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「学習する組織」とは、いかなる組織でしょうか?
学習する組織に関するさまざまな定義があります。もっとも一般的には、「目的を効果的に達成するために、組織のメンバー及びチームの能力と意識を伸ばし続ける組織」と定義されます。「学習」というと、「お勉強」と捉えがちですが、むしろその反対です。学習は、目的を効果的に達成することに主眼が置かれ、日常の仕事が効果的であるか、組織として共同で振り返りをして個人と組織の能力・意識を高めます。
このような定義をふまえて、私たちチェンジ・エージェントでは、変化の激しい事業環境において、「しなやかに、進化し続ける組織」こそが、学習する組織ではないかと考えています。
「しなやかに」あるというのは、強い衝撃や急激な変化に耐え、あるいはその後に回復する力を持っていることです。システム思考の専門用語で言えば、「レジリエンス」(弾力性)のある組織だといえるでしょう。
たとえば、企業不祥事が後に絶えません。しかし、ある企業は不祥事をバネとして変化することができる一方、いくつかの企業は倒産や身売りなどの崩壊を迎えます。これは単に企業の規模や財力だけで決まるわけではありません。まさに、企業の「しなやかな強さ」の違いが現れているのです。
「進化し続ける」というのは、激しい環境変化のもとでも、新しい環境に適応し、自らを変革させる能力を備えた組織です。システム思考の専門用語では、「自己組織化」することができる組織です。
規制緩和、競争参入、ブレイクスルー的な技術革新、グローバル化など、さまざまな環境変化の下で、自ら変革のできない組織はその進路に窮しています。19世紀のアメリカの鉄道業界は産業界の雄として君臨しましたが、20世紀のモータリゼーションの影で存在感はすっかりなくなってしまいました。時代を先読みし、自らのあり方、戦略を常に見直して、自ら進化し続ける企業は躍進し、永くその存在意義を全うできます。
では、「しなやかに、進化し続ける組織」は、どのように創ることができるのでしょうか?
ソサエティ・フォー・オーガニゼーショナル・ラーニング(組織学習協会)の設立者であるMITの上級講師ピーター・センギ氏(日本語著書の表記ではピーター・センゲ)は、その著書「The Fifth Discipline 2nd Edition」(弊社で邦訳中)で、学習する組織を構築する3つの柱を挙げています。
1) 志を立てる力 ~組織と個人のビジョン
2) 複雑性の理解力 ~システム思考
3) 共創的な対話力 ~メンタル・モデルとダイアログ
これらの3つの能力を高めることは、自己組織化の条件を満たすとともに、レジリエンスに必要なシステムの多様性やガバナンス構造、自然資本や社会資本などにもつながります。組織内の人と、組織外の社会やステークホルダー、自然資本などの生命のつながりが重視されています。このアプローチは、20世紀に主流を占めたプラニングとコントロールを中心として、人や組織を機械とその歯車にたとえるような非人間的、無生物的なマネジメント手法とは一線を画しています。
3つの能力をたゆまなく伸ばすことによって、人や他の生命とのつながりはその潜在的な創造性を遺憾なく発揮し、組織の学習する能力はコア・コンピタンスといえるレベルまで高まり、戦略上も、財務上もさまざまなメリットをもたらします。たとえば、シェル、HP、インテル、サウスウェスト航空などは、学習する組織の実践を通じて組織の学習能力を高め、躍進している企業です。
学習する組織は、多様な個性がその潜在能力を発揮し、より上位にある大きな意思とのつながりのもとに社会的使命を達成する、生命力に満ちた組織であるともいえるでしょう。
日本でも、人こそが組織の力の源泉とよく言われています。その人の力、組織の力を最大限活かすためには、どのようにすればよいのか。このシリーズでは、学習する組織を構築するための基本的な考え方や実践、事例などを紹介していきます。