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Sさんの会社は、ここ数年収益の伸び悩みで苦境が続いています。依頼を受けたコンサルティング会社が聞き取り調査をしたところ、商品力は競合並だがとりわけて目立ったところもないため、流通はメーカー各社からの販売インセンティブの大きさによって、採用する商品を決めていることがわかりました。
しかし、販売インセンティブを高くすると、それだけメーカーの収益が下がりますから、年中続けるわけにはいきません。そこで、普段は通常の価格と販売インセンティブで販売しながら、四半期の終わり毎に販促キャンペーンを実施して販売インセンティブを増やすという販売促進策を採用しました。
この促進策のおかげで、販促期間中の販売数量は大きく伸びました。しかし、キャンペーン終了後の売上は大きく落ち込んでしまいます。
通常期の販売数量が芳しくなく、四半期の最後の月にはキャンペーンを打って挽回するパターンが定着するようになりました。キャンペーンの都度、販売は伸びるのですが、ほかの2カ月は落ち込むパターンを繰り返しています。Sさんは、一体どうすればいいのか、と頭を抱えてしまいました。
うまくいかなかったのはなぜでしょうか? どうやら、分析と対策の進め方に問題があったようです。
問題解決のために、しばしば「ロジックツリー」とか「フィッシュボーン」と呼ばれる分析手法が活用されます。これは、製造現場での改善活動などのように、空間的・時間的にせまい範囲のシステムでは多くの成功事例を残しています。しかし、実施が容易なものや短期的に成果が出る対策は、複雑な現実世界では、思わぬ落とし穴にはまりやすいものです。複雑なシステムでの打ち手は、意図した対象の要因だけでなくほかの要因にも影響を与えることが多いためです。
例えば、販促キャンペーン期間中は売上が増えるといっても、物流のレベルでも、消費のレベルでも、どのみち買うつもりだった顧客が前倒しで購入する「タイムシフト」に過ぎない場合が多いでしょう。やり方を失敗すると、流通が安いときに大量に仕入れて、余った商品を通常価格で販売する「買い溜め」にもつながりかねません。
消費者にとっては、「今がお買い得」とか、「これは安い」と思うばかりでで、中長期に見れば、むしろ「安物イメージ」が広がっていくことになります。ブランドイメージのよくない商品は、売価が下がり、よほど価格で訴求しない限りは市場シェアも下がるでしょう。販促キャンペーンは、実はブランドイメージが悪化して売上を下げる売上悪化の悪循環(「安かろう悪かろう」ループ)の打ち手だったのです。
ロジックツリー型の原因分析の弱点は、因果関係を線形にしかとらえないことです。ですから、経験の少ない分析者には、打ち手を打ったら何が起こるかについて、因果関係を反対方向に遡っていく論理ばかり見えてきます。しかし、現実の世界では、打ち手の影響はロジックツリー上の、複数の要因に、同時または異なるタイミングで影響を与え、しばしば悪循環の状況に陥ることがあります。
では、Sさんの会社では、どのような打ち手がよいのでしょうか?