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ピーター・センゲ 「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(6)」

2009年04月03日

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(image photo by Takuma Kimura on flicker)

(世界的なマネジメント・グールーで知られるピーター・センゲ氏がグローバル経済について語ったエッセイの続編をシリーズでご紹介しています。今回はその最終回です。)

土着の文化、先住民族の文化に存在した「自己組織化」の知恵が、いま、企業で取り入れられている

企業のリーダーや教師、その他の専門家たちもまた、過去の英知や自分自身の経験を基に、より包括的で他と融和する生き方や働き方を創り出している。これには、全体論的な健康(身体的、精神的、社会的などすべてにおいて健康であること)から、修復的司法(犯罪を取り巻くあらゆるものの修復・回復を目指す司法)、そして学習者主体の学校教育に至るまで、世界のさまざまな動きが含まれる。相互依存が高まる中、多くの企業は、従来型のトップ・ダウンの支配体制が以前ほど現実的ではなくなっていることに気づいている。マネジメント階層のフラット化に努め、「自己組織化」をさらに進める企業がますます増えているのだ。自己組織化とは、上層部からの強制を最小限に組織を運営し、絶えず変化を周辺から中心へともたらす組織のことである。とはいえ、この私たちの旅はまだ始まったばかりだ。しかも、あらゆる従来型の組織には計り知れないほどのストレスがかかり、それによって階層化、硬直化が進んでいる組織もある。世界中への民主主義の広がりを西洋の理想の勝利であると主張するのは時代の流れであるが、実際には逆のことを経験する人は多い。新しい世界秩序の強制は、生き方が変容しつつあるさまざまな有権者に対して敏感に反応しない、権威主義的な組織の主導で進められる。しかし、自己組織化や自己統治の考え方は、昔から世界中に、たとえば土着の文化や先住民族の文化の中にも存在し、人間はどこにいても自然の導きによって生活できるよう自然に対する理解を深めようとしてきた。

眠れる「民主主義」~未だ歴史につづられぬ、本当の姿~

おそらく、科学の時代は今まさに別の段階に進もうとしている――そして民主主義にもまた同じことが言える。私たちは民主主義をきちんと理解していないのではないだろうか。西洋的な還元主義の科学(複雑な事象をその構成要素に分解して理解することで、事象全体を理解しようというもの)と同じように、民主主義に関する現在の「ワシントン・コンセンサス」という考え方は、強大な力と同時に大きな制約も併せ持つ、一つのプロトタイプに過ぎない。大半の米国人は、民主主義を一着の古い洋服のような、いわば遺産のようなものだと考えている。だが実際には、私たちが今でも民主主義を学び、創造しているとしたらどうだろうか? より望ましい世界の未来を創るために、もう十分に分かっていると思い込んでいる教えをあらためて認識し、もっと効果的に取り入れなくてはならないとしたらどうだろうか?

ウォールト・ホイットマンは1871年に刊行された自著のエッセイ『Democratic Vistas』(邦訳:『民主主義の展望』佐渡谷重信訳、講談社)の中でこう書いている。

われわれはよく民主主義という言葉を書いてきた。だが私は繰り返し言いたい。この言葉は、本来の主旨がまだ完全に目覚めていない、眠ったままの言葉であると。民主主義は偉大なる言葉であるが、その歴史はまだつづられていないのではないか。なぜならその歴史がまだ演じられていないからだ。民主主義という言葉は、よく使われるもう一つの偉大なる言葉、「自然」という言葉の弟分のようなものである。この言葉もまた、歴史がつづられるのをじっと待っている。

今この時代にホイットマンが生きていたら、きっと彼は、米国の民主主義についてではなく、グローバル社会と、そのまだ書かれていない自然とのつながりについて書こうとしていただろう。グローバル企業の幹部たちと腹を割って話してみると、ほとんどの場合彼らが本当に関心を寄せているのは、資本コストや売上利益率ではなく、彼らが後に残していく世界の社会的、政治的な持続性である。彼らもまた、未来をまるで違う世界だと考えている。未来がもっと居心地の良い場所になるとしても、そうした未来を創れるかどうかは私たちの肩にかかっているのだ。

(おわり)

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