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前回、もっとも普遍的に見られる問題構造として「成長の限界」を紹介しました。今号は、ビジネスでよく見られる「成長の限界」を紹介いたします。
多くの企業は、創業して後、しばらくの間は成長を続けます。売上が伸び、社員数も増え、資産規模や企業価値も高まっていきます。この成長は自己強化型ループの存在によって実現します。どのような自己強化型ループかは、市場の特徴や企業の戦略によって異なりますが、成長している企業においては複数の自己強化型ループが回っていることが多いです。
もっとも基本的なループは、顧客数を増やすループです。私たちは顧客数を増やすために、広告宣伝を行い、あるいは、営業部隊の人員数を増やします。それによって、商品の認知が高まり、購入意欲が刺激されて、購入することによって顧客となります。顧客数が増えると売上が増加し、それによって広告宣伝や営業のための経費を増やすことができます。(多くの企業は、売上に対するある経費比率の範囲内で、営業・マーケティング費用を決めます。)広告宣伝や営業力が強まることによって、さらに顧客を増やしていきます。
しかし、顧客数にもっとも大きな影響があるのは、広告宣伝や営業などの直接的な手段ではなく、「口コミ効果」、「メディア効果」、「ネットワーク効果」などの間接的な経路です。
商品を買った人が、その商品を友人に見せたり、話をすることによって、その友人も買えば、顧客数は増えます。これを口コミ効果といいます。口コミは、あたかも感染者から未感染者に伝染して広がっていくように、潜在顧客を顧客へと変えていきます。顧客数が多ければ多いほど、この口コミ効果は大きくなります。したがって、これらの間接経路もすべて自己強化型ループであることがわかります。
企業の自己強化型ループは、コスト戦略にも活用されます。一般に生産量が多ければ多いほど、製品1単位当たりの固定費が下がります。単価が安ければ、価格を低く抑えられるので、より高い市場規模や市場シェアが得られ、その結果生産量はますます大きくなります。
さらに、生産量が大きければ、単に固定費だけでなく、さまざまなコストを下げる効果が生じます。「規模の経済」、「範囲の経済」、「学習曲線効果」や、プロセス改善の効果などです。
成長する企業は、得られた利益を設備、技術開発、差別化製品開発、人財、知識、マネジメント能力などに再投資することによって、さらに競争力を高め、売上や利益を成長させます。企業の成長戦略の要の第一は、これらの自己強化型ループをいかに早く、いくつも重ねて回すかにあるといえるでしょう。
しかし、成長には必ず限界があります。たとえば、市場にいる潜在顧客がすべて顧客となったときには潜在顧客は残っていませんから、その市場の顧客数はこれ以上増えることはありません。これは、感染モデルにおいて未感染者がいなければもはや感染しないのと同じ構造です。市場飽和を迎えた企業は、地理的に別の市場を開拓するか、新しい製品・サービスの市場を創造しない限り成長できません。
あるいは、資源会社などが保有する埋蔵資源をすべて採掘しつくてしまえば、もう売れるものが残っていませんから、それ以上のビジネスはできません。(あるいは、採掘とその後のプロセスの費用が採算レベルにあわなくなります。)
実際には、成長は枯渇よりも遙か前の時点で止まり、一般的には当初の資源量の半分くらいがピークとなることが多いです。ピークを越えたあとは、あらたな埋蔵資源を発見するか、あるいはコストの見合う代替資源を開発しない限り、再び成長することはありません。
飽和も枯渇も物理的な限界がもたらすバランス型ループです。このような絶対的な成約要因に対して、企業や事業の規模がその限界に到達したとき、成長は頭打ちし、衰退を始めることになります。
ここで少し立ち止まって考えたいのは、成長が鈍り、あるいは衰退しはじめている企業は、すべて飽和や枯渇が原因なのでしょうか? 巨大企業の場合はその可能性もありますが、中小企業、ベンチャー企業についていえば、別の原因のほうが多いようです。
では、飽和でも枯渇でもなく、まだ成長の余地がある状況にもかかわらず、なぜ多くの企業の成長は鈍ってしまうのでしょうか? この問いについては、次回に詳しく掘り下げます。
(つづく:「成長の限界」発刊から50年を振り返る)