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本書は組織開発のバイブルである『The Fifth Discipline』の大幅改訂版の翻訳です。最近、ダイアログ(対話)、内省、ビジョン、創造などの実践を日本でも多く見かけます。原書はさまざまな組織開発実践の火付け役となり、20世紀の経営を変えた不朽の名著として、西洋や中国などで多くの実践家に読まれてきました。
組織開発に詳しい方は、旧版の翻訳書『最強組織の法則』をご存じかと思いますが、新版が旧版と違う点は2つあります。まず、旧版発行時の1991年には数少なかった実践事例について、さまざまな組織で導入・実践された体験を振り返っていることです。大手企業だけでなく、ベンチャー、倒産目前の企業、NGO、学校などの非営利組織、さらにはセクターを超える協働ネットワークなどでの実践例が紹介されています。
もう一点は、抄訳から全文訳となったことです。旧版訳書では、チーム学習やシステム思考に関してすぐには理解しづらい部分が、章もしくは段落ごと省かれていました。原書と翻訳訳を読み比べた多くの方からは、一見難解であるものの深みのある記述を省かない完訳本への期待が寄せられていたのです(結果、とても厚い本になってしまいましたが)。
センゲ氏の最大の貢献は、個別に発展していった組織開発諸分野の理論と実践を統合する「学習する組織」のコンセプトを打ち立てたことでしょう。「志の育成」「複雑性の理解」「共創的な対話」の3分野で能力と意識を伸ばし続けることが核となります。そして5つあるディシプリンの要として、全体像やつながりを見て本質を見抜くものの見方である「システム思考」を紹介しています。複雑な動きをする市場や組織や人の間で起こる相互作用や、各人の内面に起こることをありのままに見て、「レバレッジ・ポイント」(劇的なパフォーマンス改善につながる問題構造のツボ)を見出します。そして、分析や個別施策ではなく、個や多様性を活かしながら全体を「綜合」する施策に取り組みます。
組織や社会を変えたい、新たな未来を創造したいすべての人に読んでいただきたい本です。
『学習する組織―システム思考で未来を創造する』
(ピーター・M・センゲ著、枝廣淳子、小田理一郎、中小路佳代子訳、英治出版刊)
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