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今月、「システム思考のバイブル」とも言われる本の邦訳が遂に出版されました。
米国MITスローン・ビジネス・スクールのジョン・スターマン教授の著書『システム思考―複雑な問題の解決技法』です。
本書は、システム思考の基本となる考え方から、ループ図やストック/フロー図などのシステム構造を可視化する技法、さらにはメンタルモデル、限定合理性、意思決定論などをわかりやすく解説します。
さらに、GM、デュポン、松下電器(現パナソニック)、ソニー、マイクロソフト社、DECなどのビジネス事例を通じて、成長戦略、販売戦略、プロジェクト・マネジメント、設備管理、投資意思決定、サプライチェーン改革などでの実践を紹介しいます。
以下、この本への訳者はしがきです。
(引用ここから)
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今日のビジネス・リーダーはかつてないほど大きなチャレンジに直面している。かつて、せまい地域内の小さな組織においては、自らの決定の結果を現場である程度見極めることができた。しかし、ビジネスはその市場と組織を広げ、複雑な課題克服のために細分化・専門化を進めた。そして、国家レベルの経済は、他の国家との交易と競争を通じて共進化するとともに、共依存を強めている。
今や、アメリカや中国の経済で起こっていることが、日本の経済にさまざまな影響を与える。そして、日本の私たちの行動がほかの国にも影響を与え、システムを構成しているのだ。そうしたグローバル経済の構造は、経済危機、地球温暖化、エネルギー危機、貧困、テロなど地球規模の課題にもつながっている。それらの課題は単純な原因と結果の説明では理解することはできず、ましてその解決は混迷を深めている。
途方もないスケールで起こっている一連の課題は、私たち人間の進化を求めているのかもしれない。私たちが世界に対して抱くイメージ―「メンタルモデル」―の大幅な改善が必要なのだ。そして、人間の進化に有効なのが「システム思考」ではないだろうか。システム思考は、さまざまな要素の複雑なつながりを「システム」として捉え、構造の全体像を俯瞰し、その複雑な挙動を理解して、システムそのものの改善を図るものの見方である。
システム思考はまた、さまざまな関係者間のコミュニケーションと学習の手段でもある。複雑なシステムの課題の解決には、システムに関わる全員が問題の構造と自身の関与を理解し、学習して改善を続ける必要がある。
システム思考という枠組みから見てみると、グローバルな課題に限らず、身近な職場や家庭や地域のさまざまな問題もシステムの構造から起きていることがわかる。なぜよかれと思った行動がかえって悪い結果につながるのか? なぜ組織に優秀な人を集めても、全体では平凡なレベルの行動と結果に終わるのか? なぜほとんどの人が「これは問題だ」とわかっていながら、同じ問題が繰り返し起こるのか?
システム思考はビジネスを含むさまざまな分野で実践されてきた。世界でその最前線にいるのが、本書の著者であるMITのジョン・D・スターマン氏である。原書の『Business Dynamics』は、システム思考の基本理論とビジネスにおける実践を紐解き、ビジネス分野の多くの実践家たちに愛読されている。今回、この「システム思考のバイブル」を日本語で紹介できることをとてもうれしく思っている。
日本語版の発刊に当たって、1,000ページ近い原書から、ビジネス・パーソンを対象にシステム思考の理論、基本ツール、実践事例を紹介することを目的に編集を行った。そのために、コンピューター・シミュレーションのモデリングに関する情報は大幅に削除している。また、地球温暖化のセクションでは、部分的に著者による書き下ろしが加えられた。翻訳に当たっては、文系と理系の両方の読者を念頭においた。訳者たちはこの4年間日本国内でシステム思考を習得するための企業・政府機関向けワークショップを数百回行ってきている。その経験をもとに、できる限りわかりやすい表現を心がけた。
本書の発刊に当たって、数多くの方々の支援をいただいた。私たちにシステム思考の手ほどきをしてくれたデニス・メドウズ氏、翻訳の機会をくださり編集・書き下ろしにも協力してくれた著者のジョン・スターマン氏、翻訳協力者の中小路佳代子氏、小野寺春香氏、五頭美知氏、ヘレンハルメ美穂氏、さまざまなフィードバックを下さったシステム思考ワークショップの参加者の皆様、イーズ/チェンジ・エージェントのスタッフ、そしてプロジェクトを温かく支援してくれた編集者の井坂康志氏に感謝の意を表したい。
日本でビジネスに携わる読者の皆様にとって、本書が、それぞれの課題を捉える視野を広げ、自身と関係者のメンタルモデルの変容を促し、長期にわたって持続可能な成果を出し続けることの一助となるならば望外の幸せである。
2009年8月
枝廣淳子・小田理一郎
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(引用ここまで)