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『シンクロニシティ―未来をつくるリーダーシップ』では、著者ジョセフ・ジャウォースキーが人生を通じて自らのリーダーシップを磨きながら、真のリーダーシップ養成のための機関とプログラムを開発していくストーリーが描かれています。これからの経営に必要となるリーダーシップ論を、小説仕立ての読みやすさで紹介してくれる良書です。
ビジネススクールなどで教えられてきたリーダーシップ論は、古いサイエンスの考え方に基づき、その起源はニュートンとデカルトに遡ります。ものごとを原子のレベルで見ると1+1は常に2であり、個別の要素について法則性を見つけることで論理的に積み重ねてものごとが語られます。マーケティング、財務、組織論、統計的分析など科目を分けて、それらを積み重ねればすべてが整理できるかのような錯覚に陥ってしまいます。
要素還元型の分業化、機能特化したシステムデザインは、それぞれの要素の効率を高めることを主眼に置いています。しかし、組織における個別最適化は、せいぜい短期的な成果にとどまり、長期的には組織全体の効率が悪化しています。それだけでなく、短期的な視野のために、組織の競争力の源泉となる知的・人的・社会的資本の蓄積とレジリエンスを犠牲とした結果、やがて競争力を失い、組織の寿命を縮めているケースが多く見られます。
これに対して、ジャウォースキーが見出す新しいリーダーシップ論は、まさに全体最適化を起点として考えるものです。著者と物理学者であるデヴィッド・ボームとの対話を通じて解説される「ニューサイエンス理論」がその大きなヒントを与えてくれます。原子からさらに小さい量子や素粒子のレベルでものごとを見た場合、そこにある内蔵秩序は全体性の影響を深く受け、また、個々の要素がどのように内蔵秩序をとらえるかが全体性に大きな影響を与えているのです。
古いマネジメントのパラダイムでは、トップが少数のエリートと共に練り上げた戦略を組織に伝え、実行させて、結果のモニタリングとコントロールを行いながら、思惑と違う場合には組織に学習をさせます。ボス型、つまり「Do型のリーダーシップ」であるといえるでしょう。リストラクチャリング、リエンジニアリングといったマネジメント用語自体が、組織や人を機械と歯車のようにしか見ていない思想から生じています。しかし、このようなアプローチでは外発的な動機と自己防衛・他責に満ちた組織にしかなりえません。
ニューサイエンスのマネジメントに求められるのは、組織システムと向き合い、語り、対話しながら、内発的動機と自律を促す「Be型のリーダーシップ」です。組織も人も生き物であり、その動きは複雑で予測不能です。しかし、組織内外で互いに尊敬と信頼しあえる関係をつくり、心の中で共鳴しあう理念とビジョンと現実の全体像が共有されたとき、人々は単なる要素の集合体以上の目覚しい成果を生み始めます。このようなシステムのパフォーマンスは、リーダーの心の状態によって大きく左右されます。
そういった最新の科学の知見やマネジメントの実践を踏まえれば、「シンクロニシティ(共時性)」も単なる偶然ではなく、デザインされた中で起こることが読み解けるでしょう。
著者のリーダーシップの旅は39歳で始まっていますが、この本はこれから人生の正午を迎える人や、すでに人生の午後を迎えながらまだ迷いのある方々にもお勧めします。組織デザインに頭を悩ませる経営者にもぜひ読んでいただきたい1冊です。
『シンクロニシティ―未来をつくるリーダーシップ』(ジョセフ・ジャウォースキー著、英治出版刊)
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