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F氏は、ロジスティクスの仕事をしています。担当業務を通じてどのように企業に貢献したらよいかを考え、マイケル・ポーターの「価値連鎖(バリュー・チェーン)」という方法に注目しました。企業活動を価値創造の観点からいくつかのステップに分け、それぞれのステップでの戦略選択肢を考えることを通じて、企業による顧客への価値提案と持続可能な競争優位性を高めるためのフレームワークです。
この価値連鎖では、「顧客がその企業が提供する財・サービスに対して、どれぐらいのお金を払いたいと思うか」の金額全体(=価値)を、それぞれの価値を創造する活動に分けて、各活動にかかるコストの合計と価値全体の間にどれだけのマージンがあるかを測ります。
企業の活動は、大きく主要活動と支援活動に分けられ、主要活動には購買物流、生産、出荷物流、販売マーケティング、サービスがあります。一方、支援活動には、調達活動、技術開発、人材マネジメント、そして企業のインフラとしての管理する部門の活動があります。これらのすべての支援活動は、個々の主要活動を支える役割を担っています。
このフレームワークでは、それぞれの付加価値の鎖について、競合他社などとのベンチマークを行い、「コスト競争力があるか」「差別化する訴求ポイントがあるか」を把握します。
F氏は、購買物流及び調達活動について競合との比較をしながら、アウトソーシングを進めることによってコスト改善できる機会を見いだしました。その計画をマネジメントに伝え、ちょうど合理化を図ろうとしていたマネジメントは計画を承認し、アウトソーシングを実施することとなりました。
ところが、その効率化を実施し、競合よりも安いコストで物流や調達活動ができるような調整したにもかかわらず、業績は思うように伸びませんでした。ふたを開けてみたら、調達・物流コストの効率化が生産コストを上げ、サービスを悪化させ、また販売マーケティングにおいて、これまで差別化戦略の訴求ポイントであった納期の確実性や顧客ニーズへの柔軟な対応といった点で、問題が現れ始めたのです。F氏はあわてました。「こんなはずではなかったのに。どこが間違っていたんだろうか?」
F氏はマイケル・ポーターのこの価値連鎖を、あくまでも要素として考えてしまいました。ですから、重点視すべき要素はどこかを決めて、そこだけに専念していたのです。
しかし、この価値連鎖は、ビジネス・システムとしてすべて有機的につながっています。実際にビジネス・システムを再構築する際には、ある活動だけを切り出して個別に取り組むのではなく、その活動が、ほかの連鎖とうまく連結し、企業全体としてその戦略を実現できるか、じっくりと吟味する必要があります。
価値連鎖のフレームワークは、全体のつながりを意識する思考を併せ持って、はじめて大きな価値を出すのです。要素還元的なアプローチでこの手法を使っても、顧客への価値を高めることはできません。