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日本教育大学院大学学長であり、クマヒラセキュリティ財団の理事長を務める熊平美香さんとは、2年前にオマーンで行われた「学習する組織」の国際会議で初めてお会いしました。熊平さんは『チーム・ダーウィン「学習する組織」だけが生き残る』の著者でもあります。
システム思考のセミナーに参加いただいて、どのようにして日本の教育を望ましい姿に変えていけるかについてループ図を描きながら思索を深めました。そして昨年、日本で具体的に始めるにはどのようにすればよいかの参考にするために、世界での初等・中等教育における「システム思考」教育や「学習する学校」プログラムについての調査委託をいただきました。
子ども向けシステム思考教育では第一人者のリンダ・ブース・スウィニー氏の協力を得ながら、米国に拠点を置く「システム思考」教育実践ネットワークのクリエイティブ・ラーニング・エクスチェンジ(Creative Learning Exchange)や、ピーター・センゲ氏らのチームによる教育界での組織学習導入事例を集めた『Schools That Learn』などの情報をもとに作成しました。
教育システム改革の試みは1960年代よりありましたが、ピーター・センゲ氏の提唱した「学習する組織」を学校教育に応用し始めたのは1990年代になってからです。それから、2000年時点でもすでに数百の学校、数千人の教師が「学習する学校」プログラムを実践し、その後10年間でさらに広がりを見せて、米国では週単位で「システム思考」教育を義務化するなどの動きが見られ、また欧州や中国などにも「学習する学校」の導入が始まっています。
本レポートは、実践状況がどのようになっているのか、また、どのような理論、カリキュラム、ツールなどが用いられているかなどをまとめたものです。クマヒラセキュリティ財団のご好意で、一般公開の許可をいただきましたので、弊社のウェブサイトからレポートがダウンロードできます。
http://change-agent.jp/news/files/SchoolsThatLearn.pdf
目次
1. 海外での教育システムの問題点
2. 「学習する組織」のアプローチ
3. 「学習する組織」の初等・中等教育での実践
3-1.世界での実践状況
3-2.「学習する組織」のカリキュラム
3-3.「学習する組織」のツール/プログラム
4. 専門家インタビュー~リンダ・ブース・スィニー氏
5. 「学習する組織」実践事例
実践事例1.米アリゾナ州ツーソンのカタリーナ・フットヒル地区の中学・高校
実践事例2.米バーモント州バーリントン市の「The Sustainable School Project」
実践事例3.オランダの「ナチュラル・ラーニング」
6.教育界における「学習する組織」実践の情報源
日本の教育は、「読み書き、そろばん」のできる優秀な人材を大量に育成し、戦後の産業政策を支えてきました。しかし一方で、「答え」のある問題を解くのは早いけれど、「答え」のない課題は苦手であるなど、多くの課題を抱えます。21世紀型の新しい国づくり、産業づくりに照らし合わせると、日本もまた教育のあり方や手法、アプローチを見直すときにきていると思います。
「読み書き、そろばん、システム思考」といわれるくらい、システム思考と他のさまざまな優れた手法やアプローチを取り入れながら、職場の課題であれ、社会の課題であれ、生涯探求し、学び続ける学習者の成長を後押しできたらと願っています。