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東洋思想から学んだチェンジ・エージェントたち(2)

2020年10月26日

「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿(なか)れ。只(た)だ一燈を頼め」(出典:『言志四録』)

これは、暗い夜道をあるくのに、一つの灯さえあればそれを頼りに行けばよいという意味の一節です。西郷隆盛が西南戦争で死に至る直前の15年間座右の書として愛読しとくに印象的な101節を書き抜いて肌身離さず持ち歩いたとして知られる『言志四録』の中に収録されています。まさに自身の「一燈」としてこの書をこころの拠り所としていたのでしょう。この『言志四録』は指導者のバイブルとしても知られていますが、その著者については歴史好きの人でない限りあまり広く知られていないのではないでしょうか。今回は、その著者、佐藤一斎についてご紹介したいと思います。

名だたる幕末の志士たちを育成した佐藤一斉

佐藤一斎は幕末を生きた儒学者で、朱子学や陽明学を極め幕府直轄の学問所の総長(現代に例えるならば東大などの学長クラス)まで務めた人物でした。数千人に上る門下生には佐久間象山、横井小楠、渡辺崋山などがおり、彼らの元で弟子として学んだのが、勝海舟、坂本竜馬、吉田松陰らであると伝えられています。このように、幕末の志士たちの多くが直接、間接に佐藤一斎から思想を受け継いでおり、幕末から明治維新にかけ日本の大転換期、新しい日本をつくった数々のチェンジ・エージェントたちに多大な影響を与えた指導者と評されています。

「少にして学べば、即ち(すなわ)壮にして為(な)すことあり。壮にして学べば、即(すなわ)ち老いて衰えず。老いて学べば、即(すなわ)ち死して朽(く)ちず」(出典:『言志四録』)

生涯学び続けることの大切さを説いたこの一節は、元首相の小泉純一郎氏が議会で引用したことでも有名になりました。佐藤一斎は、書物の中でも繰り返し、学び続けることの重要性を説いています。

「学は立志より要なるは莫(な)し。而(しこう)して立志も亦(また)之れを強うるに非(あら)ず。」

「志の立たざれば、終日読書に従事するとも、亦(また)(た)だ是(こ)れ閑時のみ。故(ゆえ)に学を為(な)すは志をたつるより尚(かみ)なるは莫(な)し。」(出典:『言志四録』)

これらは、学びを継続するためには、志がとくに大切だということを様々な形で書き記すものです。

『学習する組織』でも、学習し進化し続ける組織のための中核能力の1つに、自発的かつ効果的に行動するために学ぶ原動力として志の育成があげられています。一人ひとりが志を育むと共に、互い耳を傾け、重ね、広げていくことは、組織の能力開発に通じるヒントを学ぶこともできるのではないでしょうか。

佐藤一斎は、八十二歳で『言志四録』を書きあげました。朱子学や陽明学を極め、八十八歳でなくなるまで教鞭をとったと伝えられており、先の言葉を体現するかのごとく生涯学問への追求はやむことはなかったそうです。

激動の幕末をたゆまず学びつづけた佐藤一斎の教えは「死して朽ちず」、幕末のなだたる志士たちを勇気づけました。時代は変わりましたが、現代では「VUCA: Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)」と言われて、ある意味幕末以上の激動の時代を迎えつつあるのではないでしょうか。チェンジ・エージェントの育成に務めた佐藤一斎のあり方と教えは、VUCA時代を生きるにあたっての自分にとっての「一燈」を見出すヒントを示してくれるのではないでしょうか。

001331-small.jpg(スタッフ:岩下)

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