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まず、必要な収入の見直しです。自分が必要と思っている金額は本当に必要だろうか? 自分のお金の使い道は、自分や家族の幸せにどれだけつながっているだろうか? 幸せにほとんど貢献しない支出を見直すと、「必要な収入」を下げることができます。そうすることによって、「収入の不足」が生じにくくなり、「仕事の時間」を減らして「勉強時間」を増やすことができるようになります(図1)。
さらに見直したのは「収入の不足」です。新しい手法をきちんと習得して、仕事で結果を出せるようになるには、生半可な勉強ではいけないと考えました。相当の時間を割いて勉強しなくては、自己強化型ループは回らないでしょう。そこで、もっと多くの時間を勉強にあてられるように、一時的に貯蓄を切り崩して「収入の不足」に充当することにしました。そうすれば、収入不足分をただ下げるだけでなく、ある期間はゼロにすることもできるだろうと考えたのです。
そこまで覚悟を決めると、思い切って勉強に時間をあてることができました。収入の心配をしなくていいですから、仕事か勉強かで悩む必要がなくなったのです(図2)。
そして、貯蓄を先行投資として投下することがもうひとつのループを生み出します。つまり、貯蓄はある決まった額しかありませんから、際限なく勉強だけに時間を割けるわけではありません。ゼロ収入でも耐えられる期間には限りがあります。この期間のうちに、「やりがいループ」が回り始めないとジリ貧ですから、「真剣さ」が高まります。単に「勉強時間」が増えるだけでなく、適度なプレッシャーが「勉強時間の質」を高めることにつながりました。この時間と質の高まりの相乗効果で、新しい手法の理解を急速に深めることができました(図3)。
ひとたび自己強化型ループが動き出すと、問題解決力が上がり、実際の仕事上の成果にもつながり、それが経験の蓄積となって、新しい手法の理解度がますます高まります。このようにして、「やりがいループ」がどんどん回っていきました。
望ましいループが弱いとき、ただそのループを一生懸命回そうと気合を入れても、ブレーキになっているループに働きかけない限り、効果的に回りません。Aさんは、阻害要因となっている「生活ループ」の存在を認識し、その構造の奥にある意識・無意識の前提まで掘り下げて考えることで、打開策を見出したのでした。
新しい発想につながったのは、自分が本当にやりたいことは何かという、自分自身のパラダイム、前提への問いかけでした。目的そのものを問い直して構造に働きかけることで、強力で本質的な変化を創り出すことができるのです。
自分の望んでいた「やりたいことを仕事にする」ことができるようになり、「やりがいと手応えを感じて、このうえなく幸せだ」と、Aさんはうれしそうに教えてくれました。