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小田理一郎「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」(5)サプライ・チェーンに起こった変化

2010年12月21日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」の5回目です。プレゼンテーションのスライド及び第1~4回の講演内容は、ページ最下部のリンクからご覧いただけます。)

Uの底を通り抜け、再び上がっていく中新しいものを形にしていきます。サステナブル・フード・ラボでも、さまざまなパイロット・プロジェクトのアイデアを次々と考え、すぐに実行にかかりました。

まず、サプライ・チェーンの上流と下流の関係性を変え、全体の最適化を目指そうというアイデアが出ました。あるいはグリーン購入を進めようという話も出ました。できるだけ環境や農業従事者に悪い形にならないような購買基準を設けて、それを会社のルールに、やがては業界全体に影響を与えていこう、といったことを考えました。システムの構造のどこに働きかければいいか、という視点です。

具体的にはシスコとIPM研究所の例があります。シスコはアメリカで最大の流通業者、IPM研究所はIntegrated Pest Managementという、殺虫剤の使い方に関して新しい手法を提供しているところです。この両者で、化学物質と自然資源の利用を削減するサプライヤー向け調達基準を開発しました。これによって、初年度だけでも化学物質の使用量が14万キロ削減でき、取引先や農家にこの基準を適用し始めています。

また、深刻な漁業問題を抱えるアフリカのビクトリア湖に関して、スーパーマーケット・チェーンを展開するカルフールとメイヤー財団が、現地組織とともに漁業のあり方や貧困対策について話を進めています。

あるいは、アメリカのグリーンマウンテン・コーヒー・ロースターズ社はNGOと協力して、コーヒー畑の生産者が肥料を調達する際に、地域の貧困に与える影響を測る「貧困指標」を導入し、その生産者からコーヒーを買うかどうかを決めているといいます。

それから、世界の紅茶の12%を占めるユニリーバのリプトンは、商品の50%がレインフォレスト・アライアンスというNGOの有機認証を受けています。2012年までには残りの50%も認証付のものに替える計画です。

グアテマラの零細農家から豆を買っているコストコでは、やはりNGOと協力して、サプライ・チェーンにおける利益配分に関する情報を互いに開示し、農家の生活向上に努めています。こうした情報は交渉の際に明かさないことがふつうです。ここでは、ラーニング・ジャーニーに参加した法務担当社が副社長に掛け合い、自分のキャリア生命をかけるほどの説得をして、まず自社の財務構造を周りに開示することにしたのです。

すると、「コストコがやったんだから、自分たちもやろう」となり、流通過程のすべての人が情報開示に踏み切りました。その結果、どこでどう調整すれば、農家にまともな生活ができるようなお金が回るかが見えてきたといいます。

これらがサステナブル・フード・ラボのいくつかのプロジェクトの例です。1つの組織や1人でできないことを、仲間を集めて一緒にやることで解決できる例でもあります。多様な仲間が集まらなければ効果が上がりませんが、いろいろな意見がでる一方で利害の食い違いも生まれます。それを乗り越えるために協力し合うプロセス、それは参加する人の意志の力ですが、そういったことを培ったプロジェクトです。

こういう場でのリーダーシップとは、ピーター・センゲの言葉を借りれば、「みんなが大切と思う結果をつくり出す能力」です。リーダーシップというのは目的に対して結果をつくり出す能力だ、と言われることが多いでしょう。しかし、彼が強調するのは「みんなが大切と思う」という点です。

言い換えれば、チェンジ・エージェントになる能力です。そのためには共有ビジョンをつくること。そしてその前提として、それぞれの人がどういう変化をつくり出したいのか、その変化にどういう心のありようで臨むのか、そういったことを共創的に対話する力がリーダーシップには求められます。自分のメンタルモデルはいったん脇に置き、チームで対話をする力です。

そして最後に、それを束ねる力としてシステム思考があります。複雑性を理解することと、周りの人たちと対話・協力しながら自分が実現したいことを形にすること。この2つのバランスを保つ上で、つなぎ役を果たすのがシステム思考です。

では今日のまとめです。まず、物事をさまざまな視点で見ること。安全な場をつくること。自分をさらけ出すとことも、ときに重要な役割を果たします。明確な意図を持ちつつも、形にはこだわらないこと。自分の思い込みやこだわりも、それが役に立たないと思えば手放すこと。そして関係者を招き入れて共有ビジョンを一緒につくること。手と体を動かして変化を形にすること。学び続けること。そして仲間をつくり、つなげ、増やすこと。最後に、チェンジ・エージェントに常に必要なことは、未知への好奇心を持ち続け楽しむことだと思います。

私たちは、みんなが本当に大切と思う変化をつくろうとする人たちを応援し続けていきたいと思っています。ご静聴ありがとうございました。

(終了)/5


▼プレゼンテーションスライド
http://change-agent.jp/files/Riichiro_Oda_on_Change.pdf

▼講演録
(1)「変化の理論、3つのポイント」
http://change-agent.jp/news/archives/000388.html
(2)「人を変える前に自分が変わる」
http://change-agent.jp/news/archives/000390.html
(3)「U理論で食糧システムの転換に挑む」
http://change-agent.jp/news/archives/000391.html 
(4)「メンタル・モデルから自らを解き放つ」
http://change-agent.jp/news/archives/000396.html
(5)サプライ・チェーンに起こった変化
http://change-agent.jp/news/archives/000400.html

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