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「学習する組織」を実践する企業は、実際にパフォーマンスが高いのだろうか?
1990年に発表された「The Fifth Discipline(邦題:学習する組織)」が経営のあり方に衝撃を与えた後の1995年、証券アナリストのジョセフ・ブラグドンはこの問いに答えるために、さまざまな業界から学習する組織及び類似する企業方針をもつ60社を選定し、他の主要インデックスと比較できる株式インデックスを生み出しました。
選定のポイントは、学習する組織において重要な世界観である、生命システムとして人・組織・社会を見立てた方針や実践があるかでした。経営用語の多くが、人や組織を歯車や取り替え可能な部品のように見立てる「機械論」的な世界観に根ざしています。しかし、学習する組織として人や組織の潜在能力を引き出し、自ら学習して高いパフォーマンスを出し続けるには「生命システム」と見立てる必要があります。具体的には、会社パフォーマンスの統合報告で求められているような、人的資本・社会関係資本・自然資本を重視する方針をもち、実践している企業を選びました。
日本からも、トヨタ、京セラ、キヤノン、パナソニックが選ばれているこのインデックスの1994年を基準に2015年までの財務パフォーマンス(累積トータル株主リターン)は、同等の規模・業界構成をもつS&P、MSCI、FTSEのインデックスに比べて約3~5倍高いものでした。さらに、学習する組織を明示的に導入している7社のリターンは、約5~8倍も高いという結果も出ています。
人や組織を大事にする会社は長期にパフォーマンスが高いこと自体は、目新しことではないでしょう。むしろごく当然の常識をあらためて確認しているに過ぎません。
しかし、短期的な業績を上げるためについ犠牲にしてしまいがちな人財育成、組織開発、社会の利害関係者たちとのエンゲージメント、そして環境活動といった中長期の取り組みを、なぜ、どのように学習する組織を目指す企業は実践し続けることができるのか、という問いこそ、多くの経営者やマネジャーの関心なのではないでしょうか。
ジョセフ・ブラグドンは、新著『Companies that Mimic Life』の中で、ユニリーバ、ナイキ、ノボ・ノルディスク、UTCなど伝統的な産業にあって学習する組織を実践する企業7社の経営者やマネジャーたちへのインタビューを実施し、各社での実践の様子をを描き出しています。
まだ日本語訳はなく英語の原書のみですが、アマゾンでも入手可能です。永くパフォーマンスを出し続けるための人財育成、組織開発について、知りたい方は是非手に取ってお読みください。
弊社の小田理一郎は、以前よりブラグドン氏と交流をもち、本のレビューの依頼をいただきました。裏表紙には、小田のレビュー・コメントも記載されています。