきてやりがいがある。参加した方々にすべてを目の当たりにしていただけたら良いと思っている。

Q.今後の展望は?

皆で学び合っていくことの社会化・アプローチとしてSDGsを使いたい。行政がSDGsに取り組む流れがあるが、行政だけで考えて行うのでなく、国連のようにマルチステークホルダーでたとえば委員会を作って、当事者の観点が入っていくような体制づくりでより良い地域になっていくことを皆で考えていく基盤づくりに貢献したい。今やっているカフェのプロセスをそこに繋げたい。

それにより、自分だけでは思い描ききれないよりよい社会に皆がコミットメントすることになったらよい。そのための体制づくりに注力したい。制度にアプローチすることと、そういう文化や風潮を創り出し、それが当たり前となればダイバーシティやレジリエンスに繋がるだろうと思う。カフェは一つの小さな取り組みではあるが、ほかに応用することで、風潮や文化形成に貢献できるのではないか。これを制度に生かすことも実現できたら、だれ一人残さない、ということが、意識があろうとなかろうと制度で担保される。そうした両輪に関わっていきたい。風潮や文化づくりの交流は日常でなかなかできないが、場があれば出来る。その場づくりのきっかけとして、SDGsをうまく使っていきたい。

一生かけてやることだと思うし、ゴールすることに重きを置くのではなく、プロセス自体を楽しむことを大事にして、プロセスを人生と捉えて活動したい。

これは自分の今までの生い立ちそのもの。千葉で土地を得て自給自足でやっていた時には、まさか富山に来るとは思いもしなかった。富山に来てみて、またこんなことをやろうとは思いもよらなかったが、この生き方は今の自分にしっくりきている。流れに身を任せながらでもしっくりくる。どういうわけかそのように生かされているように感じる。

(聞き手:チェンジ・エージェント北見幸子)

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