News & Columns
最近、ある企業の経営者研修の依頼を受けて、ビジネスでの事業戦略でのフレームワークや手法を整理しています。あらためて見て思うのは、よくできたフレームワークにはたいていシステム思考がその中核にあるということです。
マーケティングで中心的な考え方であるエベレット・ロジャースの『イノベーション普及理論』や、マルコム・グラッドウェルの『ティッピング・ポイント』は、市場や社会でいかに自己強化型ループを活用し、ティッピング・ポイントを迎えて、アイディアや商品の成長・普及を図るかについての本です。
エリヤフ・ゴールドラットの「制約理論(TOC)」では、ボトルネックを見出し、はずすことを重視しますが、これはシステム原型の『成長の限界』で制約を生み出すバランス型ループを弱めることに相当します。
マイケル・ポーターの「業界分析」の5つの力は、競争戦略を考える上でバランス型ループを作る5つのサブシステムです。W・チャン・キムとレネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略』は、そのバランス型ループが激しく回るレッド・オーシャンを離れ、新たなブルー・オーシャンともいえる市場を開拓するかについて論じています。
「プロジェクト・マネジメント(PM)」は、プロジェクトの主要要素の中でのトレードオフ(バランス型ループ)や好循環・悪循環(自己強化型ループ)をいかにマネジメントするかであり、エドワード・デミングの「トータル・クオリティ・マネジメント(TQM)」は、統計理論をのぞけば、学習する組織の3本柱とほぼ同じで、いかにシステムそのものの改善を図るか(ダブルループ・ラーニング)を目指します。
また、ポーターの「価値連鎖」では、価値提案をつくる各機能を部分で見るのではなく、いかにビジネス・システムとして統合するかを強調しています。
さらに、革新的なデザインで知られるIDEO社のティム・ブラウンの「デザイン・シンキング」は、分析・論理と洞察・クリエイティビティの双方を用いて、トータルなビジネス・システムの設計を行います。学習する組織、U理論でも、洞察やクリエイティビティの側面を重視しており、左脳型(論理)と右脳型(洞察)の接点となる点でも、最先端にあるシステム思考そのものという感じがします。
これらのフレームワークの英語の原書に当たれば、どれも「システム」という言葉を用いており、それはすべてシステム思考でいうところの「システム」を意味しています。(日本語で一般にいう「システム」は、機械論的なシステムを想起させ、あまり本来の意味で用いられてないようにも思いますが)
システム思考は、言ってみればさまざまなアプリケーション・ソフトを走らせることができるオペレーティング・システム(OS)に位置づけられるのではないかと思います。上に挙げたようなフレームワークや手法を取り入れる際、システム思考を知っておくと、その価値がさらに引き出せるでしょう。