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(image photo by Iain Watson on flicker)
世界のシステム・リーダー2人目は、フォード・モーター社の創設者、ヘンリー・フォード氏をご紹介します。
フォード氏といえば、「自動車の産みの親」と称されるカール・ベンツに対し、「自動車の育ての親」と言われています。それは当時、富裕層しか手の届かなかった自動車を、製造プロセスのオートメーション化により格段に安く仕上げることで、広く一般市民に行きわたらせたことに由来します。一時はアメリカの道路で走る車の約半分がフォード車だったこともあるほどでした。その大量生産方式は、自動車業界に限らず、広く生産業界全体へ影響を与えました。こうして、今日の資本主義の在り様を最初に体現した企業家ともいわれるヘンリー・フォードとは、いったいどのような人物だったのでしょうか。
フォードの生い立ち~三度目の正直~
フォードは米国ミシガン州ディアボーンで、農家の家に生まれます。幼少期から機械いじりが趣味で、15歳の頃には自力で内燃機関の組み立てをしてしまうほどでした。1891年にエジソン照明会社の技術者となり、1896年には自作4輪自動車の製作に成功します。これをきっかけに、1つ目の会社、「デトロイト自動車会社」を立ち上げます。しかしながら、車の販売よりも他社自動車との競走・設計の改良に熱心になりすぎて経営難に陥り、同社は倒産します。1900年には2つ目の会社「ヘンリー・フォード・カンパニー」(後のキャディラック社)を設立しました。しかし、今度は他の共同起業者達から社を追われる形で退社を余儀なくされます。
そして1903年、ついに設立された「フォード・モーター・カンパニー」は、フォードにとって3度目の挑戦でした。「失敗を恐れた瞬間からあなたの中のパワーが無くなってしまうのです。でも、失敗こそがあなたを成功に導くチャンスなのですから、失敗を恐れることも恥じる必要もないのです。むしろ恥じるべきは、失敗を恐れる心なのです。」まさにこのことばは、たくさんの失敗に学びながらも成功の道を切り開いてきたフォード自身の在り様を、象徴するものです。このように、常に実践から学習する姿勢に加え、フォードがいかにシステム・リーダーであったかを証明する2つの要素を、ご紹介します。
社会を一つの方程式に固定化せず、常に変えられるシステムとして能動的に捉える
フォードが、自身の自伝『藁のハンドル』の冒頭で憂いていることがあります。それは、自ら機会を切り開こうとする開拓者の姿が、著しく減っている事です。産業の発展に伴い、「1つの機会に1000人の人」が群がる時代から「1人の人間に1000もの機会」が存在するような社会へと変化を遂げているといいます。しかしながら、その機会に受け身でいる人があまりにも多いということです。一般に、私たちの頭の中には、「経済が繁栄する→自動車を持てる人が増える」という方程式が当たり前のように定着していないでしょうか。しかしフォードは、逆向きに考えます。「自動車を持つ人が増える→経済が繁栄する」ということです。より多くの人が自動車を持つことで、自由に外に出向く機会が増え、外に出向くことで、より楽しく裕福な生活を探求したいと望む人が増える、という発想です。ここに、フォードにとって経済の在り様や人々の生活・消費活動は決して固定化されたシステムではなく、常に自らが当事者として働きかけることで変えられるもの、というマインドセットが表れています。
さらに1914年には、自社の最低賃金を1日2ドル余りだったところから5ドルまで引き上げます。その理由のひとつとしては、製造過程のオートメーション化に伴って従業員に求められる作業内容が単調化し、社員の定着率が危ぶまれたということも起因しています。それでも、実際にこれだけ大胆な賃金引き上げを決断できたのは、フォードが、「製品を買ってくれる「大衆」とは、どこからともなく現れるものではない。自社の従業員こそが、売り手であると同時に一番の買い手である(大衆の一部である)」ということに注目していたからです。彼らの購買力を高めることで、自社の商品に対する需要を増やし、つまり大衆の経済活動を活性化させていったのでした。
今日多くの国で、政治家や軍人におけるリーダーシップスキルの不足が指摘されています。しかし、フォードはそれを、国民が「産業にしかできないことを政治に求める癖がついているからだ」と考えます。そしてその産業とは、企業が、サービスを通じて大衆とのパートナーシップを組み、利潤を分かち合いながら共に築きあげていくものだといいます。政治や法律が織りなすシステムを固定化して捉え、受身になるのではなく、産業という分野で、「大衆」と企業とが共に関係性を築きながら「共に生活を裕福にしていく」ということが、フォードの出した答えでした。
(後編へつづく・・・)
参考文献:「藁のハンドル-ヘンリーフォード自伝」ヘンリー・フォード著、竹村健一訳(祥伝社)