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(システム思考や組織論を学ぶ上で、わかりやすく実生活に役立つ本を今号から不定期でご紹介します。ぜひ、こうした本での学びを実践し、みなさんの仕事や 生活に生かしてください。)
森田英一氏の『こんなに働いているのに、なぜ会社はよくならないのか?』は、日本の会社員のみなさんに等身大で読んでいただける組織開発入門書としてお奨めです。日本企業の文脈、日本での実践に即して、学習する組織やU理論のプロセスをひもといているからです。
第1~4章では、日本の会社組織にしばしば見られる問題構造の典型例として、問題症状とダイナミックなパターン、そのパターンを引き起こすシステム構造、その奥にあるメンタルモデルが紹介されています。当然ながら個々の会社はそれぞれ違いますが、この「原型」や派生型、組み合わせが多いのではないでしょうか。
うまくいかない組織では、得てして悪循環がまわっています。その悪循環のエンジンは、よかれと思う人々の思考や行動が引き起こしていることがしばしばです。筆者の指摘通り、この全体像が見えない限りは、罠にはまり続け、囚われから逃れることができません。そこで働く人のものの見方と、そして集合体として創り出される組織風土や場との相互作用に依ることが多いためです。
会社で働く人々も問題構造のツボはうすうすわかっています。例えば「違和感」や「もやもや」を感じるときがそうです。しかし、日本の組織や社会では、その「違和感」や「もやもや」に、ふたをしてしまうことが多く、「違和感」が語ら れず、また「もやもや」の中にしっかり身を置かないことで、本質は見過ごされ、組織風土が硬直化していきます。
あるいは、本当に大事な問題や解決策の方向性がうっすら見え始めたとき、「そんなこと無理だ」と最初からあきらめたり、不安にあおられて勇気が出せずに思考停止に陥り、ネガティブな感情や自己防衛本能に身を任せて行動するのも典型的な症状でしょう。個々に、あるいは集団で、ついつい押してしまう思考停止のスイッチに無自覚でいることで、適切な解決策がとられることなく、ますます問題の深みにはまっていくのです。
レバレッジは、自分または自分たちが手の届く範囲に見出さなくては意味がありません。外部要因にレバレッジを求めても、ほんとうに外部にあるとしたら手を出せません。
第5~6章では、日本の組織が陥りがちな、典型的なパターンから外れる事例を国内外から紹介。世界はグローバル化、複雑化、スピード化する一方、資源は相対的に減少していて、日本はかつてなく厳しい環境下に置かれています。しかし、それは日本だけでしょうか? デンマークも韓国も、同じ時代の流れの中にいます。そして日本の中でも、元気な会社もあれば機能不全に陥っている会社もあります。
同じ環境に置かれても結果に差が出るのは、外部で起こっている現象が問題なのではなく、そのシステムの内部構造か、あるいは外部構造との相互作用に真の原因があります。なぜデンマークのように資源のない小国なりに、好循環を生み出す仕組みが構築できないのか? なぜ常識にとらわれない発想ができないのか?そうした問いを自らに向けない限り、レバレッジにたどり着くことはまずないでしょう。
第7~9章では、日本の典型的な組織に有効と考えられる、組織開発の考え方とプロセス、そして組織変革事例が語られています。国内での数多くの実践から抽出して書かれているため、海外事例に比べてリアリティを感じやすく、また自社の状況との比較もしやすいでしょう。
私の実感でも、討論・議論する力を学校教育からしっかり教えている国々に比べて、平均的な日本の会社員は、論理的に自身を主張する力も、相手の主張をきちんと聴く力も弱い。そうした日本の現場に合わせ、組織の力がどこにあるかを見極めながら、どのような戦略で変化を展開していくかを考えていくことが必要です。
これからますますその重要性を増し、日本で注目される組織開発について、どのように始めるか、どのように進めて行くかを考える上で参考になる本として本書をお奨めします。(小田理一郎)
『こんなに働いているのに、なぜ会社は良くならないのか?』(森田英一著、PHP研究所刊)
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