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1990年ごろ米国のビジネススクールに通い、西洋の教科書はなんと読みやすいことか!と実感したものです。日本の教科書は、抽象的で難しく書くことが権威的であるかのような印象があったのと対照的でした。楠木氏のこの本は、難解な戦略論について、西洋の本のように「平易な語り口でわかりやすく語ってくれる本」というのが第一印象です。
事業戦略とは、事業の大局的、長期的な指針であり、いかに違いをつくり、つなげるかを示すものです。どのように競争優位を生み出すかについて、1)いつどこで競争するか(業界の競争構造)では「先行性」、2)何を以て競争するか(ポジショニング)では「トレードオフ」、3)いかに競争優位の源泉を創るか(組織能力)では「暗黙(知)」、そして4)なぜ、何のために競争するか(ストーリー)では、「全体としての一貫性と交互効果」に段階分けしています(後に行くほどより高次の競争優位になります)。
強い因果の論理に裏付けられ、太い相互作用、そして長く持続するストーリーには以下の起承転結が必要です。
起: つまるところ顧客は何がほしいかのコンセプトを起点とし、
承: 構成要素の因果関係を明確にして循環や繰り返しのパスを回し、
転: クリティカル・コア(一貫性の基盤とひねり)によるキラーパスを出して、
結: 競争優位を定めてゴールする
そして、思わず話したくなるような面白さが求められます。とりわけ、一見して非合理的だが文脈に埋め込まれた全体から見れば合理的な「賢者の盲点」を衝くことが、競合による模倣の動機を失わせ、敬遠するような持続的な競争優位の源泉につながる問題構造のツボといえるでしょう。そして、話は長いけれど、最後のエンディングがとても素敵で、思わず膝をたたきました。
私の専門としている「システム思考」では、どのような因果律で競争優位や業績を築き、そこからいかに持続的に発展させるかという因果関係を明示する演習をしばしば行います。ストーリーとしての戦略論の論理ととても親和性が高く、事業戦略におけるシステム思考応用にもとてもよい事例や思考プロセスを提供してくれます。
『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件』(楠木建著、東洋経済新報社刊)
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