News & Columns
Kさんは自動車会社の開発部署で働いていました。その会社では、1000人以上のエンジニアがいくつものチームを編成して仕事をしている中、Kさんのチームは、運転時の騒音と振動をいかに減らすかに取り組んでいました。Kさんは試行錯誤を重ね、ようやく部品設計を終えることができました。ほかのチームでは遅れが目立つ中、期日通りに開発できたことに安堵していました。
ところが、それから2週間ほど経って、やり直しが必要なことが判明したのです。別のチームが平行して車台のデザインに取り組んでいたのですが、そのデザインの部品と組み合わせたところ、予定以上の重さがあるためにタイヤ圧を上げることにしたのです。それによって振動はより大きくなり、基準に満たないことが発覚したのです。
「先にこちらが開発を終えていたのに、後から変えた部品のためにやり直しをさせられるなんて」とKさんは内心思いながらも、新しい部品のデザインに再び取り組み、補強材をつけることで振動の問題を解決しました。
ところが、組み立てて試験を行ったところ、重量の問題のために車台チームの調整が必要になったのです。今度は別のチームが設計し直す番となり、安定して運転できるように新しい設計案が出されました。しかし、その設計案では、再びタイヤ圧が上げられ、振動が基準を超えてしまうことがわかったのです。
さすがにKさんも、「なんで次々と問題を起こすデザインばかり設計するんだ!」と思わず口に出してしまいました。すると、車台チームも「それはそっちのことではないか!」と切り返します。互いにフラストレーションを抱え、険悪な状況に陥ってしまいました。
私たちは、システムという全体の中にいるとき、自分に都合のいい解釈だけをしがちです。しかし、実は自分自身も問題構造の一部であることが多いものです。Kさんの例もまさにそうでした。Kさんの振動チームも相手方の車台デザインチームも、お互いに「自分たちは被害者だ」と感じています。しかし、実際には、自分自身も繰り返し起こる問題構造の一部だったのです。
相互に関係する2つのチーム間で、それぞれの「うまくいかない解決策」が、相手の問題を悪化させ、互いに問題を作り続ける悪循環を生み出し、立ち往生してしまうのです。このような全体像がわかれば、2つのチームが協力して仕事を進めればいいことがわかります。
双方のチームメンバーが集まり、それぞれの視点で問題をどのように見ているか、率直にダイアログ(対話)を行うのがよいでしょう。互いに聴く姿勢を貫いて話を続け、起こっていることを見える化し、全体像の理解を少しずつ進めます。自分がどのように構造の一部になっているかが見えたとき、本当の問題解決に向けて、心の変容が起こってくるでしょう。