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ユニリーバのサステナビリティ経営事例~リーダーシップ開発と組織学習の活かし方~(1)多国籍企業のグローバルなCSRの実践
多国籍企業ユニリーバ元人事担当取締役アンドレ・ファン・ヘームストラ氏が、ODネットワークジャパン年次大会2016で行った基調講演(ビデオレター)を4回に分けて紹介します。
ODNJ年次大会2016基調セッション
ユニリーバのサステナビリティ経営事例
~リーダーシップ開発と組織学習の活かし方~
アンドレ・ファン・ヘームストラ氏ビデオレター
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image:ODNJ年次大会2016基調セッションビデオレターより
ODNJでみなさんにお話するようご招待頂き、大変名誉に思っています。残念ながら日本まで伺うことができないため、替わりにビデオメッセージで送らせていただきます。私がお話ししようと思うのは、企業の社会的責任についてです。私がユニリーバで生涯をかけた仕事として経験したことだからです。
多国籍企業のイメージ
20世期の後半には、多国籍企業のイメージはしばしば、せいぜい「善意の世界的搾取者」でした。
しかし、多国籍企業をより深く調査してみると、世界の繁栄に、とくに新興のマーケットにおいて、大変大きな貢献をしていることがわかります。その意味で多国籍企業は公的セクターをユニークな形で補完する存在です。企業のシチズンシップ(社会の一構成員としての責任)が活性化するにつれて、その潜在的な便益は私たちの考える以上に大きいものとも言えるでしょう。私は国連において私企業をどう見るかの視点が変わっていることに注目しています。以前は「撃ち殺すべき虎」でしたが、「搾乳するための牛」になり、今や「馬車を引ける街で唯一の馬」だと気づき始めています。
短期で狭い思考と長期でオープンな思考
ピーター・センゲは著書『持続可能な未来へ』の中で、企業にとって内向きで短期的思考が、特に株主からの圧力のもとでいかに高く代償を払うかを明確に述べています。一方、その狭隘さから抜け出し、より長期的で社外に開かれた思考に立てれば、実に幅広い文脈を実際に開拓できることも明らかにしています。その文脈の中にこそ、企業が生き残るために探し求めるべきであり、また長期にわたって分析し扱うべき多様な力のすべてを明確に理解することができるのです。
企業のマネジャーたちによる広範な分析は、現実に即した機会を広げます。特に、私たちがステークホルダー(利害関係者)と呼ぶ、ビジネスのオペレーションに関わる多様な立場の人たちとのダイアログを通してです。その結果もたらされるビジネス環境は、しばしば複雑であいまいです。持続可能な戦略にたどり着くためには、「システム思考」のアプローチを必要とするのです。
CSRを実践する5つの段階
そのような取り組みが進むにつれ、会社は企業の責任をビジネスの実際に適用するさまざまな段階を経ていきます。それをボストン大学企業シチズンシップセンターは5段階に区別しています:
まず「初歩」段階から始まりますが、これは単なる遵守(コンプライアンス)です。次に、「しっかり関わる(エンゲージト)」段階から「革新(イノベーティブ)」段階へ、4段階目が「統合」段階です。そして5つめが最上の「変容」段階です。この最上の段階では、会社が自分自身を変容させることを通じて、事業環境の変容を助けます。
平行して、「利益」という概念は、それが何のために存在するかによって理解されねばなりません。利益は企業の健康の重要な物差しで、体温とよく似ています。体温を維持達成することは大変重要ですが、それは人生の目的ではありません。豊かなミッションを達成するには、価値の創造が必要です。
このことは非営利組織にも幾分当てはまるでしょう。非営利組織は利益を生み出さず、むしろ赤字に終わることも多いでしょう。とんとんに終わっている場合でも、社会の誰かがその帳尻を合わせなければなりません。
多国籍企業のグローバルなCSRの実践
より進化した多国籍企業は、新興経済国で発展を促進することで、並外れた価値をもたらすこともあります。多国籍企業は、大きな価値のある新しい知識や能力が流れ得るパイプラインを提供します。この意味で、地球のあちこちで活動する多国籍企業同士や、多国籍企業が軸となるバリューチェーンで活動する地元の中小企業との間の関係性の重要性を理解することが肝要なのです。
優れた運営をしている多国籍企業は、国境を越えてものごとを実行できるというユニークな能力を持っています。そしてその意味で、多国籍企業は公的セクターをパワフルに補完するのです。UNCTAD(国連貿易開発会議)は新興マーケットを世界経済に組み込むための国連内の組織ですが、「つながりを構築する」ことを提唱し、いかにこれらのつながりが実際に質の高い開発/発展(クオリティ・ディベロップメント)を導くかを明確にする大変重要な仕事をしてきました。
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本記事は、アンドレ・ファン・ヘームストラ氏より許可を得て翻訳、掲載しております。
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