サステナビリティ

Sustainability

ハーマン・デイリーのピラミッド

経済成長は人類の幸せにつながっているか

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図の中で、赤くなっている人工資本(工場、設備など)と人的資本(労働、知識、スキル)のところに、財務資本を加えたものが一般に考えられる経済の範囲です。

経済は、自然資本からさまざまな資源やエネルギーを得て、また排出物を吸収してもらっています。そして、自然資本と人的資本から得たインプットをもとに、財やサービスを社会と人々に提供しています。その社会資本(人々のつながり、共同体、文化、情報など)と人的資本(健康、知識など)が、幸福(ウェルビーイング)につながっていきます。(この図ではもっとも基幹となるつながりだけを示し、他の実存しうる多くのつながりを省略しています。)

この図が示す重要な意味合いは、人々の幸福を究極の目的に据えるならば、経済は中間的な手段に過ぎないということです。現実には、経済が財やサービスを生み出すことも大事ですが、幸福を追求する上でもっと重要なのはその財やサービスの配分や、経済の対象の外にある人々のつながり、共同体、文化などです。

別の言い方をすれば、経済がそのアウトプットを最大化したとしても、世界の人々の最大多数の最大幸福を得られる保証はありません。日米英などの先進国の調査によると、一人あたりのGDPが上がっても人々の幸福度はこの30~40年間ずっと横ばいまたは近年下降しています。世界全体で見れば、人々の貧富の格差は経済が成長すればするほど広がり、多くの人々が幸せを希求する基本条件すらままならない生活を送っています。現在の経済はムダなアウトプットを多く出す一方で、文化や共同体、人々のつながりを損なう活動を多く生み出しているからだと考えられています。

もう一つ重要な意味合いは、経済は、究極的な手段である自然資本がなくなってしまったら、もはや成立しえないことです。たとえお金や工場や設備があっても、原材料やエネルギー、水、さまざまな資材などが届かなければ、稼働することはできません。経済は、お金や工場が動かすのではなく、人や自然や社会の信頼を含めたあらゆる要素によって成り立っています。

何がその活動量を規定するかは、必要要因のうちもっとも供給量の低い因子によって全体が決まる「最小律の法則」で決まります。金余りの時代と言われる今日、もっとも希少価値のあるのは、もはやお金ではなく自然資本となっています。資金の相対的重要性が下がっているにも関わらず、19世紀の資本主義パラダイムと20世紀の成功体験を、環境が変化した21世紀にそのまま持ち越しているのが現状ではないでしょうか。

金融資本主義から、いのちを育む資本主義へ

稀少化した自然資本を保全し、価値を高めるには、経済への投入と経済からの排出を最小化することも大事ですが、それだけでなく、自然資本そのものが減らないことを目標とすることが必要です。自然との共生なくして経済は持続できないからです。

加えて、地域の共同体や文化、人とも共生する経済が社会より強く求められていくでしょう。これからの社会が要請するのは、自然や人、共同体と言った「生命資本」を基盤とした、「いのちを育む」企業や自治体となることでしょう。

チェンジ・エージェントでは、デイリーが示すような大きな視点で経済を捉え、「いのち」を大切にする政府や企業のビジョン・方針・戦略策定と組織づくり、人材づくりのお手伝いをしています。

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